ペプシコ。健康志向と肥満症治療薬の登場でもこのジャンクフード企業は生き残る

ペプシコ。健康志向と肥満症治療薬の登場でもこのジャンクフード企業は生き残る

健康志向の流れの中で、肥満症治療薬まで登場し、人々は本格的に「ジャンクフード」離れを起こそうとしているように見える。当然、この中でジャンクフード企業であるペプシコに対するプレッシャーは増す。しかし、この企業は生き残り続ける。それには理由がある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

200か国以上で事業を展開している巨大企業

私が16年間、ずっと保有し続けている銘柄のひとつにペプシコ【PEP】がある。世界第2位の食品・飲料企業で、200か国以上で事業を展開しているのが、このペプシコという企業である。

ペプシコーラだけでなく、スポーツ飲料のゲータレード、チルドジュースのトロピカーナ、清涼飲料水のマウンテンデュー、紅茶飲料のリプトンなどもペプシコの製品だ。

また、欧米では「フリトレー」ブランドのスナック菓子、ポテトチップスのレイズ、トルティーヤチップスのドリトス、チーズスナックのチートス、朝食シリアルのクエーカーもペプシコが保有するブランドである。

そのブランド力と多角的な製品ラインナップで、ペプシコは消費者に広く支持されている。ペプシコの成功は、その製品ポートフォリオの多様性にある。さまざまなな消費者層に対応できる製品ラインを展開している。

レイズやドリトスといったスナックブランドは、長年にわたって主にアメリカ人に愛され、非常に強いブランド価値を持っている。

ちなみに、ドリトスやチートスは日本でも販売されているのだが、販売先はジャパンフリトレー株式会社となっている。このフリトレー社はペプシコの子会社である。

日本ではスナック業界の競争が激しく、カルビーや森永などの国内ブランドが強力な地位を占めており、ジャパンフリトレーのドリトスやチートスはそれほど目立っているわけではない。

ちなみに、日本でも有名な紅茶飲料のリプトンはユニリーバのブランドなのだが、リプトンのアイスティー事業をペプシコとユニリーバの合弁事業でおこなっており、ペプシコが世界的に販売・展開するという形で事業が進められている。

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ペプシコは、典型的な長期投資銘柄のひとつ

ペプシコは、その規模と世界的な影響力を背景に、投資家にとって魅力的な企業として位置づけられている。長年にわたって安定した成長を続けており、その規模の大きさが際立つ。

営業利益率は堅調で、効率的なコスト管理と高いブランド力がこの結果を支えている。財務面でも同社の負債比率は比較的安定しており、バランスシートは堅実である。将来的な経済の逆風や市場の変動にも耐えうる財務体質をしている。

投資家として見過ごせないのは、ペプシコが株主還元を重視している企業で、長年にわたって配当を増やし続けていることだ。

1965年以来、ペプシコは四半期ごとに連続して現金配当を実施しており、2024年は52回連続の増配となった。現在の配当利回りは約3.07%であり、配当収入を目的とする投資家にとっても魅力的な選択肢となっている。

16年前からペプシコをずっと保有している私は、この増配のお陰で配当率は約9%になろうとしている。今年も増配しているのだが、さらに今後もずっと増配されていく可能性が高いわけで、それを考えると驚異的な投資対象でもあるといえる。

世界的な炭酸飲料市場では、競合他社であるコカコーラ【KO】が依然としてトップの座に君臨しているものの、ペプシコはスナック市場において圧倒的なシェアを誇って収益源の多様化を進めている。

消費者需要の変化や競争激化といった外部要因に柔軟に対応しつつ、これからも堅実な成長を遂げていくだろう。ブランド力も衰えることがない。「持続可能な成長」というのは、まさにペプシコのためにあるような言葉でもある。

こうした観点から見ると、ペプシコへの投資は長期的に見てリスクの低い部類に入るだろう。つまりペプシコは、典型的な長期投資銘柄のひとつなのだ。

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ペプシコは事実上「ジャンクフードの代表格」

ただ、2023年の半ば頃から多くの投資家がペプシコを敬遠するようになってきている。株価も200ドルに手が届きそうになっていたのだが、そこから一気に下振れして160ドルを割る展開になっていった。何があったのか。

それは、イーラーリリー【LLY】の肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)の登場である。

この肥満症治療薬の台頭は、食品・飲料業界全体に大きな逆風をもたらした。肥満症治療薬が爆発的に売れていくようになると、消費者が高カロリー食品や甘味飲料の摂取を自然と控えるようになっていく。

これがペプシコをはじめとする大手食品・飲料企業にとっての新たな課題となった。市場の健康志向の高まりに加え、こうした医療技術の進展が消費者の選択に影響を与えるため、従来の高カロリー製品に依存したビジネスモデルでは対応が難しくなっているのだ。

コカコーラもダメージを受けているのだが、ペプシコのダメージのほうが大きかったのは、ペプシコはペプシコーラだけでなくスナック菓子の分野を持っていたからだ。その両方に売上の打撃を受けるので投資家はいっせいに逃げ出した。

これまで、ペプシコは高カロリーの製品を売って、肥満や糖尿病といった健康問題に関する批判を受けており、各国政府も糖分や脂肪分に対する規制や課税を強化する動きを見せていた。

ペプシコはそれに対応するために健康飲料の分野にも進出しているのだが、それでもジャンクフードが売上の主製品となっているわけで、事実上「ジャンクフードの代表格」でもあったのだ。

こうした健康志向の流れの中で、肥満症治療薬まで登場したこともあって、人々は本格的に「ジャンクフード」離れを起こそうとしているように見える。それが社会の大きな潮流である。

ペプシコに対するプレッシャーはさらに増すことが予想される。ただ、私自身はこれについては心配していない。ペプシコがどのような課題に直面しても、同社はそれを乗り越えられると考えている。

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ペプシコは、あいかわらず大きな売上を上げ続ける

まず第一に、人々はジャンクフードを捨てることはない。いくら政府が躍起になって糖分や脂肪分を排除しようとしても、一部の人が健康志向に目覚めようとも、糖分や脂肪分は本能の部分で人間を惹きつける。

ジャンクフードは健康に悪いのかもしれないが、それは「うまい」のだ。人々はこれからも糖分や脂肪分から離れられないだろう。

肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)は、たしかに脅威である。しかし、この治療薬は高額であり、そもそも貧困層は手に入れることができない。手に入れることができても継続することができない。

この肥満症治療薬で痩せたとしても、治療薬をやめるとリバウンドする。このリバウンドの元凶となるのが糖分や脂肪分である。つまり、治療薬を打っているあいだは痩せるかもしれないが、やめるとふたたびジャンクフードに戻っていく。つまり、ペプシコに戻っていく。

肥満症治療薬は売れまくるだろう。だから、肥満症治療薬を売っているイーラーリリーも投資対象としては素晴らしい。しかし、人々はジャンクフードの魔力から逃れられないので、ペプシコもあいかわらず大きな売上を上げ続けるのだ。

そもそもペプシコは柔軟で多様な製品ラインを持っており、市場の変化に迅速に対応できる体制が整っている。人々が健康志向になったら、ペプシコも「健康食品」を開発して売ることもできる。

ペプシコが保有するブランド「クエーカー」はオートミールやシリアルなど、栄養価が高く、食物繊維が豊富な製品なのだが、このブランドなどはまさに健康志向に目覚めたアメリカ人に評価されている食品でもある。

さらにペプシコはハヴァナ(Havanna)ブランドのスナックも出しているのだが、これは食物繊維を豊富に含む「プロテイン」スナックで、フィットネス愛好家のあいだで支持を受けている。

ヴィーガンとペプシコは相性が悪いのだが、そのヴィーガンもオーツ麦を使用した植物性ミルク「Oatly(オーツリー)」を評価している。このオーツリーも、他でもないペプシコの製品なのだ。ついでにいえば、ヴィーガンが愛する100%フルーツジュースのトロピカーナもペプシコのものだ。

ジャンクフードを売りながら、オーガニック志向の人々や、フィットネス愛好家や、ヴィーガンまで取り込んでいるのがペプシコなのだ。時代に合わせて製品を多角的に増やしていけるペプシコの姿を見ると、この企業は今後もしたたかに生き残ることがわかるはずだ。

私がまったく心配していないのは、そういう理由があるからだ。

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