トランプはバイデン政権を踏襲しない。トランプという変化に対応して生き残れ

トランプはバイデン政権を踏襲しない。トランプという変化に対応して生き残れ

アメリカの大統領選挙だが、高齢で精彩を欠くバイデン大統領と、タフな姿を見せるトランプ前大統領の比較で、トランプ有利の声が圧倒的になりつつある。トランプ前大統領が再選した場合、アメリカの金融政策がどのように変わるのか想定しておくのも悪くない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

中国に対してこれまでにないほど強硬に

アメリカの大統領選挙だが、通常は再選を戦う現職の大統領が有利となる。しかし今回は、高齢で精彩を欠くバイデン大統領と、タフな姿を見せるトランプ前大統領の比較で、トランプ有利の声が圧倒的になりつつある。

この数ヶ月で何が起こるのかわからないのが選挙なので、今後も紆余曲折と二転三転の出来事が起こって想定外の結果になることもあるかもしれない。

しかし、トランプ前大統領が再選した場合、アメリカの金融政策がどのように変わるのか想定しておくのも悪くない。

まずは、決定的に確実な要因として、トランプ新政権は中国に対してこれまでにないほどの強硬な立場を取ることになるだろう。

トランプ前政権時代から、中国に対する高関税政策や知的財産権侵害が疑われる企業への輸出規制などの攻勢が行われていて、バイデン大統領も基本的にこれを踏襲していた。トランプ新政権が樹立したら、中国共産党を「アメリカの国家安全保障に対する総合的な脅威」と位置づけ、さらに強硬な対中政策となるはずだ

おりしも副大統領候補であるJ.D.バンス氏も中国敵視を前面に打ち出しており、ロシア・ウクライナ問題を早急に収束させて、「本当の問題である中国」に集中できるようにすべきだと発言している。中国に対しては「アメリカ最大の脅威」とも述べている。

グローバル経済から中国を締め出すアメリカの動きは「本気」だ。トランプ新政権が樹立したら、露骨なまでにそれがあらわになっていくだろう。

そうであれば、投資家がやるべきことは、「中国企業に投資しない」「中国に依存するあらゆる企業に投資しない」ことを徹底することに尽きる。アメリカの対中政策はアメリカの同盟国も従うことが「強制」されることになる。そんな中で投資家が中国に目を向けたところで得るものはない。

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「石油を掘って掘って掘りまくれ!」政策

トランプは環境規制緩和と国内エネルギー生産拡大を支持している。そのため、エネルギーセクターに資金が集まりやすい可能性がある。

とくにトランプは化石燃料に対してはすこぶる積極的で「ドリル、ベイビー、ドリル!(掘って掘って掘りまくれ!)」と強い号令をかけている。

トランプ新政権は間違いなく、バイデン政権が強化した自動車の排ガス規制や自動車産業の発展を妨げている規制を完全に撤廃してしまう可能性が高い。グリーン・ニューディール政策にも反対し、「パリ協定」からもふたたび脱退するはずだ。

化石燃料に対する政府がかけた制限を撤廃し、石油・天然ガスプロジェクトを促進し、「石油を掘って掘って掘りまくれ!」政策に邁進する。あまり知られていないが、アメリカは世界有数の石油大国である。

アメリカの原油生産量は急激に増加しており、2022年の原油輸出量は日量平均360万バレルで、2015年比で約8倍に増加している。シェールオイルの採掘技術の進歩により、アメリカの原油生産が飛躍的に増加した。

液化天然ガス(LNG)の輸出も2016年比で約20倍に増加している。

バイデン政権は、このアメリカの潜在的な資源を「温暖化対策」を名目に封じ込めていた形なのだが、トランプ新政権はこれを解放する。とすれば、石油企業にとっては強い追い風となるのはいうまでもない。

トランプ政権は、この「掘って掘って掘りまくれ!」政策を約束して石油企業各社に大統領選挙の寄付を呼びかけたという情報もある。石油企業がそれに乗ったのかどうかは機密となっている。しかし、石油業界にとっては悪い話ではないので、おそらくトランプ再選のほうに賭けて寄付しているだろう。

とすれば、エネルギーセクターに投資するのは納得できる判断でもある。

ウォーレン・バフェットは、それ以前にアメリカの石油産業の生み出す継続的なリターンに目をつけて、オキシデンタル・ペトロリアム【OXY】に莫大な額を投資している。バフェットにも有利な状況になっていくだろう。

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ハイテク企業は厳しい立場になることもある理由

ハイテク企業については、プラスとマイナスが入り乱れることになりそうだ。というのも、ハイテク業界はパランティア【PLTR】のような企業をのぞけば、大半はリベラル寄りであり、トランプに対しては拒絶心が強く、トランプとの軋轢も多い。

とくにMeta【META】は、トランプの不利なフェイクニュースを垂れ流したり、トランプのアカウントを削除したりするようなことをしており、これによってしばしばトランプと対立を引き起こしている。

トランプは中国に強硬なのだが、TikTokについては擁護している。それはTikTokが好きだからではなく、TikTokがなくなるとMetaのような「有害な企業」が漁夫の利を得るのを嫌っているからでもある。

トランプはAmazon【AMZN】も嫌っている。Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスは、2013年にワシントン・ポスト紙を個人で買収したのだが、この新聞社はトランプに対しては辛辣なまでに批判していた新聞社だった。

これでトランプとジェフ・ベゾスに個人的な因縁が発生し、以後トランプはことあるごとにAmazonを批判するようになっている。

現在、アメリカはAI(人工知能)に邁進しているのだが、半導体を実際に製造しているのは台湾のTSMCである。トランプは「台湾はアメリカから半導体ビジネスを奪った。彼らはそれで莫大な富を得ている」と激しく憤っている。

このTSMCと密接にかかわり、中国市場に製品を売っているのがApple【AAPL】なので、対中強硬策が発令された場合はAppleについてもトランプの批判の矛先が向くことも考えられる。

こうした状況を鑑みると、トランプが返り咲いたらハイテク企業には、政治的な逆風が吹くことも想定される。とくにメガテックは、それぞれ非常に厳しい立場に立たされる可能性もある。

ただし、ハイテクの優位性はアメリカの優位性に直結するので、トランプはハイテク企業をつぶしたいわけではない。要するにトランプは「アメリカで半導体を製造して、中国にも台湾にも日本にも半導体の優位性を渡すな」といっている。

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トランプという変化に対応して生き残れ

トランプは厳格な金融規制が経済成長を妨げていると考えているので、金融規制緩和政策を取る可能性も高い。これによって銀行の融資活動が活発化し、経済成長と雇用創出につながると期待している。

そのため、トランプが再選されると、規制緩和で金融機関の収益性向上につながり、金融セクターは有利な立場となる。とくに米大手銀行は大きな恩恵を受ける可能性が高い。

具体的には、JPモルガン・チェース【JPM】、バンク・オブ・アメリカ【BAC】、ウェルズ・ファーゴ【WFC】などの大手銀行の株式が注目されることになる。ゴールドマン・サックス【GS】、モルガン・スタンレー【MS】などの投資銀行も規制緩和の恩恵を受ける。

興味深いことに、トランプは11月の大統領選で返り咲いた場合、政権の中核(コア)となる財務長官に、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)を起用することを検討していると述べている。

ジェイミー・ダイモンはアメリカ金融業界きっての有力者で「ウォール街の太陽王」ともいわれるような存在である。もし、これが実現した場合、ジェイミー・ダイモンが金融セクターに不利な政策を行うわけがない。そういう意味でも、金融セクターは絶対的に有利となる。

私自身はトランプが返り咲いたら、エネルギーセクターと金融セクターの二点に注目したいと思っている。

最近になって、このふたつのセクターを存分に含んだアメリカの高配当ETFである【VYM】も上昇しているのだが、案外シンプルに【VYM】の比率を少し増やしておいてトランプ政権を迎えるというのも面白いのかもしれない。

トランプはバイデン政権を踏襲しない。そのため、どのようになるとしても、今までの4年間とは違う世界になるのは覚悟しておく必要があるだろう。生き残るのは、強い者でも賢い者でもない。変化に対応できる者である。トランプという変化に対応して生き残る準備をすべきだ。

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