楽天SCHDは、FIREを目指す若年層や安定した収入源を求める年配層の強力な武器だ

楽天SCHDは、FIREを目指す若年層や安定した収入源を求める年配層の強力な武器だ

楽天SCHDは、高配当利回り、優れた増配率、幅広い分散投資、そして低コストという、配当重視の長期投資家にとって極めて有利な指標を提供しているのだ。長期的な資産形成において強力な武器が出てきたともいえる。成長よりも安定を求める投資家には最適なのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

楽天・高配当株式・米国ファンド(四半期決算型)

2024年9月27日に販売開始された『楽天・高配当株式・米国ファンド(四半期決算型)』が話題になっている。

通称として「楽天SCHD」とも呼ばれているものだが、これはETF【SCHD】をトレースしたものであり、以前から高配当ETF【VYM】よりもパフォーマンスが良いと話題になっていたものでもある。

後発の株式ファンドにもかかわらず、わずか5営業日で残高100億円を突破し、直近1年間で設定されたファンドの中で最短記録を樹立した。この急速な成長は、投資家からの強い支持を如実に物語っている。

楽天SCHDの主な魅力は、安定した高配当利回りと長期的な増配期待にある。

大元になっているETF【SCHD】は、主に10年以上連続して増配している米国株を投資対象としているのだが、100社に及ぶ幅広い業界への分散投資がなされ、上位10銘柄を見ると、以下のようになっている。

ホームデポ:4.37%(不動産)
ブラックロック:4.33%(金融)
シスコシステムズ:4.23%(ハイテク)
シェブロン:4.13%(エネルギー)
ロッキード・マーティン:4.07%(航空)
ブリストル・マイヤーズ スクイブ:4.05%(ヘルスヘア)
ベライゾン・コミュニケーションズ:4.01%(通信)
ファイザー:3.98%(ヘルスヘア)
テキサス・インスツルメンツ:3.89%(ハイテク)
アムジェン:3.85%(ヘルスヘア)

セクター分散も特徴的で、金融(17%)、ヘルスケア(15%)、消費財(14%)などバランスの取れたポートフォリオを構築している。現在の配当率は、3.41%である。

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高配当を求める投資家に【SCHD】は最適だ

興味深いのは、【SCHD】の増配率は、これまでの平均をみると11.39%となっていることだ。非常に高い増配率で長期投資に適している。

配当再投資による複利効果は強力で、毎月5万円の投資を20年間継続すると、毎月30万円の配当金が得られる可能性がある。

この高配当利回りと安定した増配率が他の高配当ETFを凌駕するパフォーマンスとなっている。FIRE(Financial Independence, Retire Early)を目指す層や、年金に上乗せの収入を求める50代、60代の投資家には最適ではないだろうか。

こうした長期投資の場合は、キャピタルゲインよりも、時代の荒波に左右されない安定性が求められることが多いのだが、【SCHD】は100社にほどよく分散されたポートフォリオを持ち、特定のセクターや企業への依存リスクを低減している。

セクター別では金融、ヘルスケア、消費財、エネルギー、ハイテクと、特定業種への過度の偏重を避けた多角的なアプローチが取られており、ETFの組成もバランスが重視されているのが見て取れる。

現在はAI(人工知能)が社会を変革しようとしている時代だが、だからといってハイテク分野に資産のすべてを投じていると、いつかこのセクターが不調に陥った際、ポートフォリオ全体が大きな損失をこうむるリスクが高まる。

長期保有するためのETF(上場投資信託)は、このリスクを軽減するために、複数の業種や企業に分散投資をおこなうのが一般的だ。

特に、金融、ヘルスケア、エネルギー、ハイテクなど異なるセクターにバランスよく投資することで、特定の業種が低迷しても他の業種の成長がポートフォリオ全体を支える役割を果たす。【SCHD】はそのあたりがよく考えられていると思う。

コスト面でも楽天SCHDは競争力がある。信託報酬は0.192%と非常に低く、他の高配当ETFと比較しても優位性が高い。この低コスト運用は、投資家の資産運用効率を高める重要な要素となっている。

つまり楽天SCHDは、高配当利回り、優れた増配率、幅広い分散投資、そして低コストという、配当重視の長期投資家にとって極めて有利な環境を提供しているのだ。長期的な資産形成において強力な武器が出てきたともいえる。

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短期間で資産を急激に増やすことはできない

ただ、分散を重視したバランス型のETFの保有は、パフォーマンスでは個別銘柄や特定の業界に絞ったETFには負けてしまうことを理解しておく必要がある。分散するというのは安全と安定を目指すものであり、資産を急速に膨らませるものではない。

分散投資というのは、そういうものなのだ。

分散するとリスクが低減される一方で、急成長するセクターや銘柄の利益を最大限に享受できない。たとえば、ハイテク業界が急騰したとしても、バランス型ETFは他の業種にも投資しているため、全体のリターンは限られる。

つまり、安定性を重視するために成長性が犠牲になる面がある。楽天SCHDはあくまでも、大きなリスクを回避しつつ、安定した成長を目指す投資対象であり、短期間に資産を増大化することについては期待できない。

まして、高配当ETFではなおさらキャピタルゲインを大きく得るのが難しくなる。高配当ETFは、安定的に配当を支払う企業に重点的に投資するため、通常は成熟した大企業が多く含まれているからだ。

これらの企業は成長期を過ぎ、収益を再投資して急成長を目指すよりも、株主に配当金を還元することを優先している。そのため、株価の大幅な値上がりを期待するのは難しい。楽天SCHDもまさに、そうしたタイプのETFである。

もうひとついうと、楽天SCHDを含む高配当ETFは、アメリカの経済減速や、金利上昇、インフレ進行などが起こると、そのパフォーマンスに悪い影響を与える可能性が高まる。

特に金利上昇時には、配当利回りの相対的魅力が低下し、投資家がよりリスクの低い債券や現金に資金をシフトする。つまり、株価が下がる。そういうリスクも楽天SCHDを含む高配当ETFにはある。

こうした問題点をわかっていて、それでも高配当を享受した投資プランを立てたいのであれば、楽天SCHDは十分に役に立つETFであるといえる。

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長期投資家には検討に値する投資対象だ

楽天SCHDは、その優れた配当利回り、高い増配率、効果的な分散投資、構成銘柄の安定性、ETFとしての流動性、そして低コスト運用という点から、長期投資家にとって非常に魅力的な選択肢である。

たしかに高配当ETF特有の課題は存在するのだが、FIREを目指す若年層や、安定した収入源を求める年配層にとっては、配当金再投資による複利効果は強力な資産形成ツールとなる。

他のETFとの比較においても、楽天SCHDは明確な優位性を持つ。【VYM】や【VIG】と比較しても配当利回りや増配率が高いのだから、長期的なキャッシュフローを重視する投資家にとっては理想的な選択肢となり得るのだ。

高い増配率を見ると、毎月5万円の投資で20年後に毎月30万円の配当金を得られる可能性があるわけで、そうだとしたら20年後の配当額を見据える長期投資家にとっては強力なインセンティブとなるはずだ。

個人的には、楽天SCHDは長期投資家には検討に値する投資対象であると見ている。

とくにFIREを考えている層や、50代、60代の「配当重視」の投資家にとっては、願ってもない商品だろう。どちらの投資家も、失敗が許されない投資が求められる。つまり、資産の増大よりも資産の安定性に重きが置かれる。

資産の安定性でいえば、高配当の成熟企業は非常に有利である。成熟企業は基本的にインフレにも耐性があるし、どこかで株式市場が大暴落したとしても、高配当が株価を下支えするので、下がりにくく回復しやすい側面もある。

楽天SCHDに含まれている銘柄はそういうものが多い。

楽天SCHDが一瞬で人気になったのは理解できる。日本は高齢層が多く、彼らのほとんどは、成長よりも安定を求めているからだ。楽天SCHDは、彼らの人生を支える強力な武器になり得る。

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