AIを支えるクラウドの存在は、長期投資の観点から重要な選定要素となる。Amazon、Microsoft、Alphabetの3社は、いずれもクラウド基盤を持ち、AI技術と密接に結びつくことから、長期的な投資において特に注目される企業でもある。私も強い関心を持って注視している。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ハイパースケーラーなデータセンターが頭脳
AI技術が今後の産業において中心的な役割を担うことは、誰も疑う余地がない。そして考えるべきことがあるとしたら、そのAIはハイパースケーラーなデータセンターが「頭脳」となることだ。
このデータセンターについては、すでに3つのメガテックが巨大データセンターを保有し、運営し、実績と利益を出している。
AWSを持つAmazon【AMZN】
Azureを持つMicrosoft【MSFT】
Google Cloudを持つAlphabet【GOOG】
これらのAIを支えるクラウドの存在は、長期投資の観点から重要な選定要素となる。Amazon、Microsoft、Alphabetの3社は、いずれもクラウド基盤を持ち、AI技術と密接に結びつくことから、長期的な投資において特に注目される企業でもある。
まずAmazonだ。同社はeコマース企業として出発したが、AWS(Amazon Web Services)を通じてクラウドコンピューティング市場を掌握し、世界最大のクラウドプロバイダーへと成長した。
AmazonのAWSは、クラウド市場全体の31%を占めており、これは実に他のクラウドサービスの追随を許さない強さだ。
クラウド技術は今やAIの実行環境として必要不可欠であり、ほとんどの企業が自前でシステムを維持管理する代わりに、AWSのようなクラウドプラットフォームを利用している。
この点において、AmazonはAI技術の普及と進化において、極めて重要なポジションを占めている。
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どの企業もトップ3強に追いつくのは容易ではない
Alphabet(Google)もまたAI分野において非常に強力な地位を築いている。Googleはインターネット検索市場の90%を支配しており、その膨大な検索データはAIを訓練する上で他に類を見ない価値を持つ。
また、YouTubeやAndroidといった世界的なサービスを所有することで、同社は多岐にわたるユーザーデータを保有しており、AI開発において大きなアドバンテージを持っている。
データはAIの根幹を成す要素であり、この豊富なファーストパーティデータ(ほかの企業など第三者の手を介さず自社が直接集めた情報)を持つことが、Alphabetの強みだ。
一方、Microsoftはクラウドサービス「Azure」を通じて、AI分野での投資を加速させている。同社はOpenAIと提携し、GPTシリーズをはじめとした大規模なAIモデルの開発・提供をおこなっている。
また、企業向けにAI技術を簡単に導入できるソリューションを提供し、ビジネスプロセスの効率化を支援している。こうした取り組みを通じて、Microsoftは企業のデジタルトランス・フォーメーションに深くかかわりながらAIに邁進している。
これら3社は、AIとクラウドの結びつきにより、それぞれ異なる強みを活かしている。
Amazonはクラウド・プラットフォームのリーダーであり、Alphabetはデータの王者、そしてMicrosoftはAI技術の提供を通じて企業の業務効率化を推進する。これらの強みが合わさり、AI分野における長期的な成長と投資の魅力を高めているのだ。
他にもOracleやIBMなどもクラウド事業をおこなっているのだが、トップ3強に追いつくのは容易ではない。トップ3強は既存の顧客基盤や膨大な資本力を持ち、開発スピードも早く、ユーザーが求める機能を迅速に提供できる体制が整っているためだ。
さらに、AIやデータ解析、IoTなどの高度なサービスも急激に進化させている。新規参入者や後発企業がこれらに対抗するには多大な資源と時間が必要であり、結果として競争力の差が広がっていく。トップ3強はクラウドでは圧倒的に強いのだ。
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クラウドとAIは企業の成長を支え続ける
Amazonだが、同社のAWS事業は、2023年に年間売上高約907億5,700万ドルを記録し、同社の営業利益の大部分を占めている。この売上は前年比で13.3%増加しており、クラウドサービスの需要が引き続き高いことを示している。
Amazonのeコマース事業は成長が鈍化している一方で、AWSは安定した収益源として存在感を強めている。さらに、広告事業も急成長しており、これが新たな収益源となっている。
Alphabetの数字を見ると、2023年の売上高は約3,073億9,400万ドルで、その内訳の大半が広告収入である。検索市場のシェアは90%に達しており、この支配的地位が同社の広告収益を支えている。
もちろん、Google Cloudも堅調に成長しており、2023年の売上は約330億8,000万ドルに達している。この成長は、クラウドサービスとAI技術の需要が増加していることを反映しており、今後も重要な収益源となる。
Microsoftに関しては、Azureの成長が特筆に値する。クラウド部門全体の売上高は、2024年6月時点で約620億ドルと報告されている。この成長は、前年から33%の増加を示しており、これは従来の報告よりも高い成長率となっていた。
Azureは市場シェアにおいてAWSに次ぐ地位を占めており、特に企業向けのクラウドサービスにおいて強力な存在感を示している。
さらに、同社の「Office 365」や「Dynamics 365」などのソフトウェアとAI技術を組み合わせたソリューションは、すでに多くの企業にとっては不可欠なツールとなっている。
AIとクラウドはつねに補完し合う存在であり、切り離すことはできない。クラウドのインフラはAIに必要な「膨大な計算リソース」を提供し、合理的かつ効率的な環境を整えているからだ。
投資家にとって、クラウド・インフラとAIの成長は、収益の安定性と長期的なリターンの基盤となる。AI市場は年々拡大しており、企業が競争力を維持するためには、クラウドベースのAIソリューションの導入が避けられない。
AIによるイノベーションが続く限り、クラウド事業者は安定的に収益を上げ続け、投資家にとっても魅力的な投資対象であり続けることは疑いようがない。クラウドとAIのシナジーは、次々と企業の成長を支え続けるだろう。
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もちろん、どんな巨大企業にも問題点は存在する
もちろん、どんな巨大企業にも問題点は存在する。Amazon、Alphabet、Microsoftも例外ではない。
これらのメガテックはどれも、独占禁止法がひとつの大きな課題となっている。メガテックの持つハイパースケーラーなクラウドサービスは他社が追随できない。そのため、その独占的影響力が市場をゆがめているとして批判されている。
Alphabetは深刻だ。同社は「検索市場での支配的地位を利用して競争を阻害している」との批判を受けている。米国司法省から独占的行為の疑いで訴えられており、会社分割の噂すらも出ている。
また、広告市場における競争が激化しており、Meta(旧Facebook)やTikTokがシェアを奪おうとしている。場合によっては、Alphabetの広告収益が将来的に圧迫される可能性がある。
Microsoftも、AI分野での競争激化に直面している。同社はOpenAIとの提携を通じてAI技術の進展を図っているが、他の企業も次々と大規模AIモデルの開発に参入しており、競争はますます激化している。
また、クラウド市場ではAmazonと激しく競り合っており、価格競争やサービスの差別化が今後の成長に影響を及ぼす可能性がある。
いずれは、景気の悪化もこれらの企業にとっては逆風となるはずだ。
世界的な景気減速や金利上昇はIT企業全体にダメージを与える。景気が減速すると、どの企業も、設備投資やクラウド利用を抑制するからだ。景気悪化が深刻で長引くほど、クラウドサービスの成長が疎外される。
景気は循環するのだから、いずれはそうした事態に直面することになるのだろう。
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これらの企業はそれを乗り越え成長し続ける
しかし、これらの問題が存在するにもかかわらず、Amazon、Alphabet、Microsoftの3社は障害を乗り越え、引き続き成長し続けると私は信じている。
その理由は、まず第一にこれらの企業が持つ技術力と市場での圧倒的な地位にある。
Amazonはクラウド市場でのリーダーシップを維持し続けるはずだ。AWSの市場シェアは他の追随を許さず、新たなサービスの提供やコスト効率の改善により、引き続き顧客からの支持を得ていく。
また、広告事業の成長は同社にとって新たな収益源となり、これがeコマースやクラウド事業の成長を補完していく。
Alphabetは、圧倒的なデータ量を活かしてAI技術を進化させていく。検索データだけでなく、YouTubeやAndroidから得られるユーザーデータを利用することで、同社はAI分野において他社が追随できないほどの優位性を持ち続ける。
そこに「Google Cloud」の成長が乗るのだ。同社はAIについてもGeminiで着実に布石を打っているのだが、これがクラウド市場でも競争力を高めていくのは必至だ。広告以外の新たな収益の柱となるだろう。
Microsoftは、Azureを通じてクラウド市場でのシェアを拡大しているだけでなく、OpenAIとの連携によりAI技術の最前線に立っている。
同社はAzureを「新しいAIオペレーティングシステム」として位置づけ、AIインフラを強化している。そして、独自のチップ「Azure Cobalt」「Azure Maia」「Azure Boost」の開発にも投資し、ハードウェア面でも競争力を高めている。
この実用性こそが、Microsoftの強力な競争優位性を支えている。
これらの企業は、それぞれが持つ強みを最大限に活用しながら、市場の変化に対応する能力を持っている。たとえ短期的な逆風があろうとも、これらの企業はそれを乗り越え、引き続き成長し続ける。
個別銘柄への長期投資では、こうしたメガテックは非常に有望に見える。もし、アメリカ株式市場全体をトレースするETF、【VTI】【VOO】【SPY】などに投資するとしても、これらの巨大メガテックが含まれているので心配いらない。
AIはアメリカ企業と社会の生産性を格段に向上させて、もっと成長していく。アメリカへの長期投資は現代の資本主義の安全域であるともいえる。そのトップに君臨するこの3社は注目に値する。