弱肉強食の資本主義とは、大人が3歳児を容赦なく叩きのめすような残酷な社会だ

弱肉強食の資本主義とは、大人が3歳児を容赦なく叩きのめすような残酷な社会だ

小泉政権以後、日本は「格差は問題ない。落ちた人間は自己責任。這い上がれないのも自己責任」という社会に転換して、それが定着した。政治が率先してそのように導いている。だから、格差はこれからも凄まじい勢いで拡大していく。本当にこれでいいのだろうか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

社会から使い捨てにされる立場に追い込まれた

日本は2000年代に入ってから、弱肉強食の市場原理主義が急激に浸透するようになった。もちろん、それは意図的な動きだった。

小泉内閣は「改革なくして成長なし」と叫びながら、バブルで不良債権を抱えた企業や、中小企業を叩きつぶしてまわっていた。さらに2003年には産業再生機構を設立して企業のリストラを押し進めた。同じ時期、派遣労働法の改正もおこない、非正規雇用の範囲をほぼ無制限に拡げていった。

非正規雇用はバブルが崩壊した1990年からじわじわと増えていた。バブル崩壊の余波が深刻化して不景気が極まっていくと、企業はもう正社員を雇う体力が完全になくなって、「景気が悪くなったらいつでもクビを切れる人材」である非正規雇用を増やす方向に舵を切っていった。

1995年はすでに非正規労働者は約1,001万人で、雇用者の20.9%を占めていた。しかし、2022年にもなると、そこからさらに増加して約2101万人となり、労働者の36.9%を占めるほどになっていった。

こうした人材切り捨ての社会的変化によって、学歴が得られなかった若者やスキルのない若者が非正規労働に追い込まれ、低賃金・賃金格差・短い契約期間などで、どんどん生活が不安定化してくことになる。

「勝ち組・負け組」という言葉が生まれるようになったのも、若年層の非正規雇用者が増えてきたこの時期にいわれていた言葉である。正社員で企業に入れた人は勝ち組、非正規雇用の人は負け組という意味だった。

2005年あたりからは「ネットカフェ難民」という言葉も生まれてきた。非正規雇用で都合良くクビを切られるので生活が安定せず、もはや住居を借りる信用すらなくなって、若者がネットカフェで寝泊まりするようになっていたのだ。

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それによって経済的弱者が増えても構わない?

どんどん社会の底辺に蹴落とされていく若者は、間違いなくバブル崩壊と非正規雇用を増やすという「構造改革」が生み出したものであった。以後、彼らは資本主義社会から完全に脱落したまま這い上がれない生活を余儀なくされている。

小泉政権の内部で、この一連の「構造改革」の中心にいたのは竹中平蔵だが、広がる格差について意見を求められたとき、この男はこう答えていた。

「日本はまだまだ格差が少ない社会だ」

つまり、もっと激しい競争社会にして、それによって経済的弱者が増えても構わないというのが小泉政権のスタンスだったのだ。政府がそうした立場だったので、経済界は容赦なく社員を切り捨てて派遣に切り替えた。

景気もいっこうに回復しないので、1993年から2005年にかけては新卒採用も大幅に減らされていた。そのため、若年層は厳しい競争社会に放り込まれ、多くが非正規雇用者となった。

以後、日本は急激に派遣会社が巨大企業になっていくのだが、この派遣企業の利益はもちろん派遣された人間の給料のピンハネから出ている。

人間を派遣して、その給料から延々とピンハネする。悪条件でも、とことん労働させる。要らなくなったら捨てる。そして、彼らが貧困に落ちても「それは、その人の自己責任だ」とうそぶく。

これが「新自由主義(ネオリベラリズム)」の正体だった。

弱肉強食の市場原理主義を取り入れれば、そうなることは最初からわかっていた。なぜなら、資本主義の総本山アメリカがそうなったからだ。

アメリカではレーガン政権がこの市場原理主義を推し進めた結果、1%の富裕層と99%の低賃金層という超格差社会を生み出して、今でもその格差は広がっている。富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しくなっている。

最近の例でいうと、2024年6月にテスラのCEO(最高経営責任者)イーロン・マスクは、8.8兆円の巨額報酬を手に入れている。一方で、2022年の調査ではアメリカの貧困層は4,100万人に達している。

そして、2023年1月に実施されたポイント・イン・タイム(PIT)調査では、アメリカ全土で65万3,100人がホームレス状態にある。ホームレスではないが、ほぼホームレスに近いトレーラーハウス暮らしの人々は約2,000万人である。

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努力しても這い上がれない社会が来ている

資本主義的な競争を開始する時点で、大きな格差がついている。スタートラインが富裕層と貧困層とではまったく違う。正当な競争にならない。

貧困層は満足な給料がもらえない職業を転々とするしかなく、結局は働いても働いても豊かになれないワーキングプアが常態化してしまう。貧困が固定化するのは、次の5つの要因がある。

1. 生活に追われ、疲れて何も考えられなくなる。
2. 低賃金で自分も子供も教育が受けられなくなる。
3. 貯金を含め、あらゆるものが不足してしまう。
4. 這い上がれない環境から自暴自棄になっていく。
5. 社会的影響力がなく、権利は保障されない。

いったん貧困に堕ちると、この5つの要因が同時並行で始まっていき、その中で押しつぶされてしまう。

これは、アメリカだけの問題ではなく、今や日本の底辺の問題でもある。すでに、日本の底辺もこの5つの要因にがんじがらめにされて、這い上がるのが絶望的に難しい社会になった。

富裕層と貧困層の差は、埋まることはない。なぜなら、資産の増えかたがまったく違うからだ。

貯金や株式といった資産の額から借金を差し引いたものを純金融資産と呼ぶ。この金額が1億円以上あると富裕層と呼ばれる。仮にこの1億円の資産を配当率3%で3年運用したら、何もしなくても900万円に増えている計算になる。

複利で考えると、約927万円となるので、さらに27万円も加算される。富裕層は当然のことながら配当も足して複利で運用するのだから、ますます資産の増えかたが大きくなるのだ。ちなみに、1億円を年率3%の複利で10年運用すると1億3,439万円になっている。

この労せずに増えた3,439万円だけでも、貧困層は生涯手にすることができない貯蓄額である。

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本当にこれでいいのかと頭を抱えるばかりだ

日本人の平均年収は国税庁の「令和4年分・民間給与実態統計調査」をみると458万円となっている。458万円の収入の家庭が貯金をしようと思うと、だいたいは月3万円から4万円が限度だろう。

必死の節約で月4万円の貯金を3年続けたらいくらになるのか。144万円だ。

1億円の資産を3%で回せる富裕層は、何もしなくても3年で900万円以上も増えているが、年収400万円の人は必死で働いた中から貯金して144万円だと考えると、貧困層はもうやってられないような絶望的な気持ちになっても不思議ではない。

10年後、富裕層はいつのまにか3,439万円まで寝て遊んで増やしているとわかったら、なおさら気持ちは落ち込んでしまうだろう。

このような状況を見て理解できるのは、つまり資産を増大させる資本主義社会の競争の中では、富裕層は圧倒的かつ徹底的に貧困層に勝つという事実だ。富裕層が元本を減らすようなヘマをしない限り、常に貧困層との資産拡大競争は100戦無敗になる。

1%の富裕層と99%の貧困層の差が壮絶なまでに乖離していくのは、まさに大人と3歳児が殴り合うような格差が生じているからである。格差が解消されず、むしろ極限まで広がっていくのは、そういうことなのだ。

富裕層と貧困層の超えられない一線ができる。だから資産によって人々は分離し、この両者は次第に違う文化を生きることになる。

暮らす場所も、食べる物も、通う学校も、遊ぶ場所も、つき合う人も、考えかたも、すべて違っていく。この両者は互いに、階層が違う相手には無関心となり、話す言葉すらも違っていくようになる。

イギリスは富裕層と貧困層で話し方も文化も違った。そしてアメリカでは富裕層と貧困層が別の国の人間のように違う世界を生きている。

当然、これから日本もそうなっていく。格差は固定化して、下の階層に落ちてしまった人は資本主義から見捨てられていく。

小泉政権以後、日本は「格差は問題ない。落ちた人間は自己責任。這い上がれないのも自己責任」という社会に転換して、それが定着した。政治が率先してそのように導いている。

だから、格差はこれからも凄まじい勢いで拡大していく。残酷な世界だ。しかし、それが私たちの生きている世界である。そんな世界で、私たちは孤立無援で生き残らなければならない。本当にこれでいいのかと、私は頭を抱えるばかりだ。

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