現代のイノベーションの中心にあるTSMCは、投資に値する企業であると断言できる

現代のイノベーションの中心にあるTSMCは、投資に値する企業であると断言できる

世界最大の半導体ファウンドリー企業がTSMCである。TSMCが持つ強みは圧倒的であるが、この強みがアメリカには脅威に映って「台湾が我々から半導体事業を奪った」と批判されるようになっているのは皮肉な話でもある。この企業の最大の弱点は地政学的リスクなのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「台湾が、我々から半導体事業を奪った」

話題の渦中になっている重要企業がある。台湾半導体製造公司(TSMC)だ。ドナルド・トランプ前大統領は、「台湾が、我々から半導体事業を奪った。我々は彼らを阻止し、課税し、関税を課すべきだったのだ」と述べているのだが、その台湾の中心にあるのが、まさにこのTSMCなのだ。

この企業は世界最大の半導体ファウンドリーとして、現代のデジタル社会に不可欠な役割を果たしている。

2023年時点で、TSMCは世界の半導体製造において59%以上の市場シェアを誇り、これは驚異的な数字である。同社はAppleやNVIDIA、AMDなどの世界的なテクノロジー企業にチップを供給しており、その技術力は業界トップクラスだ。

現代のスマートフォン、スーパーコンピュータ、そしてAI開発において必要不可欠な高性能チップを製造できる技術力がある企業は限られており、TSMCはその中でも圧倒的な存在感を持っている。

柔軟性の高さでも際立っており、顧客のニーズに応じてカスタマイズされたチップの製造をおこなうことができるのが同社の強みだ。AIから5G、IoTといった急成長分野においても、迅速な対応力を発揮している。この柔軟性こそが、他の競合を寄せつけない理由のひとつである。

単なる技術的優位性だけでなく、経営戦略やサプライチェーン管理の卓越した能力も見逃せない。特にサプライチェーンの強固な体制は、TSMCがパンデミックや地政学的リスクに直面しても、迅速に対応し続けられる要因となっている。

TSMCが持つ強みは圧倒的であるが、この強みがアメリカには脅威に映っており、「台湾が我々から半導体事業を奪った」と批判されるようになっているのは皮肉な話でもある。

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4年で、株価は3倍以上に膨れ上がった

TSMCに投資する上で注目すべき数字は、多岐にわたるが、まず売上高の成長率に注目すべきかもしれない。

2023年、同社の売上高は前年比で約25%増加していた。まだパンデミックの余波でサプライチェーンが混乱していた時期だった。にもかかわらず、TSMCは持続的な成長を遂げたことを意味する。

売上高が増え続けている背景には、スマートフォン市場や驚異的な需要のAI関連、そして5G技術の普及がある。

営業利益率はつねに30%を超えているのだが、この数字も業界全体では突出している。通常、半導体業界は激しい価格競争と巨額な設備投資が必要なため、利益率が圧迫されがちだ。

ところが、TSMCは技術的優位性とコスト競争力を併せ持ち、高い収益性を維持しているのだ。これは、技術力だけでなく、コスト管理の徹底が成功している証拠でもある。

もうひとつ注目すべき数字は、資本投資額である。

TSMCは2023年に約350億ドルを新規設備投資に充てた。これは、次世代半導体技術に対する投資を積極的におこなっている証だ。7ナノメートル、5ナノメートルに続く、3ナノメートルや2ナノメートルの製造プロセスの研究開発も進んでおり、これが将来的に大きな成長ドライバーとなることは間違いない。

こうした現状が、TSMCの株価にも反映されている。2020年は60ドル台だった株価は、いまや190ドルをうかがおうとしている。株価は3倍以上に膨れ上がったことになる。

この急成長は、半導体需要の爆発的な拡大によるもので、特にAppleやNVIDIAといった大手顧客の需要が安定していることが背景にある。投資家にとっては、この安定成長は見逃せないポイントであり、TSMCの株は「長期保有に適した銘柄」として評価されている。

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TSMCは大きな問題に直面する可能性もありえる

しかし、その絶好調のTSMCに忍び寄っている影が、地政学的リスクである。

2024年10月14日にも、中国軍は台湾を取り囲むように大規模な軍事演習をおこなっている。空母や爆撃機なども参加した大規模な軍事演習であった。有識者は「来年以降も同様の演習が継続し、常態化する可能性がある」と述べる。

この台湾という地理的要因は、同社にとって大きなリスク要因となる。中国と台湾の関係が悪化すれば、半導体の供給に甚大な影響を及ぼすことは避けられない。

また、米中間のテクノロジー戦争が激化する中で、TSMCは両国間の狭間で戦略を練らなければならない。この政治的なリスクは、他の企業に比べて大きなハードルとなっている。

こうした地政学リスクに乗じるカタチで、ライバル企業がシェアを奪い返そうと動いている。特にSamsungやIntelが、TSMCに対抗する形で巨額な設備投資をおこない、技術開発を加速させている。

Samsungは5ナノメートルプロセスで追い上げを見せ、Intelもファウンドリー事業への参入を強化している。これらの競合企業が、いずれTSMCの市場シェアを奪いにくることも考えられる。

技術的な課題にも直面している。半導体の微細化が進むにつれて、物理的な限界に近づいており、3ナノメートル以下の製造プロセスには莫大なコストと技術的チャレンジが伴うのだ。

もしこれらの課題を乗り越えられなければ、TSMCは競争に遅れをとる危険性がある。加えて、環境負荷やエネルギー消費の増加も問題視されており、持続可能な技術開発が求められている。

たとえば、世界的な脱炭素化の流れは、エネルギー集約型の半導体産業に対する逆風となる。こうした、あらゆる問題がTSMCに襲いかかっているわけで、その進む道は平坦ではないだろう。次期大統領の動きや、中国政府の動きで、TSMCは2025年にも、大きな問題に直面することもありえる。

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現代のイノベーションの中心にあるTSMC

しかし、中国が台湾を攻め込むというのは、中国はアメリカおよび西側諸国すべてを敵にまわすということである。当面は、そんな軍事的冒険はできないだろう。そして、SamsungもIntelも、TSMCに今すぐ追いついて勝てるほどの技術力はない。

とすれば、TSMCが生き残り、さらなる成長を遂げる可能性は、かなり強いということでもある。同社の技術力とイノベーションは、他社には真似できないレベルにある。特に次世代技術に対する積極的な投資と研究開発は、他社の追随を許さない。

加えて、TSMCは顧客基盤が強力である。AppleやNVIDIAといった大手顧客との長期契約により、安定した需要が見込まれている。これにより、短期的な市場変動や政治的リスクがあっても、ビジネスの基盤が揺らぐことはない。

地政学的リスクについてはTSMCも十分に認識しており、そのために同社は他国への生産拠点の分散を急激に進めて問題に対処しようとしている。すでにアメリカや日本などへ生産拠点を分散した。

現在、AIによるイノベーションが世界を覆い尽くそうとしている。このイノベーションの根幹となるのが超最先端の半導体であり、この半導体を大量生産できる能力を持っているのがTSMCなのだ。

この企業の技術力と製造能力は、AIの進化と普及に不可欠であり、今後もAI産業の成長を支える中心的な存在であり続ける。

結論として、TSMCへの投資は有望な選択肢であり、その技術力、リーダーシップ、そしてリスク管理能力が、投資家にとって「見逃せないチャンス」を提供するものだと気づくはずだ。

TSMCが直面するリスクや課題を認識しつつも、この企業が持つ圧倒的な強みは、投資家にとって信頼できる要素だ。現代のイノベーションの中心にあるTSMCは、投資に値する企業であると断言できる。

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