日本は30年に渡ってまったく成長できない異様な社会となった。そして三高の男どころか普通の男ですらも限りなく少なくなり、普通以下の男たちはもう自分が生きるのに精一杯だ。結婚数も出生数も為す術もなく減少し、岸田首相だけが「異次元の少子化対策」と空虚に叫ぶ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
婚活女性が考えている「普通の男」は普通ではなかった
女性は有利な結婚相手を探しているのだが、ほんの10年ほど前までは「結婚するなら年収1000万円以上の男がいい」という凄まじく高望みで一方的な希望が婚活サイトに蔓延していたのが話題になっていた。
しかし、「30代前半の独身男性で年収1000万円以上」というのは日本にはわずかに0.14%しか存在しないと糾弾され、しばらくしてからは「高望みはやめて普通の男でいい」という話に変わった。
ところが、その「普通の男」の定義も「年収500万円以上・大卒・身長170cm以上・正社員・長男以外・清潔感がある・常識やマナーがしっかりしている」というものをすべて満たすものであるというので、かなり炎上した。
この条件をすべて満たす「普通の男」は、ほとんどいない。
年収500万円以上の結婚適齢期の正社員の未婚男性は、それだけ限って見ても全体の10%に過ぎない。この10%の中で、高身長で長男以外という属性も入れると、さらにパーセンテージは低くなる。
結婚相手が見つからないのは、「普通の男」ですらも難関だからである。しかし、婚活をしている女性にとっては現実が見えていないようだ。
実はこれと同じことを、バブル時代の日本女性も求めていたことがある。いわゆる「三高」というものだ。三高とは「高学歴、高収入、高身長」を指す。
この高学歴・高収入・高身長というのは、要するに「社会的地位の高い金持ちの男」を意味している。そういった男でないと結婚対象にしたくないと女性は言った。いつの時代でもそういう傾向はあるが、1985年から1990年までのバブル期は特にそれが顕著だった。
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「高学歴、高収入、高身長」を求めていた女性もいた
この「三高」は、最初は女性のシビアな要求というよりも、本音を少し交えた冗談のようなものだったかもしれない。しかし、中には本気でこの「高学歴、高収入、高身長」を求めていた女性もいたのも事実だ。
1980年代の後半になればなるほどバブルの度は深まっていき、世の中が「金こそすべて」に染まった。若い女性たちもまたそんな時代の風潮を敏感に感じ取って贅沢を求め、踊り狂うようになっていった。
本当に日本の女性たちが拝金主義に染まっていったのだ。
こうして女性の要求が高まっていけばいくほど、男たちは女性に反発したり絶望したり困惑したりした。そして、スペックを満たしていない男たちは、次第に結婚をあきらめるようになっていった。
何しろ世の中の男のほとんどは「三高」に当てはまらないし、もし当てはまったとしても、愛よりも属性(スペック)で男を選ぶ女性には嫌悪感や警戒心を持つ。
「こんな女たちは、自分が贅沢したいがために男を利用する気だ」と心の底で思う。
結婚してからもあれこれ要求されたらたまらないし、世の中はいつも良いときばかりではない。困難の時代に入った時、「三高」を求めて近寄ってきた女性はさっさと去っていくかもしれない。
つまり、世の中が拝金主義になって、結婚に対して女性の要求が増えれば増えるほど、男は結婚するよりもひとりでいることを望むようになる。
「三高」を求める女性は、要するに男に寄生する魂胆があると男は感じる。だから、女性が「金こそすべて」に染まってしまうと、男は女性を満足させることができないと思って自ら身を引く。
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「高いスペック」に応えられなくなってしまった
皮肉なことに、「三高」を求める女性が増えていく中で、時代は急激に変化していた。
1990年に入ってから日本の狂乱バブルは急激に崩壊し、株式市場も不動産市場も二度と復活することがないほどダメージを受け、バブルに踊った人たちもことごとく破綻していった。
日本の経済環境はますます悪化していき、日本人の男は「三高」を満たすことが事実上「不可能」と化した。相変わらず女性が求める「高い属性(スペック)」に応えられなくなってしまったのである。
さらに2000年代に入ると、もっと悲惨なことになった。若年層は仕事すらも見つからなくなって、就職氷河期の中で苦しむようになったのだ。
小泉政権時代になると、日本でも自由競争という名の弱肉強食の資本主義が発足した。これによって企業は好きに正社員をリストラし、派遣労働者を使い捨てにするようになっていく。
若年層はみんな追い込まれた。正社員の雇用は極度に減り、非正規雇用しか仕事が見つからない人が増え、若者の貧困と格差が広がっていくようになった。
その結果、どうなったのか。男たちがもう女性と付き合うことをあきらめ、結婚もしなくなった。しなくなったのではなく「できなくなっていった」のである。
そんな状況で、一方の女性自身も非正規雇用やパートでしか仕事が見付からなくなっていた。結婚できない女性が増え、さらに仕事も見つからない女性も増えた。今では女性の3人に1人は貧困である。
経済の悪化と共に離婚も増え、子供を抱えて養育費ももらえず、苦境に堕ちるシングルマザーも増えた。2010年代に入ると、もう女性たちは「三高」を求めるどころではなくなってしまっていた。経済情勢が悪化すると、今を生きるだけで精一杯と化す。
もはや今の日本女性には景気の良かったバブル期の残滓などまったくない。
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「金こそすべて」だったはずなのにどん底に堕ちた
弱肉強食の資本主義は社会の標準となった。若者の貧困、シングルマザーの貧困、子供の貧困、そしてリストラが恒常化したことによる中高年の貧困、増税や年金減による高齢者の貧困が社会を覆い尽くしている。
いまや、ほぼすべての世代に貧困が行き渡っていくようになっている。
「三高」の男どころか「普通の男」ですらも限りなく少なくなり、「普通の男」でない男たちはもう自分が生きるのに精一杯だ。そのため若い女性は結婚もできず、結婚しても離婚の危機に陥ることが多くなった。
岸田首相は「異次元の少子化対策をする」と空虚なことを言っているのだが、少子化を食い止めるためには若年層が安心して子供を産める社会にしなければならない。しかし、その前に若年層が安心して「結婚できる社会」にしなければならないわけで、それが最初の一歩である。
しかし、非正規雇用者が拡大していく2000年代に入ってから、婚姻件数は目に見えて減っている。2020年に入ってからはその落ち込みは極度なまでに大きい。
今のように国民負担率が約48%近い中で、今後も気が狂ったかのように増税・新税をしていき、電気代の高騰も解決せず、物価の上昇も止められないのであれば、経済的負担から婚姻件数がもっと減っていくのは誰が考えてもわかる。
今後は異次元の少子化対策と言っている間に異次元の少子化加速になったとしても不思議ではない。
危険なのは、この状況は現在の日本社会の状況から見ると、決して良い方向に好転しないことだ。これからも政治家は日本を立ち直らせることができそうもないし、企業は労働者を使い捨てするのは間違いないので、非正規雇用が5割を超える女性たちの苦境はますます大きくなってしまう。
バブル期の日本女性は「金こそすべて」だったはずなのに、皮肉なことに、それを強く望んだ時期から崖から突き落とされるかのように社会状勢が悪化している。そして、日本女性は次々と経済苦に落ちていく。
もう国も、会社も、社会も、誰も女性を守らない。家族との関係が希薄であれば、家族すらも守ってくれない。つまり、日本女性は自分で自分の身を守らなければならなくなっている。もう、結婚どころではないという話なのだ。