Netflixを見て思うのは、「コンテンツすらもアメリカの巨大企業が世界を飲み込んでいくのか?」という驚きである。コンテンツは、それぞれの国の企業がローカルな特色を活かして作るものであり、グローバル企業とは無縁の業界だとは思った。そうではなかった。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
時代を席巻するNetflixというコンテンツ企業
日本のテレビは凋落していく一方だが、それに変わって台頭しているのが、Netflix【NFLX】である。莫大な制作費で質の高いドラマを製作して、日本人の若者もNetflixに夢中になっている。
私自身も、アメリカの貧困層を描いた『ヒルビリー・エレジー』、タイの貧困層を描いた『レッドライフ(Red Life)』、インドの人身売買を描いた『バクシャク(捕食者)』を見たいがためにNetflixに1か月だけ加入した。
そして、これらの映画を見て、Netflixの質の高さに驚いたのだった。素晴らしかった。
Netflixは世界的なエンターテイメント企業であり、主に定額制のストリーミングサービスを通じて、映画やドラマなどのコンテンツを提供している。その設立は1997年にさかのぼり、当初はDVDの郵送レンタルサービスとしてスタートしたが、2007年にはデジタルストリーミングに転換し、以降、世界中での成功を収めた。
Netflixの強みはオリジナルコンテンツの制作にある。2013年にリリースされた「ハウス・オブ・カード 野望の階段」を皮切りに、独自の番組制作を積極的に進め、人気ドラマや映画を次々と生み出して時代を席巻する企業となった。
特に、視聴データを基にした独自のアルゴリズムを活用して、視聴者の好みに合わせたコンテンツを提供する点が、他のストリーミングサービスとの差別化を図る一助となっている。
Netflixは日本でもっとも人気のある有料動画配信サービスのひとつとなっており、オリジナルのローカルコンテンツ作成を重要な戦略として展開している。
加えて、Netflixは世界中のローカルコンテンツを購入し、それをグローバルに展開するという戦略を取っている。世界中の多様な文化背景を持つ作品を取り込むことで、視聴者を魅了し続けているのだ。65%の回答者がNetflixのオリジナル作品の質が高いと評価している。
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Netflixは着実に成長を続けている
Netflixの経営モデルは、サブスクリプション方式で安定した収益を確保しながらも、つねにコンテンツ制作への投資を惜しまないことで、競争激化するストリーミング業界の中で生き残り続けている。
いまやこの企業は、エンターテイメント業界において単なるコンテンツの提供者を超えた存在となり、独自のブランド価値を築いたともいえる。
2024年第3四半期の決算のあと、Netflixの株価が跳ね上がった。売上高も、純利益も、優良会員数も、有料会員総数も、すべて予想よりも高かったことに投資家は好感した。
売上高や純利益の増加は、新たな加入者数の増加と、既存ユーザーからの平均月額料金の上昇によってもたらされている。オリジナルコンテンツの成功も収益の増加に寄与しており、特に世界的な話題を集めた作品が多かったことが奏功している。
それにしても、7〜9月の3か月だけで売上高が98億2,470万ドルとは尋常ではない。日本円にして約1兆4,800億円である。たった3か月で1兆4,800億円を売り上げることに、Netflixのすごさがある。
純利益は23.6億ドルで41%増である。収益の増加とコスト削減の取り組みによる効果がうかがえる。
長期的にみると、この企業はどうなのか。売上高過去5年間で年平均成長率は13.7%の伸びを示している。これはストリーミングサービス市場で競争が激化する中でも、Netflixが着実に成長を続けていることを意味する。
売上高の安定的な増加は、世界中での加入者の増加と、魅力的なコンテンツ制作への投資が主要な要因となっている。
利益についても、過去5年間で売上総利益、営業利益、当期純利益のすべてが成長している。特に営業利益と純利益は年平均成長率でそれぞれ27.8%と30.5%の成長を見せており、収益性の向上が顕著だ。
Netflixは多額の投資をコンテンツ制作に注ぎ込んでいるが、それによって視聴者数を増加させ、収益を効率的に回収しているということになる。
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アジア市場は成長余地が大きい市場だ
EPS(1株当たり利益)もBPS(1株当たり純資産)も右肩上がりの増加を続けている。Netflixの成長が株主にも利益をもたらしていることが見て取れる。
一方で、Netflixは配当金を支払っていない。つまり、利益を株主に直接還元するのではなく、内部留保してさらなるコンテンツ制作や市場拡大に再投資している。これは成長企業によく見られるアプローチで、特にストリーミング市場の競争が激化している現在、再投資を選択することは合理的でもある。
総じて、Netflixは売上高の堅実な成長、利益率の改善、株主資産の増加といった面で強いパフォーマンスを見せており、今も成長過程にある。
しかし、競争の激化が一段と顕在化している点に注意を要する。特に、Disney+、Amazon Prime Video、HBO Maxといった他の競合サービスとの熾烈な競争が続く中で、いかにしてユーザーを惹きつけ続けるかが課題となっている。
Netflixは、オリジナルコンテンツに注力することによって、独自の競争力を確保しようとしている。
この戦略は、過去数年間で一定の成果を上げてきたが、制作費の増加は今後の収益性に影響を及ぼす可能性がある。制作コストが膨らむ一方で、加入者増加ペースが鈍化すれば、利益率が圧迫されていく。
また、地域別の成長についても、アジア地域やヨーロッパ市場の開拓が進む中で、現地の文化や視聴習慣に合わせた戦略が重要となる。特にアジア市場は、エンターテイメント消費の成長余地が大きいことから、Netflixにとってはさらなる収益源のひとつとなりうる。
加えて、投資家にとっては、Netflixがどの程度安定してキャッシュフローを生み出せるかが関心の的だ。
キャッシュフローの健全な管理は、負債の増加を抑え、財務の健全性を維持するために重要だ。ここでの継続的なプラスのキャッシュフローは、株主への還元や将来的な投資に大いに役立つ。
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成長の余地とリスクのバランスをどう捉えるか
Netflixへの投資を考える際に、いくつかの要因が影響する。
まず、成長の余地とリスクのバランスをどう捉えるかが重要だ。特に、コンテンツ制作費の高騰と、それに見合った視聴者の増加がどのように進むかという点は、投資家として慎重に見極めておく必要があるかもしれない。
現在のところ、Netflixは安定的なキャッシュフローと利益を生み出しているが、競争環境の厳しさが今後の収益力にどの程度影響を与えるかは未知数である。競合他社も続々とオリジナルコンテンツに投資しており、視聴者の奪い合いが激化しているのだ。
Netflixは新技術の導入やインタラクティブコンテンツの提供など、新しいエンターテイメント体験の創出にも注力しているが、長期的な視聴者維持に役立つかは現時点では誰にもわからない。
しかし、こうした先進的な取り組みは、リスクを伴いながらも、未来の可能性を秘めているといえるだろう。
総じて、Netflixは成長のポテンシャルを秘めているものの、投資には一定のリスクがある。競争激化と制作費の増大に対処しながら、いかにして安定した収益基盤を築けるかが問われる。
投資家としては、これらのリスクを理解した上で、ポートフォリオの一部として検討するのが賢明であるかもしれない。結論として、Netflixへの投資は中長期的な視点で行うべきであり、リスクを適切に管理することでその価値を最大限に引き出せる可能性がある。
私自身もNetflixを、成長するコンテンツ企業として興味深く見ている。
しかし、私自身は連続もののドラマはいっさい見ることがなく、映画も年に数本しか見ないタイプなので、Netflixの動向を追う自信がない。今年はたまたまNetflixの映画を3本見る機会があったが、それで終わっている。
財務を見ると、この企業が成長する素晴らしい企業であるのは理解できるのだが、私にはコンテンツ業界そのものがよくわからない。Netflixは、自分の投資できる分野ではないと感じている。
そこが少し残念だが、ETF【VTI】などで取り込んでいるので、まったく無縁でもない。今後もS&P500に含まれる企業として、この企業を追っていきたい。
それにしてもNetflixを見て思うのは、「コンテンツすらもアメリカの巨大企業が世界を飲み込んでいくのか?」という驚きである。コンテンツは、それぞれの国の企業がローカルな特色を活かして作るものであり、グローバル企業とは無縁の業界だとは思ったが、それは思い込みであったことをNetflixは示している。