中東の紛争が激化している。イスラエルは強硬であり、これでイランを攻撃すると、全方位の戦争になっていくことになる。現在、イスラエルの強硬姿勢にアメリカが振り回されている状況になっているのだが、予断を許さない状況である。この中で株式市場はどう動くのか。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
今後、さらに状況が悪化する可能性もある
2024年10月2日。イスラエル軍は、イランからイスラエルにミサイルが発射されたと発表している。発射は、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者であるナスララ師殺害への報復措置とみられ、200発から400発近いミサイルが発射され、テルアビブで2人が負傷している。
イラン革命防衛隊も、軍事施設攻撃を声明で発表している。イランはイスラエルの報復に対し、さらなる反撃を警告した。バイデン大統領はアメリカ軍にイスラエル支援を指示し、こうした事態を受けて原油価格も一気に71ドル台にまで急上昇している。
今後、さらに状況が悪化する可能性もある。
イスラエルと周辺諸国の関係は、長年にわたる緊張と衝突によって特徴づけられているのだが、これが収まらない。中東地域は、宗教的、民族的、領土的な争いが複雑に絡み合い、とくにパレスチナ、さらにはヨルダンやイランとの関係が不安定な要因となっている。
2024年に入ってからの状況は、これまでにない規模での軍事行動と政治的緊張が生じており、イスラエルとガザ地区を中心に武力衝突が続いている。
こうした状況下では、国際的な介入や和平協議が試みられるものの、双方の譲歩が少なく、戦闘が終息する兆しが見えにくい。この紛争は、地政学的な不安定要素として、エネルギー市場や国際政治に多大な影響を与えている。
イスラエルは中東における軍事大国であり、世界の防衛産業やテクノロジー分野においても大きな役割を果たしているため、戦争による影響は広範囲に及ぶ可能性が高い。
加えて、この地域は石油や天然ガスの供給が集中しているため、世界経済にとっても重要な地位を占めている。したがって、今回の戦争はただの地域紛争にとどまらず、グローバルな経済や投資に対して大きな波紋を広げているのだ。
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イランの攻撃で一瞬にして上昇した銘柄
この戦争が投資に及ぼす影響は多岐にわたる。まず、地政学的リスクの上昇によって、中東地域に対する投資家の慎重姿勢が格段に強まっていく。
すでにイスラエルやその周辺地域に関連する株式市場や産業は、急激な価格変動に直面している。エネルギー市場においても、石油や天然ガスの供給に関して、広範囲の悪影響が懸念されており、これが価格の急騰を引き起こす可能性がある。
イスラエルはハイテク産業の中心地として知られ、サイバーセキュリティや人工知能分野での技術革新が進んでいる。こうした産業は世界的な投資対象となっており、戦争の影響でその成長が停滞するかどうかは投資家にとって大きな関心事である。
一方で、防衛産業に関連する企業への投資は、戦争が長引くほど注目が集まる。戦争の需要が高まる中で、アメリカの兵器や防衛関連技術を提供する企業は、短期的な利益を享受する可能性がある。
具体的には、ロッキード・マーティン、RTXコーポレーション(旧レイセオン・テクノロジーズ)、ノースロップ・グラマン、ジェネラル・ダイナミクスは注目されていくかもしれない。イスラエルがアメリカからの軍事援助を受ける場合、これらの企業の兵器が中心となると投資家が考えるからだ。
もうひとつ、今回のイランの攻撃で石油価格が上がっているのだが、同時に石油企業も軒並み上昇しているのは見逃せない動きだ。
中東は世界の主要な石油産出地域であり、イランは重要な原油生産国である。イランとイスラエルの衝突が激化すれば、イランの石油輸出が妨げられたり、ペルシャ湾などの主要な輸送ルートが封鎖されるリスクが高まる。
その結果、原油供給に支障が出る可能性があるため、世界的な供給不足が懸念され、原油価格が上昇する。
原油価格が上昇すると、石油会社(とくに採掘や生産に携わる企業)の利益が増加する。価格が高くなるほど、1バレルあたりの収益が上がるため、エクソンモービルやシェブロン、BPといった大手石油企業の株価が上昇する傾向がある。
イランの攻撃が発表された瞬間に、石油企業の株価はどれも暴騰した。
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エネルギー価格の高騰は石油企業以外には大きな問題
ただ、一般的にいえばイスラエルと周辺諸国の戦争は、投資家にとって避けられない逆風でもある。まず、地域全体が不安定化する中で、多くの企業がこの地域の事業継続計画を再考せざるを得なくなっている。
とくに、イスラエル国内で事業を展開しているグローバル企業やスタートアップは、戦闘行為やインフラの破壊による事業の停滞の影響を受けており、これが中長期的な収益見通しに悪影響を及ぼす可能性が高い。
さらに、エネルギー価格の高騰は、石油企業以外には大きな問題である。
石油価格の急騰は世界中の消費者や企業に直接的な影響を与えるだけでなく、インフレ圧力をさらに強め、そうなった場合は、各国の中央銀行が引き締め政策を継続する要因ともなり得る。
インフレは、景気の悪化を招く。そのため、多くのセクターが業績悪化に見舞われていくので、株価全体が下落していくリスクがある。中東情勢が不安定になると、投資家は安全資産に資金を移そうとするので、業績の悪化が鮮明になる前に株式は売られていくだろう。
地政学的リスクが投資に対してどのような影響を与えるかは、予測が難しい部分がある。戦争が長期化するにつれ、投資家の信頼が揺らぎ、リスク資産からの資本流出が加速する可能性が高い。
このため、短期的には多くの逆風が予想され、戦争が続く限り、投資家は慎重な姿勢を保とうとする。イランの攻撃が一過性のものなのか、それとも継続されるものなのかはまだ何ともいえないものがある。
また、イスラエルは強硬であり、これでイランを攻撃すると、全方位の戦争になっていくことになる。現在、イスラエルの強硬姿勢にアメリカが振り回されている状況になっているのだが、予断を許さない状況であり、投資家は固唾を飲んで見守るしかない。
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私自身は静観してこの事態を見つめている
今の段階で状況がどうなるのか予測してもしかたがない。俯瞰して見ると、短期的な株価の下落は避けられないので、投資家は覚悟して市場を見ておく必要がある。
しかし、長期的にはどうだろうか。どれほど困難な状況であっても、歴史的に見ると市場はつねに回復力を持っているので、いずれは資本主義の成長が株価を押し上げていく局面がかならずくるといえる。
人類は過去に多くの戦争や紛争を経験しており、そのたびに株式市場は大きく動揺したのだが、状況が落ち着くと100%回復してきた。戦争による短期的な混乱は避けられないが、長期的な視点では、株式市場はふたたび安定に向かう。
とくに米国株についてはそうだ。
アメリカは、過去にもさまざまな危機や戦争、金融不安に直面してきた。しかし、そのたびに経済は回復し、株式市場も長期的には成長した。
たとえば、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、2008年の金融危機などの影響で、市場はときに壊滅的なまで下落したことがあった。しかし、最終的には強力な回復を遂げた。
アメリカの経済は多様性に富み、技術、金融、エネルギー、消費財といった主要産業が互いに補完し合い、地政学的な衝突があっても長期的な成長を支えている。
とくにアメリカは世界的な競争力を持つ企業が多く、テクノロジー、金融、製薬といった分野でのリーダーシップは強力だ。Apple、Amazon、NVIDIA、Google(Alphabet)、Microsoft、Teslaなど、世界経済を牽引する企業は、今もイノベーションを生み出し、成長を続けている。
戦争や不況といった短期的な課題があっても、これらの企業は長期的には技術革新や効率化を進め、成長する。これにより、米国株全体のパフォーマンスが押し上げられていく。
歴史的に、アメリカの株式市場は一貫して成長してきたのだ。株価は短期的な地政学的リスクや経済的ショックによって変動するものの、S&P500やダウ平均などの主要株価指数は、数十年にわたり上昇を続けている。
戦争がどのような経緯をたどるのかは予測しなくてもいい。そして、株価が下落しても問題ない。私自身は静観してこの中東の出来事を見つめている。