市場の上昇期にあっても、過剰なリスクを取ることで将来のダメージが大きくなることは多くの歴史的な事例が示している。日本のバブル崩壊、2000年のITバブル崩壊、リーマンショックにおける暴落などは、その最たる例だ。生き残るためには適切なリスク管理が欠かせなかった。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
リスクは避けるのではなく管理すべきなのだ
投資においてリスク管理は、単なる付加的な要素ではなく成功の基盤である。なぜなら、相場はつねに変動し、未来を完全に予測することは不可能だからだ。
市場の価格変動、企業の倒産、政策変更など、予測不可能な出来事が投資家に襲いかかる。そのため、どれほど優れた戦略や分析を持っていても、リスク管理がなされていなければ、最終的に破綻してしまう可能性が高い。
リスク管理とは、損失を最小限に抑えつつ、リターンを最大化するための方法であり、投資の成功における不可欠な要素だ。
これは感情的な判断や、過度な自信からくる失敗を防ぐためにも役立つ。市場の上昇期にあっても、過剰なリスクを取ることで将来のダメージが大きくなることは、これまでの多くの投資家の失敗が示している。
日本のバブル崩壊、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックにおける市場の急落は、その最たる例だ。これらの状況下で生き残るためには、適切なリスク管理が欠かせなかった。
リスク管理は投資家自身の心理的な要素にも深くかかわっている。
欲望や恐怖によって冷静な判断ができなくなることは、リスクの見誤りを招く。投資は感情的なプレッシャーがかかる場面が多いが、それに流されないためには、事前にリスク管理の基本を知っておく必要がある。基本を守っていることで、市場が急激に動いた際にも冷静に対処できる。
また、リスク管理の重要性はただ損失を防ぐだけではなく、機会を逃さないためにも重要な要素となる。リスクを過度に恐れるあまり、必要なリスクを取ることができない場合もある。
適切なリスク管理は、そのバランスを保つことを助け、リスクを取るべき時と避けるべき時を判断する基準を提供する。投資家は「リスクを避ける」ことが目的ではなく、「リスクを管理する」ことが必要なのだ。そうすることで、結果的に長期の成功を手にすることが可能となる。
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リスク管理で知っておくべき3つの要素
リスク管理を効果的に行うためには、以下の3つの要素を理解することが不可欠である。この3つを理解せずに投資を続けることは、自滅のリスクを高める。
ひとつは、いうまでもなくリスク分散である。
まずはポートフォリオを多様化させておく。一銘柄や一セクターにすべてを賭けるのは非常に危険だ。成功すればいいが、失敗すれば取り返しがつかない。投資の対象を分散させることにより、全体のリスクを低減する。
短気な投資家はしばしば特定の一銘柄や一セクターでリターンを最大化しようとするのだが、その銘柄やセクターがいつ不調に陥るかを正確に予測することは不可能なのだ。したがって、銘柄やセクターの分散は、全体のポートフォリオを安定させるための基本中の基本となる。
レバレッジ(信用・借金)を使わないというのも重要だ。
レバレッジを使って巨額の金額を投資していると、相場が反転したときに一気に資産を失っていく。レバレッジで成功する人もまれにいるが、失敗する人のほうが圧倒的に多い。感情がコントロールできなくなるからだ。
投資家は、利益(リターン)の追求に夢中になると、しばしば自分の感情がコントロールできなくなる大きな投資をしてしまう。ときにはレバレッジを使って投資しようとも考える。そして自滅する。
リスク管理のためには、時間分散も有益な方法となる。
市場は絶えず変動している。経済状況や政策、国際情勢などによって投資環境は大きく変化する。しかし、それを読むことはできない。そのため、一銘柄を一気に買うのではなく、時間を分散して買っていく。
たとえば、100万円があったとしたら、それを25万円ずつ4回に分けて時間をおきながら買うとか、10万円で毎月買っていくような「時間分散」をおこなう。そうすると、高値をつかむことがなくなる。
この方法だと、底値で買うこともできない。しかし、つねに平均でいられる。その「平均でいられる」というのがリスク管理なのだ。
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これらの投資家の多くが莫大な損失をこうむった
リスク管理を怠った投資家が自滅した事例はいくらでもある。現在はAIセクターに過大な資金が入り込んでいるが、それで人々が振り返っているのが1990年代後半のITバブルである。
この巨大バブルが崩壊したとき、ハイテク銘柄一極集中で大きなリスクを取っていた投資家が壊滅的ダメージを受けた。
この時期、インターネット銘柄は過大に持てはやされ、多くの投資家がインターネット関連株に集中投資して、大金持ちになることを期待した。だが、バブルが崩壊した際、これらの投資家の大半が莫大な損失をこうむった。
破産してしまった投資家もいた。彼らが犯した大きなミスは、リスク分散を怠ったことである。
インターネット関連株が非常に高いリターンを示していたため、それに目がくらんだ投資家は資金をそこに集中させた。その結果、バブルが弾けた瞬間に、投資家たちは一気に資産を失った。
また、早く儲けることだけを考えてレバレッジを使っていた投資家は、相場の大暴落でみんな破産していった。
2000年のITバブル崩壊は、レバレッジを使っていなかった投資家でさえも資産を吹き飛ばした崩落だったのだ。レバレッジを使って早く儲けようとしていた投資家は、ひとたまりもなかった。
「まだ回復するはずだ」という希望的観測を持ち続け、損切りを避けた投資家もいたが、市場は回復せず彼らの資産は10分の1以下になった。
銘柄やセクターのリスク分散をしておき、レバレッジも使わず、さらに銘柄を買うにしても、きちんと時間差で買っていた人は、かりにIT銘柄を保有していたとしても、損失は最小限に抑えられた。
ITセクターひとつに絞らなかった時点で助かっているし、レバレッジを使わないだけで損失は投資額の範囲で抑えられていた。さらに時間分散もしていたら買い値も平均に収斂していたので、最小限の損失で逃げることもできた。
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資産を増やしていく上で欠かせないスキル
以上の事例からもあきらかなように、リスク管理ができない投資家は、最終的に市場の変動に耐えられず、自滅するリスクが高い。しかし、適切なリスク管理をおこなっていたら、長期的に生き残ることができる。
リスク管理は短期的な損失を防ぐだけでなく、投資家が冷静に市場と向き合い、計画的に行動する助けとなる。
リスク分散は、単に安全を追求するだけでなく、市場でリターンを最大化するための戦略である。リスク分散ができていることで感情的な判断を避けられ、冷静に市場と対話することができる。
リスクをしっかりと管理できている投資家は、短期的な利益に振り回されることなく、安定したリターンを得るための戦略を維持できる。これは特に長期投資家にとって重要であり、数十年にわたって資産を増やしていく上で欠かせないスキルだ。
適切にリスクを管理することで、リスクを取るべきタイミングと取るべきでないタイミングを正しく判断できるようになる。リスクを過度に恐れることなく、しかし過信することもないバランスの取れた投資行動が、最終的に成功をもたらす。
・一銘柄や一セクターに集中せずに銘柄を分散しておく。
・レバレッジを使わない。
・株式を購入するための時間も分散しておく。
この3つのリスク管理を正しく理解し、実践することで、どんな市場状況下でも生き残り、成長し続けることができる。実際、私自身も長らく相場に向き合う中で、この3つの基本を守ってきた。
リスク管理は単なる投資の補助的なスキルではなく、投資の根本を支える柱である。これを無視した投資行動は、短期的には成功するように見えても、長期的には破綻につながるリスクが高い。
株式市場ではつねにリスクがある。そこで討ち死にしたくなければ、リスク管理を徹底し、感情的にならず、リスクとリターンのバランスを保ち続けることが求められる。それが生き残りの絶対条件となる。