インテル【INTC】かつては世界最大の半導体メーカーがもはや打つ手なしの凋落へ

インテル【INTC】かつては世界最大の半導体メーカーがもはや打つ手なしの凋落へ

株式市場でもインテルへの期待は低く、投資家はもはやインテルを見捨てている。インテルは過去に度重なる戦略ミスを犯し、技術革新において競合他社に大きく後れを取った。同社の経営戦略が成功する方向に賭けるのは、あまりにも無謀に見える。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

かつては世界最大の半導体メーカーだったが

ここまで凋落するものなのか……。それが、業界の人々の率直な思いだろう。

インテル【INTC】はかつて世界最大の半導体メーカーとして君臨し、PC市場やサーバー市場での圧倒的なシェアを誇っていた。しかし、近年、競争力の低下と経営戦略の迷走により、業績も株価も低迷している。

特に、NVIDIAやAMDとの競争が激化し、AI関連技術や高性能半導体市場において大きく出遅れたことが、凋落の主な要因として挙げられる。

インテルは、特にAI向けGPU市場での競争力強化を目指し、Gaudiシリーズを投入したものの、NVIDIAのCUDAエコシステムに太刀打ちできず、そのシェアを拡大することは困難であることが判明した。

また、PC向けプロセッサ市場でも、AMDがRyzenシリーズでインテルを圧倒する性能を提供し、市場シェアを奪われる状況が続いている。こうした背景から、インテルの株価は過去数年間で急落し、2024年現在でもその回復の兆しは見えていない。

さらに、インテルは製造プロセスの遅れが深刻である。

2020年以降、7nmプロセスの開発が大幅に遅れた結果、同業他社に対して技術的な優位性を失い、製品開発のスピードが停滞している。半導体業界において製造プロセスの微細化は競争力の源泉であり、この遅れは致命的だ。

インテルは、ファウンドリ事業(他社製品の半導体を受託生産する事業)の強化を打ち出したものの、その成果が業績に反映されるまでには時間がかかる。長年、内製に依存してきたインテルが、外部企業向けの製造技術やプロセスを短期間で整備することは簡単ではない。

ファウンドリ事業が軌道に乗るまで、インテルは先行するTSMCに対抗するための資本投資を続ける必要があるが、これがインテルの経営にとって新たなリスクとなり得る。

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もはや王者NVIDIAに対抗することができない

インテルは技術力では、もはや王者NVIDIAに対抗することができなくなっている。

そのためインテルは、NVIDIAやAMDがしのぎを削っているハイエンド市場で戦うのではなく、よりコスト効率の良いAIソリューションを提供する方向にシフトしようとしている。

実際、インテルに残された道はこれしかないように見える。しかし、この新たな戦略がインテルを立て直すことができるかは不透明だ。

インテルのAIアクセラレーター「Gaudi3」は、推論ワークロードに特化し、コストパフォーマンス面では優位性を持つとされるが、NVIDIAが提供するような幅広いエコシステムと互換性がないため、開発者や企業が移行するインセンティブが弱い。

たとえば、NVIDIAのCUDAエコシステムは、多くのAIフレームワークやライブラリと連携しており、開発者が効率的にAIモデルを開発・運用できる環境を提供している。市場においては、技術的なパフォーマンスだけでなく、エコシステムの構築も重要になってくるのだが、インテルはそこが脆弱なままだ。

単に高性能なハードウェアを提供するだけではなく、開発者を引きつけるエコシステムを持つことが、半導体市場での成功の鍵となる。インテルはこの点で遅れをとっており、競争環境は厳しいままである。

特に、NVIDIAはAI関連技術で圧倒的なシェアを誇り、CUDAエコシステムを通じて他社をリードしている。

NVIDIAのCUDAは、GPUを利用した高効率なデータ処理を可能にし、特にAI(人工知能)や機械学習、科学計算、シミュレーションなどの分野で広く利用されている。このエコシステムは、NVIDIAのハードウェアとソフトウェアを統合し、開発者がGPUの性能を最大限に引き出せるよう設計されている。

CUDAエコシステムの強みは、長年の開発と支援により、膨大な数の開発者や企業がこれを採用している点にある。これにより、NVIDIAはAIやデータセンター市場での圧倒的なシェアを誇り、他社が容易に追随できない強力な競争力を持っている。

今さらここにインテルが割り込もうとしても、もう手遅れなのだ。

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インテルの戦略が混迷していることを示している

では、インテルの強みであったPC向けやサーバー向けのプロセッサではどうか。ここではAMDに追い抜かれた。

AMDはインテルに比べて先進的な製造技術を採用し、PC向けやサーバー向けのプロセッサで市場シェアを拡大している。AMDは台湾のTSMC(台湾積体電路製造)と提携し、最先端の7nm、5nmプロセス技術をいち早く導入した。

たとえば、AMDのRyzen(ライゼン)シリーズはPC向け市場で高い評価を受け、特にゲーミングPCやクリエイター向けの高性能モデルで大きなシェアを獲得している。

また、サーバー向けにはEPYC(エピック)シリーズを展開し、クラウドサービスやデータセンター向けの需要に応えた。これにより、AMDはインテルの強みであったサーバー市場にも進出し、インテルのシェアを奪い取った。

インテルはAMDの進化に追随できず、製品性能でも市場のトレンドに対応できていない状況が続いている。こうした背景から、PC向けやサーバー向けのプロセッサ市場において、AMDがインテルに対する優位性を確立しつつある。

台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は、すさまじく強大なファウンドリである。この企業については、こちらでも書いた。(現代のイノベーションの中心にあるTSMCは、投資に値する企業であると断言できる

TSMCに比べ、インテルの製造プロセスの遅れはあきらかであり、製品の競争力を確保するための技術的なキャッチアップが求められている。これまでインテルは自社工場での製造を重視してきた。

今になってファウンドリ事業の強化に転換したことは、インテルの戦略が混迷していることを示している。自社での製造能力を維持しつつ、ファウンドリ事業を強化することは、大きな投資を伴うものであり、リスクも高い。

AIや自動車向けの半導体需要が急増する中、技術で劣り、さらに供給体制を整えることができなければ、インテルはさらに市場から取り残されてしまうだろう。

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むしろ見捨てるべきだという見解が支配的となった

インテルの経営悪化は、歴代CEOの失敗の結果でもある。ポール・オッテリーニの時代には、スマートフォン市場への参入チャンスを逃したのは痛烈に痛かった。インテルはARMベースのチップに対して消極的な姿勢を取り、モバイル市場でシェアを獲得することができなかった。

ブライアン・クルザニッチの時代には、10nmプロセスの開発が大幅に遅れ、製品投入が数年にわたり延期されたことが問題となった。これにより、AMDやTSMCに対する技術的優位性を失い、競争力が著しく低下した。

ボブ・スワンの時代には、ファウンドリ事業の見直しやAI市場への投資強化を試みたものの、競争環境に対する対応が後手にまわった。特に、ファウンドリ事業における戦略の迷走が目立ち、インテルの凋落が決定的となった。

現CEOのパット・ゲルシンガーは、ファウンドリ事業の再構築とAIへの投資を強化する方針を掲げているが、過去の遅れを取り戻すには相当の時間と資金が必要であり、その効果がどの程度業績に反映されるかは不透明である。

インテルが新たな戦略を打ち出し、ファウンドリ事業やAI市場でのポジションを確保するための具体的なアクションを取らなければ、未来は厳しいといわざるを得ない。

株式市場でもインテルへの期待は低く、投資家はもはやインテルを見捨てている。

過去に度重なる戦略ミスを犯し、技術革新において競合他社に大きく後れを取っているインテルの経営戦略が成功する方向に賭けるのは、あまりにも無謀に見えるからだ。それよりも、勝ち馬のNVIDIAやAMDに賭けたほうがよっぽど確実だ。

市場は、インテルが自らの競争力を回復するのは困難であり、経営戦略が成功する可能性は低いと見ている。希望的観測ではなく、現実的な視点からすれば、インテルの株に投資することは無謀であり、むしろ見捨てるべきだという見解が支配的となってしまったのが今のインテルの現状だ。

ここまで凋落するものなのか……。私自身もそう思いつつインテルを見つめている。

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