モルガンスタンレーのテッド・ピックCEOは、同社が成長の初期段階にあると豪語

モルガンスタンレーのテッド・ピックCEOは、同社が成長の初期段階にあると豪語

2024年のモルガンスタンレーの第3四半期は32%の増益を記録している。テッド・ピックCEOは、最近CNBCのインタビューを受けているのだが、そのときに同氏が強調していたのは、「モルガンスタンレーは成長の初期段階にある」という言葉だった。非常に強気だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

モルガンスタンレー【MS】という金融企業

モルガンスタンレー【MS】の株価が上昇している。同社は、グローバル金融市場でその強力な存在感を維持している大手投資銀行のひとつである。特に資産運用や投資銀行部門において、その市場シェアは群を抜いており、近年の業績も安定的に推移している。

モルガンスタンレーは、単なる金融機関としての機能にとどまらず、資産運用や投資銀行業務を中心とした「総合金融サービス企業」として進化している。その結果として、安定した業績が成し遂げられている。

たとえば、モルガンスタンレーは富裕層向けの資産運用部門で、特に優れた成果を挙げている。

現代の資本主義は格差を生み出す社会なのだが、貧困層が増えているのを尻目に、富裕層の資産が爆発的に増大し、ウェルス・マネジメント(富裕層向けの資産運用)は大きなニーズになっているのだった。

2023年には、同社のウェルス・マネジメント部門の収益が全体の40%以上を占め、安定したキャッシュフローを生み出す重要な柱となっている。特に、富裕層向けの資産管理は、不況期にも影響を受けにくいという特徴があり、モルガンスタンレーの成長を支える要因のひとつだ。

さらに、モルガンスタンレーの投資銀行業務は、M&A(企業の合併・買収)やIPO(新規株式公開)などの分野で強いパフォーマンスを発揮している。

これは特に、企業の戦略的な意思決定や資金調達をサポートする能力において、同社が他社に対して優位性を持っているからである。近年では、特にテクノロジー分野やヘルスケア分野でのM&A案件が増加しており、これがモルガンスタンレーの成長を押し上げている。

モルガンスタンレーの強みはその多様性にある。グローバル規模でのネットワークを持ち、さまざまな市場や地域に対応できる柔軟性がある。これにより、アメリカ国内だけでなく、ヨーロッパやアジア市場でも積極的にビジネスを展開し、成長機会を逃さない。

こうしたこともあり、モルガンスタンレーを推す投資家は多い。それが株価の上昇にも現れている。

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モルガンスタンレーのグローバル戦略

モルガンスタンレーの現CEOであるテッド・ピックは、近年のインタビューやアナリスト向けのプレゼンテーションで、同社のビジネス戦略や今後の展望について意欲的な発言を繰り返している。

テッド・ピックCEOは、最近CNBCのインタビューを受けているのだが、そのときにピックCEOが強調していたのは、「モルガンスタンレーは成長の初期段階にある」という言葉だった。

ピックCEOは「今後は小規模企業よりも、大規模で成熟した企業がIPOをおこなうことが増える」と予測しており、投資銀行部門においては次の数年間でさらに大きな成長を取りにいくことを示唆した。

さらに、ピックCEOはモルガンスタンレーのグローバル戦略にも触れている。

「アメリカ市場だけでなく、日本やインド、ヨーロッパでも再上場やM&A活動が活発化している」と述べ、モルガンスタンレーがこうした地域でのビジネスチャンスを捉えるために積極的に投資をおこなっていることを強調した。

これは、単なる国内市場に依存するのではなく、世界規模での多様な成長機会を追求する姿勢を示している。注目すべきはインドだろう。同社のアナリストは、MSCIエマージング・マーケッツ指数におけるインド株のウエートが近い将来中国を上回り、最大になると予測している。

この成長をモルガンスタンレーも取りにいく。

モルガンスタンレーは経済環境や市場の変動に対して、迅速かつ効果的に対応する能力を持っている。これが同社の競争優位性を支えている。

金融にかかわる企業はしばしば政策金利の変化に業績が左右されるのだが、モルガンスタンレーは景気と金利環境が変化しても、それに対応できるように企業体制を整えているといえそうだ。

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ビジネスチャンスを的確に捉えようとしている

景気が悪化したら金融系の企業は大きなダメージを受ける。景気悪化により企業や個人の返済能力が低下し、貸し倒れが増加する可能性が高まり、損失が拡大するからだ。

さらに景気が悪化すると低金利政策が取られることが多く、金融機関の主要な収益源である金利収入が減少する。企業の設備投資や個人の住宅投資が減少し、新規融資の需要が落ち込む。

だからこそ、景気悪化の際のダメージを回避するための経営の多角化が必要なのだが、モルガンスタンレーの富裕層相手の資産運用は、まさに「景気悪化に左右されない部門」であったのだ。

また、グローバル部門の事業展開も不景気のダメージを回避するための手法のひとつであるともいえる。アメリカが不景気なのであれば、リスクマネー(投機資金)はアメリカから出ていって成長しそうな国に流れる。

現在、その「成長しそうな国」がインドである。モルガンスタンレーがここに網を張っておくというのは、要するに「仮にアメリカの景気が悪化したとしても、流れ出るマネーをインドで捕捉する」というわけだ。

グローバルを見まわすと、つねにどこかにブルマーケットがある。アメリカがダメになればなるほどブルマーケットは海外で発生する確率が高まる。モルガンスタンレーはそれを拾う準備も抜かりない。

もちろん、インドだけではなくアジア市場でも中東市場でもモルガンスタンレーはそれぞれ網を張って、リスクマネーを受けとめることができる。そうやって、ビジネスチャンスを的確に捉えようとしているのだ。

ちなみに、モルガンスタンレーは日本にも深くかかわっている。2024年3月期の純営業収益は1,358億円で過去最高を記録し、純利益も327億円と11年ぶりの高水準となっている。

日本で事業展開する外資系証券会社の中で、モルガンスタンレーのこの純利益は上位に位置している。

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モルガンスタンレーは非常に魅力的な選択肢

ただ、こうした戦略も政治的な思惑や、各国の経済情勢の変化で、完璧に無傷でいられるわけではない。世の中はいつでも不透明であり、今後も予測不可能な出来事は何でも起こる。

次の大統領がカマラ・ハリスになるのか、ドナルド・トランプになるのかも、まだわからない。新大統領の新政策で貿易摩擦や地政学的リスクが高まった場合、国際的なビジネス展開に制約が生じる可能性も十分にある。

それでもなお、モルガンスタンレーは強力なブランド力とグローバルなネットワークを持つ企業であり、長期的な成長を期待できる投資対象であるといえる。

テッド・ピックCEOが示す「成長の初期段階」にあるという認識は、同社がまだ大きな成長余地を抱えていることを示している。

ちなみに、2024年のモルガンスタンレーの第3四半期は32%の増益を記録している。トレーディング収入と投資銀行業務の手数料収入が予想を上まわった。第3四半期のトレーディング収入は前年同期比13%増だった。

市場業務は業界全体で好調で、投資銀行業務の手数料収入が回復している。富裕層の資産運用部門の収入は72億7,000万ドルで、アナリスト予想を上まわった。資産の純流入は640億ドル。手数料を生む資産の増加で税引き前利益率は28%に上昇。

債券トレーディング収入は20億ドル、株式トレーディング収入は30億5,000万ドルに増加、M&A助言手数料は5億4,600万ドルで、すべて予想を上まわった。

テッド・ピックCEOは投資銀行業務の回復を好機とする見解を示し、「運用資産10兆ドルを目指す」としている。今後数年間での成長を見据えた長期的な投資戦略を考えるのであれば、モルガンスタンレーは非常に魅力的な選択肢となるだろう。

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