
エクシアは「年間利回りは最大97.4%に達することもある」などと自称して出資を募っていたのだが、すべては虚構だった。最終的には出資者約9,000人を騙して負債総額850億円で破綻した。このような「うさんくさい企業」に騙されないようには何をすべきだったのか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
エクシアという「自称・投資企業」の破綻
2024年10月18日、エクシアという「自称・投資企業」が東京地方裁判所より正式に破産手続き開始決定を受けることになったと報じられている。負債総額は850億円を超え、出資者は約9,000人にのぼっていた。
エクシア合同会社は2015年に設立された投資会社で、東京都墨田区に本社を構え、菊地翔という男が代表を務めていた。
エクシアは「高い利回り」をうたい、主に個人出資者から850億円以上の資金を集めた。彼らは「年間利回りは最大97.4%に達することもある」と自称し、2016年から2021年にかけて急速に規模を拡大させていた。
事業内容は、不動産投資やプライベートエクイティ、事業性融資など多岐にわたり、さまざまな資産運用をおこなっていることになっていた。
だが、2022年頃から出資者の不信感がSNS上で広まりはじめた。事の発端は2022年4月頃、エクシアが出資者に対して「評価額返還上限額到達のお知らせ」を公表し、返金や配当が予定通りにおこなわれない状況が発生したことだった。
これにより、多くの出資者が資金を引き出そうとする一方で、払い戻しの制限がおこなわれ、出資者は自分たちの資金が凍結される形となった。「エクシアに出資したが出金ができない」といった投稿が増加し、出資者がパニックに陥った。
さらに、代表の菊地翔が高級クラブで遊びまわっていたり、不動産などに多額の資金を投じていたことが発覚した。こうした一連の出来事が引き金となり、複数の訴訟が提起され、エクシア被害対策弁護団が結成されるまでに至った。
この一連の事態は、出資者に巨額の損失をもたらし、社会的な注目を集めた事件となったのだ。
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何もわかっていない人間たちを釣る手口
エクシアは出資者に「社員権」を購入させる形式で資金を集め、「この社員権を通じて高い利回りを享受できる」と宣伝していた。通常、投資信託やその他の金融商品は厳格な監督が必要だが、エクシアは合同会社の社員権として出資を募ることで、これらの規制から逃れた。
たとえば、年間利回りが30〜90%という魅力的な数値が公表され、出資者に対して「高収益」を強調する手法を用いていた。また、エクシアは広告塔として著名人やインフルエンサーを積極的に活用し、信頼感を演出した。
うさんくさい企業が、著名人やインフルエンサーにカネを払って広告塔にすることはよくある手口だ。特に、金融商品や投資案件の場合、これらの企業は「信頼」を得るために有名人をカネで使うことで、多くの人々に影響を与えやすい。
事情をわかっている投資家であれば、よくわからない企業が著名人やインフルエンサーを使って出資を募っている時点で警戒するのだが、あまり世の中のことをよくわかっていない人は、「著名人が宣伝している」というだけでなぜか信用する。
うさんくさい企業は、その著名人やインフルエンサーの知名度を利用してSNSやメディアを通じて高収益の実績をアピールし、何もわかっていない人間たちを釣っていくのだが、エクシアがやっていたのは、まさにそうした手口の典型であったのだ。
さらに、エクシアの代表である菊地翔も「成功したトレーダー」としてメディアに登場し、「過去に高い利益率を達成した」と、実績を強調していた。しかし、のちに元副社長が内部告発をおこない、これらの実績が捏造である可能性を示唆しており、実態は不透明である。
この元副社長によると、エクシアが公表していた利益率の多くが、実際には正当な運用によるものではなく、帳簿上の操作や虚偽の報告によって作り出されたものである可能性が高い。
「年利97.4%」や「2,520%の利益率を達成した」みたいなのを根拠もなく信じる人がいるというのは、なかなかすごいことだ。無邪気な人たちなのだろう。
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エクシアのビジネスモデルは奇妙で危険だった
エクシアのビジネスモデルは、冷静に見れば奇妙で非常に危険なのがわかる。
「社員権」を購入させる形式で資金を集める手法は、カネを出す人間を「社員」として扱い、法的な規制を回避するための手段として使われていた。法の抜け穴として使われていたのだ。
通常の金融商品であれば、金融商品取引法に基づく厳しい監視と情報開示が求められるが、エクシアは合同会社の形式を利用し、出資者を「社員」として取り込み、リスクや運用の詳細な説明を避けていた。
これにより、出資者は自身の資金がどのように運用されるのかを把握できないまま、高い利回りの幻想に惑わされて、資金を使われ放題にされてしまった。
さらに、「年利97.4%」や「2,520%の利益率」という数字は、あきらかに現実離れしている。
投資の世界でこのような高利回りは極めて異常だ。ここでも冷静に考えると、過度にリスクの高い運用か、ただのウソか、または不正行為がおこなわれている可能性が高いと普通なら気づく。
エクシアは具体的な運用方法をほとんど公開しておらず、出資者がリスクを正しく認識することを妨げていた。これは、実態を隠し出資者を欺く典型的な手口であり、透明性が欠如していることは致命的だ。
おまけに、エクシアは著名人やインフルエンサーを広告塔として利用し、出資者に「信頼感」を与える戦略も使っていた。こうした著名人やインフルエンサーはカネをもらって動いているだけであり、こんなのを信じても何の保証にもならない。
まさにエクシアは「あの手この手」で出資者を騙していたということになる。エクシアのようなビジネスモデルは信じるに値しない。しかし、約9,000人がこの手口に騙されていたのだから驚く。
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うさんくさい企業に騙されないようにするために
現代はこれほどの情報化社会であり、誰でも手軽に投資情報にアクセスできる環境が整っている。だが、いまだにうさんくさい企業に騙される人が後を絶たないのは、金融リテラシーが欠如していることが根本的な原因ではないだろうか。
多くの人々は基本的な運用方法やリスク管理について十分な知識を持っていない。これが、エクシアのような高利回りを謳う「危険な企業」「うさんくさい企業」に引っかかる要因になっている。
金融リテラシーを高めることは、自分の資産を守り、正しい投資判断をするための基礎である。金融リテラシーを高めることができれば、自分で証券口座を開いて、株式市場で普通株を手に入れることができる。
うさんくさい企業のうさんくさい人物に、自分の大切なカネを渡して投資してもらわなくてもいい。自分で勉強し、自分で考え、自分で株式市場を見つめ、普通株を購入する。結局はそれが一番「堅実」でたしかなのだ。
株式市場の情報は公正に公開されており、投資家は企業の業績報告やアナリストの評価、さらには市場全体の動向をリアルタイムで確認することができる。これにより、投資家は自分でリサーチし、情報に基づいて合理的な判断をくだすことができる。
エクシアのような投資案件は「高利回り」を売りにしており、多くの初心者にとって魅力的に映る。だが、高利回りは高リスクと表裏一体であり、基本的には長期的かつ安定した運用とは異なる。
普通株のように情報が開示され、公平に取引がおこなわれる市場とは異なり、うさんくさい企業は具体的な運用内容やリスクを隠蔽する傾向がある。なぜ、こんなものにカネを払う必要があるのか。
金融リテラシーを身につけ、自分で情報を収集し、合理的に判断することができれば、エクシアのようなうさんくさい投資案件に引っかかることはない。
現代社会では、誰でもインターネットを通じて膨大な情報にアクセスできる時代である。この情報を活用し、正しい知識を得て、慎重に投資することができれば、リスクを最小限に抑え、資産を着実に増やすことができるはずだ。
エクシアの出資者は最初からそうすべきだったし、今後は自分で投資することで失われた資金を増やしていくべきだろう。
