現在、AI・半導体セクターは見捨てられているが、本当に弱気のままでいいのか?

現在、AI・半導体セクターは見捨てられているが、本当に弱気のままでいいのか?

セクターローテーションが起こって、AI・半導体セクターは見捨てられている。地政学的リスクもあって、短期的には不安定な展開が予想される。不景気と利下げが始まると、高バリュエーションのAI・半導体セクターは当分、見捨てられたままになる可能性もある。しかし……(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

今、半導体企業の株価が下落している理由とは?

アメリカの半導体セクターの株価は最近下落している。その大きな理由として、地政学的リスクが急上昇したことが要因として挙げられている。ひとつはトランプ前大統領の台湾敵視発言、もうひとつはバイデン大統領の対中半導体規制強化である。

トランプ前大統領は「我々はなんて愚かなんだろう。台湾は我々の半導体事業をすべて奪った。彼らは莫大な富を得ている」と述べて、半導体製造で非常に重要な役割を果たしている台湾を激しく批判した。

トランプ前大統領の真意としては「台湾で作っている半導体製造をアメリカに戻せ」ということなのだが、台湾を中心として緻密に組み上げられた半導体製造のエコシステムが急激に破壊されると、誰にとっても良い結果にはならない。

しかし、もし仮にトランプ前大統領が再選したら、それが強引におこなわれる可能性もある。そうしたこともあって、半導体セクターは激しく動揺した。

バイデン大統領が示した対中半導体規制を強化する方針については、たしかに中国を抑え込むためには必要不可欠な措置である。しかしデメリットとして、中国に半導体や装置関連を売っている企業の売上を単純に落とす結果ともなる。

この二点が半導体事業の地政学的リスクとして意識されることになり、今まで高いバリュエーションにあった半導体関連銘柄の株式の熱意を、一気に削ぎ落とすことになったのだった。

さらに、アメリカの景気が悪化しつつある兆候が見られるようになったことや、7月31日には日銀が利上げを発表したことも重なって、円キャリートレードの巻き返しも発生した。これも株式市場を大きく下落させる要因となった。

そこでも売られたのは、高く買われていたハイテク株やAI・半導体セクターであった。問題は、これからもAI・半導体セクターはだめなのか、という点だ。

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「AIというのはたいしたものは生み出さない」のか?

7月の半ばから地政学的リスクによって半導体セクターが売られるにつれて、投資家のあいだでは、もうひとつの懸念が生まれてくるようになってきている。その懸念というのは、こういったものだ。

「AIというのは何も生み出さないただのブームではないのか?」

たしかに、生成AIは質問したことをいろいろ答えてくれるし、いろんな画像や動画を作り出して私たちを楽しませてくれる。

しかし、「それくらいのことをメガテックが莫大な金額を投資してやるべきことなのか?」「費用対効果はあるのか?」という疑念が投資家に湧いてきたのだった。ようするにAIに対する期待は過剰すぎたのではないか、という疑心暗鬼のようなものが投資家のあいだに生まれている。

もし、AIがたいした成果を生み出せず、AIでさまざまなサービスを提供しても売上も上がらないのであれば、メガテックが半導体に費やした莫大な投資資金は完全にむだになる。巨大データセンターも巨大な負債になってしまう。

本当にそうなるのだろうか。

私自身はまったくそう思っていない。こうしたAIに対する懐疑論は、逆に「AIに対しての過小評価である」とも考えている。

AIは今後、企業経営の深い部分に入り込み、経営分析、経営判断、経営方針、経営スピードに欠かせないものになっていき、やがては企業の存続すらも左右することになるはずだ。それを確信させる企業がある。

アレックス・カープCEOが率いるパランティア・テクノロジーズ【PLTR】である。パランティアについては、こちらでも取り上げた。(パランティア。アメリカと敵対する国家とはビジネスをしない筋金入りの愛国企業

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その「次」は何かあるのか。あると確信している

macOS、WindowsなどのパソコンのOS(オペレーティングシステム)は数十年にわたりハイテクの基盤となってきた。今後もビジネスの現場で、これらのOSの重要性が薄れることはない。

2000年あたりからインターネットが爆発的な普及を見せるようになるとブラウザが人々の中心となっていった。私たちはブラウザをOSとは認識していないが、2000年代にビル・ゲイツは「ブラウザはインターネット時代のOSである」と認識していた。

そして、このブラウザはやがてスマートフォンの登場で人々の手の中に収まるようになった。その結果、スマートフォンを動かすiOSやAndroidなどのOSがパソコン以上の影響力を持つようになっていった。

その「次」はあるのか。

あると確信している。それは、たとえば「AIオペレーティングシステム」ではないだろうか。パランティアの幹部が、自分たちのAI搭載プラットフォーム(AIP)を「AIオペレーティングシステム」と呼んでいるのは興味深い。

パランティアのシステムは民間向けの「Foundry」と公共向けの「Gotham」という、ふたつの主要なサービスを展開している。

これらのシステムはともにインターネットにあるありとあらゆるビッグデータ(データベース、ドキュメント、センサデータ、SNS等)を取り込み、統合し、解析し、ユーザーの意志決定を提示する。

そして、ユーザーにアクションを促す。あるいは、アクションを自動対応する。

これまでの経営トップがおこなっていたカンや経験による重大な意志決定が、AIによって莫大なデータに裏打ちされた正確な意志決定となっていく。そして売上を上げ、企業価値を高める。

これは、まさに企業が切に求めていたものに間違いない。

そして、これこそ本当の意味のAIの真価である。このパランティアの生み出した「AIオペレーティングシステム」は、やがて個人にも浸透していくようになっていき、パソコンのOS、ブラウザ、スマートフォンのOSと同じような形で「AIのOS」として普及していくはずだ。

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現在、AI・半導体セクターは見捨てられている

パソコンは現代文明には欠かすことができない重要なハイテク技術である。1990年代にこの分野に投資した人々は大きなリターンを得ることになった。とくに覇者となったMicrosoftに投資した投資家は大きく報われた。

2000年代はインターネットが重要なハイテク技術となった。この分野に投資した人々は、やはり大きなリターンを得ることになった。インターネットの覇者となったGoogleやAmazonに投資できていた人々は大きく報われた。

2010年代はスマートフォンが重要なハイテク技術となった。この分野に投資した人々も、やはり大きなリターンを得ることになった。スマートフォンの覇者となったAppleやGoogleに投資した人々は大きく報われた。

もし、これからAIが大きなパラダイムシフトを起こすのであれば、このAIに投資する人々が大きなリターンを得ることになる。そして、このAI分野の覇者に投資できていた幸運な投資家は大きく報われることになるだろう。

このAIの頭脳となるものが、高性能の半導体であり、知識の蓄積となるのが想像を絶するほどスケーラブルなデータセンターである。この頭脳と知識(半導体とデータセンター)をフルに活かすことができるのが「AIオペレーティングシステム」である。

このように考えると、すべての投資家はAI・半導体セクターに注目し続けなければならないと思うはずだ。このセクターにかかわる企業の業績や成長期待は依然として根強いのは、こうした背景が裏側にあるからだ。

今、セクターローテーションが起こって、AI・半導体セクターは見捨てられている。地政学的リスクもあって、短期的には不安定な展開が予想される。不景気と利下げが始まると、高バリュエーションのAI・半導体セクターは当分、見捨てられたままになる可能性もある。ここから、さらなる下落もあるかもしれない。

しかし、こうした悪環境の中で、このAI・半導体セクターを見捨てないで静かに投資を継続しておくというのは重要ではないだろうか。個人的な見解をいうと、私はAI・半導体セクターには強気を維持し続けている。

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