億単位の金を毟り取られた木本武宏。まず最初に覚えなければならない金融リテラシーとは?

億単位の金を毟り取られた木本武宏。まず最初に覚えなければならない金融リテラシーとは?

芸人・木本武宏の被害総額は6億円強だが、下手に人を信用すると根こそぎ毟られる。成功している詐欺師は、気が利いて、言葉もていねいで、物腰も柔らかい。しかも知的で頭の回転が良く、話す内容にも非常に説得力がある。詐欺師もカルトも口当たりが良くて、だから騙される。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。まぐまぐ大賞2019、2020年2連覇で『マネーボイス賞』1位。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」、投資をテーマにしたブログ「フルインベスト」を運営している。「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」を発行、マネーボイスにも寄稿している。(連絡先:bllackz@gmail.com)

素人が素性の知らない人間を信用して起こった悲劇

大阪出身の芸人である木本武宏という男が6億円とも7億円とも言われる投資トラブルを引き起こしてレギュラーは降板、所属している事務所もクビになり、現在、その金策に奔走しているというニュースがあった。

何があったのか事情聴取した事務所も全貌がつかめない状況であるというので、報道されている内容以上に何か込み入った事情があるようにも見える。投資と言っても対象は幅広いが、彼は何に手を出していたのか。

ひとつはFX(為替証拠金取引)、もうひとつは不動産投資であったという。

興味深いことに木本武宏自身が投資をしたわけではなく、仲間に投資を持ちかけて知り合いのトレーダーや投資家に運用を委託していただけだった。つまり、木本武宏は「投資を持ちかけて人を紹介した」役割を果たしただけで、本人は紹介料を取ったわけでもないし、リベートを運用者から取っていたわけでもない。

問題だったのは、この木本武宏が紹介したFXのトレーダーと不動産投資家が共に詐欺師であったというところだった。他人の金を運用するには金融商品取引法に則った登録が必要なのだが、2人とも登録はしていなかった。

そして、片方のFXトレーダーは運用した形跡もなかったようだ。金を持ってそのまま行方をくらまして今も行方が分からないような報道が為されている。

木本武宏を事情聴取した事務所ですらも全貌が分からないと匙を投げてクビにしているのだから、上記の状況もどこまでが本当でどこまでが嘘なのか、あるいはどこまで裏が隠されているのかはまったく分からない。

しかし、1つ言えることは、投資の素人が素性の知らない人間を信用して起こった悲劇であるということだ。

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木本武宏は「投資で失敗した」のではなかった

木本武宏が「投資」にハマったのは仮想通貨がきっかけであったという。たまたま買ったビットコインが爆上げして味をしめた木本武宏は、そこから「投資」に目覚めて深入りしていった。

木本武宏は「レバレッジをかけたら儲けも大きくなる」と感銘しているのだが、FXは大体3倍以上のレバレッジをかけてやるのが一般的だ。レバレッジをかけて勝負することに感銘していたというのであれば、木本武宏のレベルもその程度であったということになる。

木本武宏はこのFXトレーダーをなぜか心底信用していたらしく、契約書も借用書も交わさずに金を貸していた。

トレードの画面を見せられて、もっともらしい説明を受けて感銘していたようなのだが、後で分かったのはそのトレードの画面というのは、ただのデモ画面であったというのである。

要するに、FXのプロのように振る舞った詐欺師をすっかり信用して、ただのデモ画面を見せられて感銘を受けていた。それで友人たちにも投資を募って、利益はドルで払うとか仮想通貨で払うとか言われて、よく分からないまま了承して、そのままトンズラされたと木本武宏は語っている。

当然、木本武宏はこの詐欺師を刑事告訴することになるのだろうが、自分が損するだけでなく、自分の知り合いをも巻き込んでしまったので、このような大トラブルに発展することになった。

しかも、このFX詐欺師だけでなく、不動産投資家の方にも騙されているわけで、二重にも三重にも脇が甘かったということになる。

ここから見えてくる現実は、木本武宏は「投資で失敗した」のではなくて「人を安易に信用して失敗した」ということである。投資が問題なのではなかった。それ以前に詐欺師にうまく丸め込まれる性格が問題だったのである。

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金を出せ=詐欺師=全力で離れなければならない人

安倍晋三元首相を撃った山上徹也の母親はカルト宗教に騙されて金を根こそぎ奪われて、それが事件の大きな原因となっているのだが、ここでも「悲劇」は「カルトを信じて失敗した」ということである。

現代の弱肉強食の資本主義では「金こそすべて」という思想が渦巻いている。この「金こそすべて」を極限まで突き詰めているのが詐欺師やカルトやセミナービジネスなのだが、すべてはターゲットに「信用させる」ことからすべてが始まっている。

私は東南アジアのアンダーグラウンドに長くいたので、私のまわりは詐欺師だらけで私も何度も詐欺師にアプローチをかけられている。だから、よく分かるのだが、詐欺師はいかにも詐欺師みたいな胡散臭い姿でやってくるわけではない。

逆だ。成功している詐欺師であればあるほど、清潔感に溢れて、優しくて、気が利いて、言葉もていねいで、物腰も柔らかい。しかも知的で頭の回転が良く、話す内容にも非常に説得力がある。

そのため、自ら「信じたくなる」のである。

裏の世界や底辺の世界では、マフィア・チンピラ・ゴロツキが山ほどいるのだが、そうした人間は遠くからも見て分かるので避けようと思ったら避けられる。避けられないのが、一緒にいると居心地の良い人なのである。

詐欺師は信用されるために最初だけは誠心誠意いろいろ親切にしてくれるので、詐欺師が最も理解ある人のように見えてしまう。そして、詐欺師が仕掛けてきた時は、「疑うのは悪い、信用してみよう」という気持ちになってしまう。疑うのが申し訳なくなるのだ。

では「仕掛け」は見抜けるのか? 私は「金を出せ」という話になった瞬間に、冷めた目で相手を見る癖が付いてしまっている。詐欺師の目的は99%は金なので、「金を出せ」という話になったら、どういう状況であれ目の前の相手に対する信用をいったん遮断する。

途中まで騙されても、「金を出せ=詐欺師=全力で離れなければならない人」と私は自分の中でルール付けしている。

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まず最初に覚えなければならない金融リテラシーとは?

日本人は「海外で騙されやすい民族」であると言われているのだが、それは日本の社会はあまりにも誠実な人が多いから起きていることの裏返しであるのは明白な事実である。

日本社会が詐欺と騙しが横行する社会であれば、「他人は信用するな」という警戒心が極度に磨かれるだろう。しかし、悪人がいない社会ではそうした警戒心は磨かれないし働かない。だから、治安の良い社会から来た人であればあるほど騙されやすい。

私は警戒心が高い方だが、それでも海外では私の警戒心を上回るほど他人を信用させるスキルを持った詐欺師に遭遇することもしばしばある。しかし、私が最後の最後まで致命的なことにならなかったのは、「金を出せ=詐欺師」という原則を自分に叩き込んでいたからでもある。

「疑ったら悪い」とか、「今まで良くしてくれたから信じて上げるべきだ」とか、「人を裏切るよりも裏切られた方が良い」とか、「もし目の前の人が本当に善人だったら申し訳ない」とか、そういう感情は一切持たない。

「金を出せ」というシチュエーションになった時点で、「ハメられた」と考えるようにして、目の前の人物を自分から遠ざけることに全力を尽くす。

私も日本人なので、騙されやすい気質がある。それを自覚しているので、いつの間にか寄ってくる詐欺師は避けられないし、どうしても途中まで詐欺のシナリオに巻き込まれるのは致し方がないと考えている。

しかし、「金を出せ」という状況になったら、とことん逃げる努力をする。私が他の日本人と違うのは、それを徹底していたことにあると考えている。

そういう目で木本武宏が引き起こした投資トラブルを見ていると、「金を出せ=詐欺師=全力で離れなければならない人」という考え方を条件反射のように叩き込むのが、真の金融リテラシーなのではないのかと思ったりする。

まず最初に覚えなければならない金融リテラシーとは、自分が詐欺師のカモにされないことである。

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