健康志向の高まりや環境問題への対応、競争環境の激化といった要素は、マクドナルドの未来を不確実なものにしている。しかし、同社はこれまで何度も逆境を乗り越えてきた企業だ。ジャンクフード中毒のひとりとして、逆風にさらされているこの企業を興味深く見ている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ファストフード業界における絶対的な王者
マクドナルド【MCD】は、ファストフード業界における絶対的な王者であり、世界最大のファストフードチェーンである。世界中どこでも、あの金色のアーチをあなたは見かけるはずだ。
正直にいうと、私もマクドナルドは大好きだ。ジャンクフードの最たるものだが、私はジャンクフード中毒でもある。
マクドナルドは全世界で39,000を超える店舗を展開しており、その存在感は一目瞭然だ。2023年の決算では、売上高が230億ドルを超え、純利益は60億ドルを記録している。この規模と成長は、世界中の消費者に対して強力なブランド力を維持している証拠でもある。
マクドナルドの武器はハンバーガーではなく、このブランドの認知のほうだろう。マクドナルドは戦略的なマーケティング、卓越したオペレーション、そしてデジタル技術の活用が絡み合い、複雑なビジネスモデルを構築している。
たとえば、同社は不動産事業やフランチャイズモデルが大きな収益を生んでいることもよく知られている。
同社は、自らが所有する店舗だけでなく、フランチャイズ契約を通じて大規模な不動産業も展開しているのだ。このモデルは、他社とは一線を画し、安定した収益源を確保する要因のひとつとなっている。
しかし、マクドナルドは順調ではない。競争の激化、消費者の健康志向への転換、そして環境問題に対する社会的な圧力、あるいは物価上昇による値上げなどがマクドナルドの売上や利益に影響を及ぼしつつある。
たとえば、オーガニック食品の需要が急激に増加し、マクドナルドのようなジャンクフードは時代遅れと認識され、敬遠される時代が長引くと、同社の経営は追い込まれるだろう。マクドナルドがこのような変化にどう対応していくのか興味深い。
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非常に効率的に利益を上げる能力を持っている
マクドナルドの2023年の売上高は、前年比で約9%の増加を見せていた。これは、世界的な経済不安やパンデミック後の景気後退にもかかわらず、同社が消費者から高い支持を得続けている証拠でもある。
その純利益は約60億ドルに達し、驚異的な利益率を示している。つまり、マクドナルドは単に多くの食品を売りさばくだけでなく、非常に効率的に利益を上げる能力を持っている。
また、マクドナルドの事業モデルの特異性として、フランチャイズの占める割合が極めて高い点が挙げられる。2023年のデータによれば、同社の全店舗の約93%がフランチャイズ店舗である。
これにより、オペレーションコストを大幅に削減しつつ、安定したロイヤリティ収入を得ている。
このフランチャイズモデルは、他の多くの外食チェーンとは異なり、リスクをフランチャイズオーナーに分散させることで、企業全体の安定性を高めている。
デジタル売上の成長も目立つ。2023年には、マクドナルドのデジタル売上は、全体の30%を超えていた。これは、モバイルアプリを通じた注文、デリバリーサービス、キオスクによる注文などの拡大によるものだ。
特にパンデミック以降、非接触型の注文が急速に増加し、この傾向は今後も継続するとみられている。
こうした動向を見れば、マクドナルドが単なるファストフードチェーン以上の存在であることは明白だ。効率的なフランチャイズモデル、デジタル技術の導入、そしてグローバルな展開力が相まって、圧倒的な財務的安定性を誇っている。
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マクドナルドの強さの外濠は埋められつつある
しかし、今のマクドナルドの強さの外濠は埋められつつある。ファストフード業界全体が直面している問題、つまり消費者の健康志向や物価上昇への対応が、マクドナルドにも重くのしかかっているのだ。
誰もが知っているとおり、ファストフードは高カロリーで、健康に良くないというイメージが強い。私がマクドナルド・ジャンキーであるのを知ると、誰もが私の健康を心配する。昔よりも、今のほうがその傾向が強い。
消費者はますます敏感になっており、ヘルシー志向が高まっている時代だ。
欧米ではプラントベース食品が急成長している。プラントベース食品とは、動物由来の原材料(畜産物や水産物)を使用せず、植物由来の原材料で作った食品や食事法を指すのだが、こうしたものが受け入れられるくらいヘルシー志向が際立つ時代となっている。
マクドナルドもこの流れに乗り、「マックプラント」というベジタリアン向けのハンバーガーを展開しているが、それがどこまで主流化できるかはまだ不明だ。
おまけに、プラスチック製品の使用に対する環境保護団体からの批判も強まっている。すでに、ヨーロッパではプラスチック製のストローやカトラリーを廃止する動きが進んでおり、マクドナルドもそれに対応しているが、世界規模での変革は簡単ではない。
さらには、競争環境の激化も無視できない。近年では、スターバックスやチポトレなど、競合企業がマクドナルドと同様に、ヘルシーでサステナブルなイメージを前面に押し出している。
これらの企業は、より高価格帯の商品を提供し、消費者に「健康的で環境に優しい」選択肢を提供している。マクドナルドがこのトレンドにどのように適応するかが、今後の成長を左右する重要な要素となる。
ここ最近の潮流としては、物価上昇でマクドナルドもまた値上げを余儀なくされて、売上を支えていた低所得層がマクドナルドを買えなくなってきているという面もあって、この影響が懸念されている。
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マクドナルドはまだ信じる価値がある企業
では、投資対象としてマクドナルドをどう捉えるべきなのだろうか。
結論からいえば、マクドナルドはまだ信じる価値がある企業である。長年にわたって確実な成長を遂げてきた実績と、強烈なブランド力がその理由だ。たしかに、投資対象としてリスクは存在する。
健康志向の高まりや環境問題への対応、そして競争環境の激化といった要素は、マクドナルドの未来を不確実なものにしている。しかし、マクドナルドはこれまで何度も逆境を乗り越えてきた企業だ。
効果的なマーケティングや、フランチャイズモデルの強みや、デジタル技術を駆使した新たな収益源の拡大は、今後も成長を支える大きな柱となる。また、消費者の嗜好の変化に柔軟に対応し、プラントベース食品やデリバリー市場での地位を確立していく能力もある。
さらに、他の大きなブランドと提携して新店舗の展開を模索するような動きもある。最近では、クリスピークリームドーナツと提携して、一部の実験店舗でクリスピークリームドーナツの商品が販売されるようになる。
2026年末までに、アメリカ国内の全マクドナルド店舗(約1万3,000千店舗)でクリスピークリームドーナツの商品が販売されるようになる予定だ。この提携は、マクドナルドがカフェ需要の開拓を目指す戦略の一環として位置づけられている。
この動きは、既存の顧客層にさらなる魅力を提供すると同時に、新たな客層の開拓にも寄与すると考えられている。
未来は誰にも予測できないが、マクドナルドはその巨大な市場シェアと経営基盤により、次の10年も成長できると予測されている。競争に打ち勝ち、革新を続けられる企業は限られているが、マクドナルドは間違いなくそのひとつである。
ジャンクフード中毒のひとりとして、逆風にさらされているこの企業を投資対象としても興味深く見ている。