
すでにOpenAIは「AIの自律性」に先手を打った。今後、OpenAIの人工知能は「自律的にタスクが実行できる能力」を手にすることになる。自身で与えられた処理や課題を評価し、最適な解決策を導き出す。この時代のパラダイムシフトを、感じることができるだろうか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
自分の能力を自分で引き上げていくAIの登場
AI(人工知能)の進化が著しい。OpenAIは、人工知能の研究と開発において先進的な企業として知られているのだが、その最新のリリースである「OpenAI o1(Strawberry)」モデルは、業界内で大きな注目を集めている。
従来のGPT-4oモデルに続き登場したこの新しいモデルは、AIの技術を一段と進化させている点が特徴だ。
o1(Strawberry)の最大の特徴は、その「思考する能力」である。これまでのAIモデルは、入力に対して迅速に回答を提供することが主眼となっていた。しかし、o1はより高度な問題解決を実現するため、思考プロセスを段階的に行うことを主軸にしている。
具体的には、モデルが回答を出す前に、複数のステップを通じて考えを深め、より正確で精緻なアウトプットを提供する。この能力は、とくに複雑なタスクや多角的な視点が必要な問題において有効である。
o1がとくに注目されている理由のひとつに、その推論プロセスの「可視化」が挙げられる。ユーザーはモデルがどのように考え、どのステップを踏んで結論に至るのかを追うことができ、これにより解答の透明性が大幅に向上した。
従来のGPT-4oモデルでは、このプロセスはブラックボックスに近いものであり、迅速なアウトプットは提供されるものの、その背後にある思考過程は見えにくかった。しかし、o1は博士号レベルの論理的思考力を持ち、ユーザーがそのプロセスを理解しやすい形でアウトプットを提供するため、非常に高い信頼性を獲得している。
このo1モデルは、効率的な教科学習プロセスを持ち、大規模なテキストデータが不要である。o1は問題を与えられると「自律的に学習」し、自己評価・フィードバックをおこなう。
GPT-4oは人間によるフィードバックが必要だが、o1は自律的に性能を向上させる。ここが恐ろしいところだ。いよいよ人工知能は、自分で学習して自分の能力を自ら引き上げていくことができるようになったのだ。
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現代文明を根底から変えてしまおうとしている
猛スピードでAIを進化させている存在。それがサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が率いるOpenAIである。サム・アルトマンはAIの限界を押し広げることで、現代文明を根底から変えてしまおうとしており、現代のイノベーションの現場ではもっとも重要な人物のひとりでもある。
AI分野は今後の成長が期待される業界なのだが、OpenAIはその中でも中心的な役割を果たしている。とくに、GPT-4oのリリース以後は市場において非常に注目されており、その技術的進化がどのように収益に結びつくのかが注目されるポイントである。
OpenAIは、まだ上場していないにもかかわらず、その企業価値は1,570億ドルに膨らんでいる。円換算では23兆円近くの規模である。
とくにGPT-4oの普及により企業や研究機関での導入が増加し、幅広い分野での応用が進んだことが背景にある。今後、o1(Strawberry)モデルが普及することで、この成長率は加速すると予想されている。
2024年10月2日、66億ドル(約9,600億円)の資金調達を発表しているのだが、サム・アルトマンはこの資金でOpenAIを営利企業に転換させる予定だ。この投資がAI技術のさらなる進化を促進し、他の競合他社を圧倒する可能性がある。
o1のような高性能なモデルは、複雑なタスクを自律的に学習し、フィードバックを自己評価する機能を持つため、大規模なテキストデータを必要とせず効率的に運用できる。しかし、まだまだ人工知能は、能力の向上と開発に巨額な資金を必要としており、進化のために莫大な投資が必要である。
投資家にとって注目すべきは、OpenAIが今後も自律的な学習とフィードバック機能を持つAIモデルを開発し、そこからゆくゆくはAI自身が最適なタスクを「自律的に実行」するようになるのを目指していることだ。
これは何を意味するのか。これは、企業にとっては知的レベルが最強の経営者や社員を雇い入れるのと同じ効力を発揮するという意味である。自社の利益を徹底的に追求できるようになり、経営効率が爆発的に向上する。
企業経営が根底から変わっていく。今後、AIの存在を無視したり、無理解だったりする経営者は生き残れないだろう。そういうレベルにまで到達しつつあるのが今のAIによる技術革新である。
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OpenAIを取り巻く資金問題と強大なライバル
OpenAIがAI業界でリーダーシップを取っている一方で、同社は幾つかの課題にも直面している。
まず、AIの能力をより進化させるために、まだまだ膨大な研究開発費用と時間を必要とする。サム・アルトマンがどんなに資金を集めても、その資金はすぐに枯渇してしまうほどの研究開発費がかかっている。
これは、今のOpenAIの企業戦略においても大きな負担となっている。
また、AI技術に対する規制や社会的な懸念も無視できない要素となりつつある。AIが個人情報や行動データを大量に収集・解析することで、プライバシーが脅かされることを社会は危惧している。この点の配慮がないと、AIの進化は法的に規制される。
また、AI自身のバイアスの問題もあれば、高度に自律的なAIが制御不能になるリスクもある。これに加え、AI技術の大規模な普及は、労働市場や産業構造に変革をもたらす可能性があり、社会的な逆風を伴うことも予想される。
さらに、AI業界の中で熾烈な競争があり、OpenAIは他の大手企業と激しく競り合っている。とくにGoogle DeepMindやMetaのAI部門など、強力な競合が存在し、それぞれが独自の技術を開発・提供している。
Google DeepMindは、AI研究の最前線に立ち続けている企業であり、そのアルゴリズムの精度と効率性に関しては業界の標準を打ち立てる存在でもある。
MetaのAI部門もまた無視できない。Metaはソーシャルメディアのデータを活用してAI技術を発展させており、とくに自然言語処理(NLP)やコンピュータビジョンの分野に強い。
Metaは、多様なユーザーから収集した膨大なデータセットにアクセスできるため、AIモデルのトレーニングにおいて圧倒的なアドバンテージを持っているのだ。
これらの企業はAI研究のリソースも潤沢であり、OpenAIに劣らない。OpenAIがその競争に勝ち残るためには、さらに巨額の資金を投じて技術革新を続ける必要がある。DeepMindやMetaだけでなく、MicrosoftやAmazonなどのテクノロジー企業もAI開発に巨額の資金を投じており、革新のスピードを上げている。
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すでにOpenAIは「AIの自律性」に先手を打った
しかし、OpenAIが直面する課題にもかかわらず、同社がAI業界でのリーダーシップを維持し続ける理由は、その技術的卓越性と持続可能な成長戦略にある。o1(Strawberry)は、OpenAIが想像以上に飛び抜けた技術企業であることを証明した。
その「連鎖的・多段階的な思考プロセス」は、従来のAIモデルとは一線を画す。複雑な問題解決に優れた能力を発揮し、自己評価とフィードバックをおこなうことで、つねに自らを改善し続ける能力を持つ。
この思考プロセスで使われたデータもまた、機械学習に使われることになるので、その進化は飛躍的になっていく。
今後、OpenAIの人工知能は、ビジネス戦略の設計や実行、さらには金融分野における高度なデータ解析にも応用されるようになる。o1(Strawberry)は、その思考過程が視覚化されている。ユーザーはAIの判断プロセスを理解しやすく、なぜo1(Strawberry)がその結論に至ったのかをたどることができるのだ。
すでにOpenAIは「AIの自律性」に先手を打った。今後、OpenAIの人工知能は「自律的にタスクが実行できる能力」を手にすることになる。自身で与えられた処理や課題を評価し、最適な解決策を導き出す。
より複雑なタスクの集合を理解し、連鎖的・多段階的な思考プロセスを取り入れ、最適な手順を自律的に選び取って実行できるようになる。目標達成に向けた計画立案、進捗管理、問題発生時の修正対応などが含まれ、人間の介入を最小限に抑えることができるようになる。
ビジネスにおいては、業務の自動化がさらに進み、さまざまな面でコスト削減が成し遂げられ、企業の経営者はより戦略的な課題に注力できるようになる。
有用にAIを利用することができる企業や経営者が、これまでとは一線を画す進化を遂げることになるだろう。この時代のうねり、パラダイムシフトを感じることができるだろうか? OpenAIが営利企業に転換して上場したら、さらに世の中は変わっていくだろう。
