2024年9月のiPhoneの発表イベントを見ながら私が思ったのは、技術革新の能力が研ぎ澄まされており、さらにAI時代に対する布石を確実に打ってきたので、次の10年もAppleは揺るぎなく成長できるだろうということだった。Appleに賭けるのは悪くない選択であると思う。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
Appleという企業の凄みは、ますます冴えている
Appleという企業の凄みは、ますます冴えているように見える。Appleの最大の強みは、革新的な製品を生み出す能力にある。
2024年9月におこなわれた最新のiPhoneの発表でも、先進的なカメラシステムや高性能チップ、長時間バッテリーなど、ユーザーのニーズを的確に捉えた機能が搭載されて、Appleの進化がとまっていないことを証明した。
iPhoneではカメラ部分の進化と使いやすさが興味深く、ハードとソフトウェアが完全に融合した使用感は、他社には真似できない部分でもある。そして、これがApple製品に対する大きな愛着を生み出すものとなっている。
そして相変わらずなのだが、Appleの製品は機能性だけでなく美しさも兼ね備えている。最新のiPhoneではチタニウムボディが採用され、高級感と耐久性を両立させた。
このようなデザインへのこだわりは、スティーブ・ジョブズが生み出したものであり、Appleの原点でもある。ティム・クックCEOはこのAppleの原点を見事に継承して企業文化として高めている。
そして、Appleの強さは、単一の製品だけでなく、複数の製品やサービスを連携させた強力なエコシステムにもある。
iPhoneとMacやApple Watchとの連携機能は、ユーザー体験を大幅に向上させている。たとえば、iPhoneの画面をMacでミラーリングしたり、Apple Watchをカメラのファインダーとして使用したりできる。
それが可能になっているのは、Apple自身が製品のデザインだけでなく、自ら半導体設計までおこなう能力と技術を持っているからだ。
この独自開発のチップに徹底的にチューニングされたのがiOSやiPadOSやmacOSやWatchOSであり、ハードウェアとソフトウェアの緊密な連携により、他社では追いかけることができない強烈なユーザー体験を追求することが可能となっている。
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徹底的なセキュリティの保証がAppleの強み
iCloudやApple Musicなどのサービスも、Appleのエコシステムを強化している。
これらのサービスは、ユーザーをAppleの製品群に囲い込む効果がある。ユーザーはしかたなく、この「Appleの世界」にいるのではない。よろこんでそこに飛び込んでAppleのエコシステムに浸っている。
Appleは徹底的なユーザー目線で製品を開発しているのだが、そのためにユーザーの情報の保護にも注力しており、最新技術を投入する際にもまずはユーザーのセキュリティをきちんと守ることを考え抜いてから提供するようにしている。
時代はすでに人工知能(AI)を中心にまわっているのだが、Appleが安易にAIに飛び込まなかったのも、ユーザーのデータをどのように守るのかという観点があったからだ。
Appleがこれから技術の中心に据えていくのは「Apple Intelligence」になるのだが、このAppleのAIもあらゆる段階でユーザーのプライバシーを守ることを目的として設計されている。
まず、Apple Intelligenceの多くの機能はデバイス上で処理されて、個人情報が外部のサーバーに送信されることがないように注意深く設計されている。しかし、より複雑な処理が必要でデバイスでは処理できないこともある。
Appleは、そのために「Private Cloud Compute」を準備してきた。
これはプライベートAI処理専用に設計された特別なクラウドであり、ここでは仮にユーザーの個人情報が送られたとしても、それがユーザー以外の誰にもアクセスできないようになっている。
Appleのスタッフも、Apple社の幹部でさえも、Private Cloud Computeに送られた情報をアクセスすることができない。つまり、管理者の特権的なアクセスは存在しない。ログ記録やデバッグなども保持されない。個人データは痕跡を残さずに消去されてプライバシーが守れる。
それを担保するために、Apple外部のセキュリティ研究者がPrivate Cloud Computeを検証できる透明性も確保することをAppleは約束している。そこまでして、Appleはユーザーのセキュリティを守ろうとしている。
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Apple IntelligenceとPrivate Cloud Compute
つまり、Appleは責任ある形でAIに取り組む姿勢を打ち出しており、今回はデバイス上のApple Intelligenceと、サーバーのPrivate Cloud Computeで、まずは「安全なAI」の土台を構築したという段階となっている。
いったん、この土台が構築されたのであれば、今度はそこからあらゆるアプリとサービスでAIを展開できる。
2024年9月の新型iPhoneの発表では、ガジェットとしてのiPhoneばかりが注目を浴びていたのだが、本当に重要なのは「Apple Intelligence」と「Private Cloud Compute」であったと私は見ている。
おそらく来年からのAppleは、全方位でAIを展開していく企業となっていくはずだ。
Microsoftも、OpenAIも、Googleも、Amazonも、Metaも、そしてNVIDIAも、目指しているAIは、データセンター上で駆動するAIである。しかし、AppleはiPhone上で駆動するAIを追求していくだろう。つまり、オンデバイスのAIを強化する。
かつてのiPhoneはインターネットを手元にもたらしたデバイスであったのだが、今後はAIを手元にもたらすデバイスとして進化していくことになる。
オンデバイスでAIが動くことによって、即時的な処理が可能になり、プライバシーとセキュリティはより強化され、利用シーンが拡大し、AIそのものがより個人的なものへと強化されていく。
その人のことを誰よりも知り尽くして最適な答えを教えてくれて、自分の秘密を誰にも漏らさない非常に親密なAIが生まれる可能性がある。まるでiPhoneの中に、自分の親友やパートナーや場合によっては恋人のようなAIがいてくれるような、そんな未来がくることを私は想定している。
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AIなしには暮らしていけない社会となる
次の10年は、Appleが今の私たちが想像もしていないようなAIとのかかわりを生み出すようになるのは100%間違いない。
もしかしたらAppleは、iPhoneや、iPadや、Apple Watchや、Apple Vision Proや、これから生まれる何らかの新製品で、次の10年で世界最強のAI企業として君臨している可能性もある。
現在でも、複数の製品とサービスが融合したApple独自の世界観は、全世界のユーザーに支持されている。だからこそAppleは、世界最強のハイテク企業として高い時価総額を誇っている。
2024年9月のiPhoneの発表イベントを見ながら私が思ったのは、今なおAppleは技術革新の能力が研ぎ澄まされており、さらにAI時代に対する布石を確実に打ってきたので、次の10年もAppleは揺るぎなく成長できるだろうということだった。
パーソナルなAI機能をデバイス上にうまく取り込むことができると、場合によっては企業の成長がブーストされる可能性すらもある。
今、まだ人々はAIといえば「文章を生成してくれる」「画像や動画を生成してくれる」という生成AIしか見ていないのだが、AIができることはそれだけでない。
画像や音声を認識してユーザーが知るべきことを教えてくれたり、莫大なデータを分析して的確な答えや行動を指示してくれたり、ルートやスケジュールやリソース配分を最適化してくれたり、運転やロボットや環境を制御してくれたりする。
そして、いずれは人間と同じくらいの能力を持つAGI(汎用人工知能)が登場して、次にはASI(人工超知能)が誕生してくる。人々はAIなしには暮らしていけない社会となる。Appleのデバイスは、そこでも大きな影響力を持つはずだ。
Appleは、私たちの手元に「自分に最適化され、あらゆる場面で自分のために最善の答えを教えてくれるAI」をもたらしてくれる企業となりえる。
AIに懐疑的な人や、Appleに懐疑的な人も多いが、私はそこに与《くみ》しない。Appleという企業の株式を保有しておくのは、今後も良い選択肢であり続けると考えている。10年後、どうなっているのか楽しみではある。