
本来であればトップダウンでAI覇権を取っていかなければ、日本は次の時代に技術先進国としてトップに立てない。しかし、イノベーションの遅れについてはまったく危機感のない政治家が、国会で寝てるような国なので心配だ。それならば、せめて自分だけでもAIに邁進するしかない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
AI(人工知能)が仕事を奪うのではない?
エヌビディア【NVDA】は最強のコンピューティングパワーを提供することに特化しており、その技術は現時点では世界でもっとも効率的であるといえる。無数の機械がエヌビディアのプラットフォームに置き換えられる可能性すらもある。
このエヌビディアの創始者がジェンスン・フアンCEOなのだが、このCEOが述べている言葉で非常に示唆に富むのが「AI(人工知能)が仕事を奪うのではなく、AIを使いこなす人たちによって淘汰される」という言葉だろう。
これについては、私も同意するものがある。
過去を振り返ってもそうだったからだ。かつてPCの時代がきたとき、PCを使いこなす人たちがPCを使えない人たちを駆逐した。インターネットの時代がきたときも、インターネットを使いこなす人たちがインターネットを使えない人たちを駆逐した。スマートフォンの時代でもそうだった。
そうであれば、AIという超巨大なイノベーションがきている今、AIを否定したり拒絶したりする人は、AIを使いこなす人たちによって淘汰されるのは当然の話でもある。これについては、いささかの疑念もない。
もう今この時点で、AIはただの技術のひとつに留まらず、私たちの日常生活やビジネス、社会構造全体に深く影響を与える存在へと進化しつつある。AIは単なる技術革新ではないのだ。社会全体の構造変化をもたらす「革命」として捉えることが不可欠だ。
AIは多くの産業において、これまで人間がおこなってきた業務を代替する力を持つ。それは単に工場のライン作業やデータ入力といった単純作業に限らず、金融、法律、医療、教育といった高度な専門知識を要する分野にもAIは浸透していく。
AIの発展に伴って、これまでの特定の業務は消滅する。しかし、その一方で、新たな業務やビジネスチャンスが次々と創出される。まさに「淘汰」と「進化」のプロセスが同時に進んでいく。
ということは、この過程でもっとも重要なのは何かわかるはずだ。AIというツールを徹底的に使いこなすことができるかどうか。それが次の時代の「生き残り」や「成り上がり」に重要になっていくというのは、誰でもわかる話である。
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すでに使えない人の「駆逐」は起こっている
単刀直入にいえば、AIという技術に適応できない者は取り残され、この技術をディープに駆使できる者が生き残る。ジェンスン・フアンの言葉にあるように、AIそのものが仕事を奪うのではない。AIを使いこなすことのできる者が、そうでない者を駆逐していくのだ。
この「駆逐」という言葉は、ある意味では冷徹な現実を象徴しているともいえる。なぜなら、これは避けられない未来だからだ。資本主義の自然なプロセスが目の前で起きようとしている。
たとえば、ゴールドマン・サックスは、AIを活用したアルゴリズムトレーディングによって、人間のトレーダーを削減した。ウェルズファーゴやバンカメは、AIチャットボットを導入して顧客対応業務を自動化しており、従来は人間のコールセンター職員が対応していた業務を大幅に削減した。
フォックスコンは、iPhoneなどを製造する巨大なサプライチェーン企業だが、すでに数万人の従業員をAIやロボットによる自動化技術で置き換えた。アマゾンもAIの活用によって倉庫内で働く従業員の数を大幅に減少させている。
FedExやDHLも倉庫管理や配送ルートの最適化にAIを利用しており、これにより必要な人手が減りつつある。ウォルマートもAIを活用した在庫管理システムを導入し、店舗スタッフの削減を進めている。
AP通信もAIを活用して財務レポートやスポーツの試合結果の記事を自動生成するシステムを導入しており、ライターや編集者の人手が必要なくなりつつある。
これらの事例は、AIの導入による人員削減が広範囲にわたって進んでいることを示している。誰が人員削減されたのかというと「これまでどおりの仕事をしている人」である。AIを理解している人が、それを導入してこれまでどおりの仕事をしている人を駆逐している。
「AIの知識があって、AIを縦横無尽に使いこなせる人」が、すでにそうでない人を淘汰する流れができあがろうとしている。
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自分の取り組みや意識の方向性を変えろ
AIを拒絶する人や、使いこなせない人、あるいは旧態依然とした手法に固執する企業は、衰退の一途を辿っていくことになる。この流れを無視することは、まさに「愚かだ」といわざるを得ない。それは、わざわざ自滅の道を歩んでいるようにも見える。
世界のAI市場規模は、2020年には約430億ドルだったのだが、2030年までにはほぼ1兆5,000億ドルとなると予測されている。これは年平均成長率が37.3%という、驚異的な速度で成長していることを示している。
米スタンフォード大の推計によると、2023年の各国のAIへの民間投資額はアメリカが最大で672億2,000万ドルとなっている。次に中国で77億6,000万ドル、そしてイギリスの37億8,000万ドルとなっている。
日本は6億8,000万ドルなので、首位のアメリカの投資額のほぼ100分の1という悲惨な状況にある。日本は完全に出遅れてしまっている。さすが、30年も国を成長させることができない無能な政治家が支配している国である。もしかしたら政治家は日本の将来について何も考えていないのかもしれない。
10年もしたらアメリカには完全に引き離され、中国にもイギリスにもまったく勝てない国になってしまっているだろう。このままでは、中国、イギリスどころか、イスラエル、韓国、インド、シンガポールを追い抜くこともできない国になる。
本来であればトップダウンでAI覇権を取っていかなければ、日本は次の時代に技術先進国としてトップに立てない。しかし、イノベーションの遅れについてはまったく危機感のない政治家が、国会で寝てるような国なので心配だ。それならば、せめて自分だけでもAIに邁進するしかない。
マッキンゼーの調査によれば、2030年までに約4億人の労働者がAIや自動化技術によって現在の職を失う可能性があるとされているのだが、逆にAIによって生まれてくる新しい仕事につくこともできる。
つまり、いち早くAIファーストに頭と仕事を切り替えた人が、次世代にしぶとく生き残り、勝ち上がれる人間となるのだ。AIが新しい仕事を生み出していく。これは新たなチャンスであり、大きな下剋上ともなりえる。
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人間社会の構造自体が再編されていこうとしている
これからAIの時代に入る。それはとめられない。AIを使いこなす人たちによって、AIが使えない人が淘汰される世の中になる。そうであれば、AIを使いこなす側に回れば生き残れる。これは、とても単純で明快な事実だ。
新しいイノベーションに対する恐怖心や抵抗感を持つ人は意外に多いが、AIという逃れられないイノベーションに対峙するためには、そこを乗り越えなければ話にならない。
私たちが思っている以上に、AIの創造的破壊はすさまじいものになる。
この「創造的破壊」の現実に目を向けることが、生き残るための第一歩である。さらにAIが進化することで、過去に存在しなかった新しい職業やビジネスが生まれる。今の仕事が残るにしても、AIと共存するカタチになる。
重要なのは、その変化を恐れずに受け入れ、むしろ逆にAIを駆使する能力を武器にして、自分自身を進化させることなのだ。
まず、AIに対する理解を深め、技術そのものを学ぶことが不可欠だ。しかし、単なるプログラミングや技術的な知識を学ぶという意味ではない。AIが社会やビジネスに与える影響を理解し、その中で「自分がどのようにこの技術を活用できるか」を考え、そこに移動する。
ある意味、AIは下剋上のツールとなる。
ダーウィンの進化論では、時代が変わったときに生き残るのは「強い者」でも「賢い者」でもなく、「変化できる者」であると述べている。だから、AIを十分に理解して、それを使いこなすように自分を変化させた者は、これから「強い者」や「賢い者」を打ち倒して下剋上できるようになる。
AIは「従来のルール」を打ち破り、新しい基準を打ち立てていく。この新しいルールを理解できない者、あるいは理解しようとしない者は、「AIを使いこなす人」によって淘汰される。
すでにAIを取り入れた企業や人々が圧倒的な競争力を持ちはじめている。その差は日々拡大していく。現代社会の構造自体が再編されていこうとしている。
取り残された者たちは、たとえ旧来の知識を持っていても、もはや古いルールの中でしか通用しない。AIによって作られる新しいルールのもとでは、その技術に適応し、つねに進化できる者だけが生き残れる。
