
AI・半導体セクターが動揺している。この先の読めない不安定な動きは投資家を恐怖に陥れる。「うかうかしていると、資産が減少してしまうかもしれない」という気持ちにとらわれるのだ。その恐怖から逃れるために、このセクターの株を売り飛ばした人も多いだろう。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
次第にギャンブル的な方向に引き寄せられる
株式市場は常に波乱が起こる場所だ。金利が上がりそうだといって株価が下落し、インフレがくると株価が下落し、失業率が上がると株価が下落し、政治家が失言すると株価が下落し、エネルギー価格が上がると株価が下落し、どこかで戦争が起こると株価が下落し、アナリストが悲観的なことをいうと株価が下落する。
決算が良ければ基本的には買いだが、それでも「将来の見通しが悪い可能性がある」というガイダンスがあったら、やはり株価は下がる。
常識的には株価が上がると思っても不意に下がることがあるし、下がると思っても意味もなく上がることもある。いろんな人がいろんな予測を立てるのだが、当たることもあれば大外れすることもあるのは、誰も状況が読めないからである。
そんなわけでほぼ8割以上の投資家は、予測できない上げ下げに翻弄されて、売ったり買ったりして、次第にギャンブル的な方向に引き寄せられる。そして、ギャンブルで勝てる人は本当に幸運な一握りの人だけなので、あとは株式市場の養分となっていくだけとなる。
これは、あたかも様式美のように毎回繰り返される動きだ。
2024年7月11日からアメリカのメガテック(Alphabet、Apple、Microsoft、Amazon、Meta、NVIDIA等)の株価がズルズルと下落していき、これによってAI関連銘柄や半導体セクターを中心に「下がるから売る」「売るから下がる」という状況になっている。
AI(人工知能)セクターは買われすぎなのかそうでないのか、ブームは終わったのかそうでないのか、バブルは弾けたのかそうでないのか。この楽観と悲観が交互に現れてボラティリティを高めている。
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弱気の投資家が一気に逃げ出す動きとなった
私自身はAI・半導体セクターには強気のまま継続しており、今の相場の下落やボラティリティに対してはとくに関心を持っていない。しかし、すでに7月の半ばからこのセクターに対する見解が大きく変化しているのは理解している。
機関投資家はFRB(連邦準備銀行)の金利引き下げが近々くるという見通しの中で、メガテックから小型株へ資金を移動している。
なぜ小型株なのかというと、金利が下がるからである。金利が下がると、資金が借りやすくなる。資金を借りなければ事業運営できない小さな企業が楽になっていき、業績を伸ばしやすいという特性がある。
逆にいうと、大型メガテックは別に運用資金を借りなくても自己資本でいくらでも事業展開ができるので、だからこそ利上げ局面で買われていた。しかし、AI分野の期待もあって、買われすぎという局面も発生してきた。
さらに半導体セクターには、トランプ前大統領が「台湾は我々の半導体事業をすべて奪った」と発言したり、バイデン大統領がより厳しい対中輸出規制を出したりしたので、多くの投資家が政治的リスクに動揺した。
そうしたことから、AI・半導体セクターに対して弱気の投資家が一気にそこから逃げ出す動きとなって今に至っている。
しかし、AIが大きなパラダイムシフトであるのは間違いないので、「それほど必死に売る必要があるのだろうか?」と考える投資家もいるわけで、そのせめぎ合いが大きなボラティリティを生み出している。
こうした先の読めない不安定な動きは投資家を恐怖に陥れる。「うかうかしていると、資産が減少してしまうかもしれない」という気持ちにとらわれるのだ。その恐怖から逃れるために、AI・半導体セクターを売り飛ばした人も多いだろう。
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売ってしまった投資家もいるはずだが……
AI・半導体セクターだけの話ではないのだが、優良企業の株を保有していたとしても、相場のボラティリティや、景気の変転や、金利の動きや、地政学的リスクなどで、下落につぐ下落に見舞われることもあるだろう。
その動きが数ヶ月も続くと、ほとんどの投資家は意気消沈して保有している優良企業の株式を売り飛ばしてしまう。
それがETFであっても同じだ。半導体セクターを扱ったETFでは【SMH】があるし、AIソフトウェアを扱ったETFでは【VGT】がある。あるいは、NASDAQ100をトレースしたETF【QQQ】を保有していた人もいるだろう。
このどれもが揃って下落しているので、売ってしまった投資家もいるはずだ。
投資家が疑心暗鬼に見舞われているので、たまに跳ね上がったところで、先行きの不透明さに恐怖を抱いている投資家のほうが多い。投資家心理がどう動くのか、そんなことは誰にもわからない。
しかし、よい企業であれば、株価が爆下げしようが景気がどうなろうが、構わずに保有したほうがいい。
メガテックが優良企業であり続けているのであれば、1年でも2年でも3年でも保有し続ければいい。ETF【SMH】【VGT】【QQQ】も、AI・半導体セクターのパラダイムシフトが社会を変革すると確信しているのであれば、辛抱強く保有し続ければいい。
優良企業は、一時的な市場の混乱や経済の停滞を乗り越える能力を持っている。これらの企業は、強固なビジネスモデル、優れた経営陣、健全な財務状態を有しており、長期的には成長し続ける可能性が高いからだ。
もちろん、これらの優良企業をパッケージ化したETFについても同じことがいえる。【SMH】【VGT】【QQQ】の構成銘柄が成長し続けるのであれば、その道のりは平坦ではなくても、いずれは上を目指していくのはあきらかだ。
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しばらく株式市場から遠ざかっておくのもいい
優良企業は、景気の良し悪しにかかわらず、適応し生き残る能力を持っている。景気後退期には、これらの企業は競合他社よりも強い立場を維持し、景気回復期には急速に復活し成長する。
さらに優良企業は、常にイノベーションを追求しており、市場の変化に対してもすばやく適応する。これにより、長期的な競争力と成長が維持される。そして、時間の経過とともに、優良企業は利益を再投資し、新しい事業機会を追求し、市場シェアを拡大していく。
メガテックなどを見てもわかるが、それぞれの優良企業は時間の経過とともに、ブランド価値も向上し、顧客ロイヤルティ(忠誠心)を高めていくので、強い企業がより強くなることが多い。
良い投資対象に投資したのであれば、あとは黙って保有しておくだけでいい。むしろ、一方的に下落して「売られすぎ」になっているのであれば、そこで買ってもいい。しかし、大半の人は売りたいと思っているときに買うというのは容易ではない。
そうであれば、しばらく株式市場から遠ざかっておくのもいい。ある投資会社の統計によると、もっとも投資で利益を出した顧客の大半は「口座を持っているのを忘れていた人」という話もあるくらいだ。
口座を持っていることすらも忘れていたら、株式市場が下落しようが何だろうが売ることもなく長期保有になる。そして、長期保有しているうちに、相場が戻ってもっと上がっていく。それが結果的にパフォーマンスを上げることになるのだ。
投資してしばらく株式市場を忘れるのであれば、AI・半導体セクターも、小型株も、高配当株も、すべてのセクターを含んでいるETF【VTI】をひとつだけ保有しておけば、それで完璧だ。あとは何もしなくてもいい。
よい企業であれば、株価が爆下げしようが景気がどうなろうが構わずに保有し続ける。こういうのが本当の「投資」なのだろう。
