アルツハイマー病治療薬ドナネマブは、認知症に苦しむ日本には重要な製薬となる

アルツハイマー病治療薬ドナネマブは、認知症に苦しむ日本には重要な製薬となる

認知症の増加は私たちの想像以上に深刻な社会問題を引き起こす。だからこそ、認知症を治療する製薬ができるというのは、日本にとっても非常に大きな意義があることなのだ。エーザイのレカネマブに次いで、イーライリリーのドナネマブも世界中で受け入れられていくだろう。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

アルツハイマー病薬「ドナネマブ」

肥満症薬(GLP-1受容体作動薬)で世界最強の製薬企業となったイーラーリリー(LLY)だが、2024年7月2日、アルツハイマー病薬「ドナネマブ」が米食品医薬品局(FDA)によって承認された。

この承認は、アルツハイマー病の進行を遅らせる治療薬としては、エーザイのレカネマブに次ぐ2例目となる。

ドナネマブは認知症の原因物質のひとつとされる脳の有害なたんぱく質を除去する製薬である。アルツハイマー病を治すというよりも、早期の患者の進行を遅らせることで強い効果を発揮する治療薬でもある。

高額な治療費や潜在的な副作用リスクなど、ドナネマブにも見過ごせない課題も存在するのだが、認知症に効果を発揮する製薬はレカネマブくらいしかなかったわけで、これは医学の大きな一歩でもある。

年間治療費は約32,000ドル(約517万円)と見積もられているので、認知症になった誰もが受けられるわけではないのだが、それでも大きな需要があるのはたしかだ。何しろ、世界の認知症患者数は約5,500万人と推定されており、毎年約1,000万人の新規患者が発生する病気でもある。

認知症にもいろいろな種類があるのだが、アルツハイマー病がもっとも一般的な認知症の形態で、全体の60〜70%を占めると推測されている。寿命の関係もあって、女性のほうが認知症になる確率が2倍も高い。

2050年までに認知症患者数は世界全体で今の約3倍に増加して1億5,280万人が疾患にかかると報告されている。もちろん、日本でも認知症の患者はこれからうなぎのぼりに増えていく。

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日本は認知症の高齢者だらけになっていく

日本でいうと2023年は65歳以上の高齢者のうち約15%である462万人が認知症を発症していると推定されている。この数字は増加傾向にあり、2025年には約675万人(65歳以上の18.5%)に達すると予測されている。あと、25年くらいで約700万人弱にまで増えるのだから尋常ではない。

日本はすでに2022年の時点で、65歳以上の高齢者人口は3627万人に達している。総人口に占める高齢者の割合も29.1%と過去最高となっており、日本社会の高齢化はかなり進んでいる。高齢者人口の割合は世界で最高である。

団塊の世代(1947年〜1949年生まれ)が2022年から75歳を迎えはじめたことで、75歳以上人口が総人口に占める割合がはじめて15%を超えた。

いうまでもないが、年齢が上がるにつれて認知症の発症率も上昇する。85歳以上では55%以上が認知症になるので、あと10年経てば、日本は認知症の高齢者だらけになっていくのは「今から予測できている事態」でもある。

高齢者人口の増加は、医療・介護サービスの需要増加、年金制度への圧力、労働力人口の減少など、さまざまな社会的課題をもたらしていくのだが、日本政府は無能だし、何をするにしても政策担当能力がなく、さらに解決策は現役世代への増税しかしないので、日本社会は今よりも悲惨なことになりそうだ。

現段階でも実質的な国民負担率は5割を超えるような段階にきていて、多くの国民が「もう限界だ」と悲鳴を上げている。しかし、政府は高齢化問題をだらだらと放置するので、国民が支払わなければならない社会保険料は今よりもあがっていく。

高齢者が増えれば増えるほど、医療費や介護費用が増加していく一方でとまらなくなる。政府は「一億総活躍時代」とかいって実質的な「死ぬまで働け」政策を進めているのだが、後期高齢者になったら仕事など見つからないし、そもそも働く気力も体力も残っている人のほうが少ない。

まして認知症になったら、働くどころか介護が必要にもなってくる。

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認知症が増えることによって社会が壊れる

そのため、これからの日本では労働力人口が顕著に減少していくことになる。高齢者自身が働けなくなるし、親が認知症になったら親の介護のために離職する人が増え、労働力不足が二重に深刻化する。

そのため、経団連はもう日本人の雇用なんかあきらめて、早々に労働者を外国から連れてきて労働者不足を外国人で埋めようとしている。政府もまた日本人の人口問題を放置し続けて解決不能になったので、実質的な移民政策を推し進めている。

それで今、どうなっているのかというと、認知症の日本人の高齢者を狙って、人手不足の埋め合わせで連れてこられた外国人があらゆる詐欺をしかけて高齢者の財産を奪い取るという醜悪な光景が広がるようになってきている。

問題はそれだけではない。認知症の高齢者が増えることによって、自動車の運転や日常生活における事故リスクが高まっていく。今でも高齢者が車で道路を逆走したり、ブレーキとアクセルを間違えて車を暴走させたりしているが、それが毎日のように起こるようになっていく。

認知症患者の急増に対し、専門的な知識を持つ医療・介護従事者が不足する。すると彼らは放置され、認知症により社会参加が困難になり、高齢者の孤立が進む。そして、地域の相互扶助機能が弱まっていき、地方から社会が壊れていく。

最近、認知症の不明者が11年連続で増加し、2023年に全国の警察に届け出があった行方不明者は1万9,039人にのぼったと報告されている。

認知症の患者がふらりと外に出かけたあと、自分の家がどこにあるのかわからなくなる。自分の家だけではない。自分が何をやっているのか、どうしてそこにいるのか、どう解決したらいいのか、すべてわからなくなる。

時間や季節、状況を理解できなくなり、目の前のことだけにとらわれてしまう。そして、ひたすらさまよい歩いて行方不明になる。保護されても、自分が誰なのかを話すこともできない。

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イーラーリリーは長期投資にはうってつけ

認知症患者の増加は私たちの想像以上に深刻な社会問題を引き起こす。だからこそ、認知症を治療する製薬ができるというのは、日本にとっても非常に大きな意義があることなのだ。

イーライリリーのドナネマブは世界中で受け入れられていくだろう。エーザイとバイオジェンが共同開発・共同販売している先行薬のレカネマブは2030~2032年に年間売上高1兆円を目指しているのだが、イーライリリーのドナネマブもまたそれくらいの規模を狙える製薬となる。

実際の市場規模は薬剤の有効性、安全性、価格設定、競合状況、規制環境などの要因に大きく左右されるため、正確な予測は困難だが、需要がある分野なので、イーラーリリーが大きく成長していく可能性が高いのは揺るぎのない事実だ。

肥満症薬のマンジャロやゼップバウンドだけでなく、認知症薬のドナネマブでも大きな利益を得られる可能性があり、さらに潤沢な研究費でこれからも多くの新薬を出すのは確実だ。イーラーリリーは投資先としても非常に興味深い対象となった。

イーライリリーは、株主還元にも積極的な姿勢を見せている。

近年は配当金の増額と自社株買いの積極的な実施を行っており、2023年には年間配当金を1株当たり1.30ドルに増額し、自社株買いも積極的に実施した。

イーラーリリーの年間配当額は、2024年は1.96ドルだった。そこから毎年のように増額していき、2023年には4.52ドルにまで到達している。2024年は5.20ドルになるのではないかと予測されている。

今後も株主還元を重視した経営方針を継続していくはずなので、長期投資にはうってつけの企業であるともいえる。認知症という大きな社会問題を解決する可能性を秘めた製薬会社である。覚えておいても損はない。

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