AIの頭脳となるのがデータセンターであり、このデータセンターには複雑で高度な電力制御が必要となってくる。この電力制御に深い知見を持つ企業がイートン・コーポレーションである。今後の超巨大なデータセンターの運用に、イートンは欠かせない企業となる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
AIは今の社会を「破壊する」ほどの動きに
現在、私たちの文明は人工知能(AI)によって大きなパラダイムシフトの渦中にあり、もはやこの動きはとめられないものとなっている。AIは今の社会のあり方を根底から変えてしまう可能性がある。
ある意味、AIは今の社会を「破壊する」ほどの動きとなるはずだ。
昔からなのだが、私は「今の社会を根底からひっくり返す危険な存在」に、とても惹かれる気質がある。2023年から時代を激震させているAIは、今の社会を良くも悪くも破壊する最強の存在となり得ることに気づいて高揚した。
AIは自分の人生の最後のパラダイムシフトであり、今後の人生の大きなテーマになるという確信がある。そのため、自分をAI時代に最適化《チューニング》しようとも考えている。
投資テーマとしても、そこに投資するかどうかは別にして、AIに関連する企業のことはよく知っておきたい。
AIといえば、その頭脳になるのがメガテック各社が構築しているハイパースケーラーのデータセンターであり、そのデータセンターは莫大な電力を消費する。そのため、AmazonやOracleはいち早く原子力発電に目を向けている。(ダークネス:人々はまだ気づいていないが、今後AI(人工知能)と原子力発電は一心同体となる)
そんな中で、非常に興味深いのがイートン・コーポレーション(Eaton Corporation)という企業である。この企業は再生エネルギー・産業・商業・航空宇宙など幅広い分野で事業を展開しているのだが、原子力発電所向けの製品供給も同社の重要な事業のひとつとなっている。
今後の超巨大なデータセンターの運用に、イートンは欠かせない企業となる。大きな時代の流れの中で、注目に値する企業でもある。
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今、イートンは「AI特需」を享受している
Eaton Corporation【ETN】は、高度な電力制御の分野でグローバルに事業を展開する企業である。
電力の供給や消費を最適化し、負荷の変動や電源の変化に応じて電力供給を動的に調整し、過電流、過電圧、過熱などから機器を保護し、エネルギー効率を向上させる。つまり、データセンターにとっては欠かせない機能をイートンは一手に引き受ける。
同社は1911年に創業し、100年以上にわたりニューヨーク証券取引所に上場している老舗企業でもある。本社をアイルランドのダブリンに置き、世界160か国以上で事業を展開しており、2023年の売上高は232億ドルに達している。
最近はAIの急速な発展に伴うデータセンター需要の増加が成長を牽引しており、2024年第2四半期の業績は、記録的な数字を達成している。売上高は64億ドルを記録し、1株当たり利益(EPS)は2.48ドルで、前年同期比33%の増加である。
イートンの経営陣は、データセンター市場の成長見通しを上方修正し、2022年から2025年までの年平均成長率を25%と予測している。これは以前の予測16%から大幅に引き上げられたものだ。
今、イートンは思いきり「AI特需」を享受しているのだ。
今後も、イートンは重要な役割を果たしていく。同社の高度な電力制御技術は、AIの発展に不可欠なデータセンターの電力効率と信頼性を向上させる。さらに、イートン自身が自社の製品開発プロセスにAIを積極的に組み入れている。
同社のジェネレーティブAI技術は、新製品の設計時間を最大87%削減することに成功しており、製品の市場投入までの時間短縮と品質維持の両立を実現した。
じつは、このイートンのAIの裏側には世界最強のAIプラットフォーム企業であるパランティア【PLTR】がいる。(ダークネス:パランティア。アメリカと敵対する国家とはビジネスをしない筋金入りの愛国企業)
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データセンター需要の増加は大きな成長機会
イートンがAIによる開発設計で組んだのが、このパランティアだったのだ。パランティアの人工知能プラットフォーム(AIP)を企業資源計画(ERP)システムに統合することで、イートンの開発能力は別次元で強化されていった。
イートンは、電気化、エネルギー転換、再工業化といった市場トレンドを背景に、今後も堅調な需要が続くと見込んでいる。
とくに北米では、2021年1月以降に発表された1億ドル以上のメガプロジェクトが415件、総額約1.2兆ドルに達しており、イートンはこれらのプロジェクトから10億ドル以上の新規受注を獲得している。
AIの急速な発展と、それに伴うデータセンター需要の増加は、イートンにとって大きな成長機会となっている。MicrosoftもAmazonもGoogleもMetaもデータセンターを猛烈な勢いで拡充しているのだが、そこにOracleもxAI(イーロン・マスクの企業)も乗り込んできており、需要が続く。
さらに、AIシステムの高い電力需要に対応するため、イートンはAIインフラに特化した最強の冷却システムを準備している。
データセンターは膨大な数のサーバーやネットワーク機器を稼働させており、これらの機器は動作中に大量の熱を発生させる。もし適切に冷却されないと、これらの機器は過熱し、システム障害や性能低下を引き起こす。最悪の場合、ハードウェアが物理的に損傷することもある。
いかに、熱を処理するか。この問題を対処するため、イートンはTripp Liteを買収して、冷却ソリューションを強化しているのだが、これにより、AIインフラの寿命を延ばし、エネルギーコストを削減することが可能となった。
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AI時代にとって欠かすことができない企業
いうまでもないが、データセンターは製造するのが重要なのではなく、維持・管理がもっとも重要なのだ。
いったん作られたデータセンターは数十年単位で延々と使われ続けるが、イートンはその仕事をずっと請け負い続けるということもである。これは安定した収益基盤をイートンにもたらす。そのため、イートンは投資先としても非常に魅力的な企業となっている。
ただ、データセンターの建設ブームはどこかで終わる。その後は維持・メンテで安定的な収益があるとしても、爆発的に成長していけるのかどうかは未知数である。そういったリスクはある。
しかし、高度な電力制御に対する需要がなくなるわけではなく、今後もさらにデータセンターに組み込まれるハードの高度化が進めば、今よりもさらに複雑な制御が必要になる。
そういう意味で、電力管理に関する深いノウハウと、幅広い製品ラインナップを持つイートンが、いきなり不要になるというのはあり得ない。むしろ、イートンはAI時代にとって欠かすことができない企業となっていくはずだ。
総括すると、イートンはAI時代におけるインフラ整備の重要なプレーヤーであり、その高度な制御技術と、強力な製品ポートフォリオと、パランティアとの提携によって得たAIによる進化により、投資対象として高い評価を得るべき企業である。
AI技術の進化に伴い、電力管理や冷却技術の需要が急増する中、イートンはその需要を的確に捉え、今後も確実に成長していく可能性が高まっている。イートンはAI特需において目立たないが有望な投資先といえる。
2023年の初頭は160ドル台であったイートンの株価は、現在は310ドル台となっている。94%近い上昇率である。この上昇は、AIがもたらしているのだ。私自身もこの企業には注目している。