
Amazon、Google(Alphabet)、Metaといった巨大なテクノロジー企業が、あまりにも巨大化し過ぎているので、これを分割しようとする動きが米政権の中である。本当に分割されるのかどうかは未知だが、強引な企業分割は投資家にとっては悪い影響をもたらすはずだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
分割で新たな混乱や非効率性が生じる恐れ
Amazon、Google(Alphabet)、Metaといった巨大なテクノロジー企業は、世界経済を支配する存在となっている。これらの企業は、クラウドサービス、検索エンジン、ソーシャルメディア、広告といった複数の分野において、莫大な市場シェアを誇る。
たとえば、Googleは全世界の検索エンジン市場で90%を超えるシェアを持ち、MetaはFacebookとInstagramのユーザー数が合わせて30億人を超える規模である。Amazonはeコマースにとどまらず、AWS(Amazon Web Services)でクラウド市場のリーダーとして君臨している。
このような企業は、市場に大きな影響力を持ち、新たな競争が生まれにくいと米政権や司法省が強く批判している。とくに司法省はそのように考えている。その司法省の上にバイデン政権があるのだが、このバイデン大統領もハイテク企業を含む巨大企業の影響力を抑制する姿勢を明確に打ち出している大統領だ。
これによって、消費者利益を保護し、市場の競争を促進させようという考えかたがその根底にあるのだが、とすれば、この企業分割の動きの黒幕はバイデン大統領その人かもしれない。
しかし、この批判に基づく企業分割が本当に市場の健全性に資するかについては、疑問の声も少なくない。独占禁止法の観点から見れば、競争が阻害される可能性は考えられるかもしれないが、それ以上に分割には大きなリスクが伴う。
分割をおこなうことで、新たな混乱や非効率性が生じるからだ。
たとえば、Amazonが分割されると、配送の効率性やプライムサービスの統合性が失われ、消費者に不利益が生じる可能性がある。同様に、Googleも検索エンジンと広告プラットフォームが分割されることで、両者の強みが損なわれ、全体としての競争力が低下するリスクがある。
企業分割を進める理由のひとつは、かつてAT&TやStandard Oilといった企業が分割され、競争が激化し、新たなイノベーションが生まれたという成功例に基づいている。しかし、過去の事例と現在の状況は大きく異なっている。
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最終的には消費者やビジネス全体に悪影響を与える
まず、現代のテクノロジー企業は、単一の産業やサービスに依存しているわけではなく、複数の関連分野でシナジーを発揮していることが特徴だ。
たとえば、Amazonはクラウドサービス(AWS)だけでなく、eコマースや広告事業も展開しており、これらが統合されることで大きな競争優位を確立している。
また、技術の進化に伴い、現代の企業はデータやインフラに依存している部分が大きい。Amazonのような企業が提供するクラウドサービスは、インターネット上の膨大なデータを処理し、効率的なサービスを提供するために不可欠な存在だ。
これを分割することで、イノベーションやサービスの質が低下し、最終的には消費者やビジネス全体に悪影響を与える可能性がある。
たとえば、2023年にFTCがAmazonを訴えた際の主張のひとつは、Amazonがプラットフォーム上で競合を排除し、自社製品を優遇しているというものであったが、企業側は分割によってイノベーションが損なわれることを懸念している。
Amazonのような多角的な企業にとって、各事業が相互に関連し合うことで、効率的な運営や新たなサービスの提供が可能となっている。このため、分割されれば、それらのシナジーが失われ、企業の競争力や革新力が低下する危険性があるのだ。
さらに、投資家にとっても分割は重大な影響を及ぼす可能性がある。
Amazon、Google、Metaに依存する投資家が非常に多い中で、これらの企業が分割されると動揺と混乱が発生する。分割によって株式の価値がどうなるかは不確実であり、過去の成功例がそのまま現代に適用される保証はない。
特に、テクノロジー企業においては、統合的な経営が競争力の源泉であり、分割が企業全体の効率を損なうリスクは無視できない。
企業分割がかならずしも市場の競争を促進し、健全化するわけではない。むしろ、分割によって生じる混乱や非効率性が市場全体に波及し、特定の分野でのイノベーションが滞ることも考えられる。
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企業を分割する極端な方法はリスクが大きい
たとえば、分割された企業が互いに協力し合えなくなることで、開発スピードが遅れ、イノベーションが減速する可能性がある。
企業側が分割に強く反対しているのは、自己の利益を守るだけでなく、分割がイノベーションや消費者の利益を損なうことが明白であるからでもある。
たとえば、MetaはVRやメタバースやAIなどに新たな成長機会を模索しており、規制当局の干渉がそれらの開発を遅らせる可能性がある。
Googleにおいても、広告部門の分割がユーザー体験に悪影響を及ぼすとして反対している。彼らは分割による短期的な利益よりも、長期的な企業価値や革新の維持を重視しているのだ。
たしかに競争環境を厳しく監視し、不公正な競争を防ぐための強力なガイドラインを設けることは必要かもしれない。しかし、これらのハイテク企業を分割するという極端な方法は、あまりにもリスクが大きい。
特に、グローバルな規模で事業を展開している企業にとって、各国の規制や法律の差異を調整しながら分割を進めることは非常に困難であり、そのあいだに市場や技術が急速に変化してしまうリスクもある。
私は、これらの企業が分割されることなく、現在の形で健全な競争を促進する方法を模索すべきだと考えている。
分割がおこなわれれば、短期的には市場に混乱をもたらし、長期的にも企業全体の成長を阻害する可能性が高い。分割によってこれらの企業が持つ強力な革新力や効率性が失われることは、消費者や社会全体にとっても大きな損失となる。
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次期大統領はどのように動くのだろうか?
2024年8月5日、連邦地方裁判所は「Googleは独占企業だ」という結論に達し、司法省の訴えを認める判決を下している。この判決を受けて、司法省はGoogleの独占状態を是正するための策を検討している。
アメリカのメディアによると、司法省はGoogleの閲覧ソフト「Chrome」やスマートフォンの基本ソフト「Android」などの事業を分割する案、あるいは「YouTube」と「広告部門」を分割する案などが検討されている。
連邦地方裁判所が分割などの是正策が妥当だと判断すれば、Googleの経営に大きな影響を与える可能性がある。
実現すれば、アメリカで最大規模の企業分割となるはずだ。この動きは、Googleだけでなく、他のメガテック企業(Amazon、Apple、Metaなど)のビジネスモデルにも影響を与える可能性があり、世界的な注目を集めている。
本当に分割に至るのかどうかは今のところ誰にもわからない。もし企業が分割されると、その株式の価値がどうなるかは投資家にとって意見がわかれるところだ。もちろん、分割にはメリットがあると主張する投資家もいる。
Googleに関しても、YouTubeはYouTubeで、広告部門は広告部門で、AndroidはAndroidで、それぞれが大きな競争力を持つので、分割されればさらに成長していくという理屈だ。ただ、シナジー効果は失われるので、本当にそう都合良く成長できるのかどうかはわからない。
何らかの規制強化は必要だとしても、かならずしも分割が最善策ではないはずだ。
企業が持つ強みを活かしつつ、適切なガイドラインの下で健全な競争を維持することが、未来に向けたもっとも現実的な解決策となるはずだが、司法省がそのように思っておらず、ひたすらメガテックを敵視している。
ところで、そろそろ大統領が変わる。次期大統領はどのように動くのだろうか。
副大統領のカマラ・ハリスも、バイデン政権の一員としてバイデン大統領の考えかたに沿ってはいる。しかし、彼女自身はそれほどこだわりがなく、バイデン大統領とは温度差がある。
ドナルド・トランプ前大統領は、MetaやAmazonと折り合いが悪いので、報復の意味で分割案を進める可能性がある。次期大統領の動きによっても、この分割案のゆくえは変わっていくだろう。
