AIによる電力需要を取り込む重要な電力企業3社。安定的成長は株価を押し上げる

AIによる電力需要を取り込む重要な電力企業3社。安定的成長は株価を押し上げる

今後、AIはすべての産業を覆い尽くす。そのため、データセンターやクラウドインフラは、文明の最重要施設となっていく。とすれば、この最重要施設の電力を供給する企業もまた重要になっていくというのは誰でもわかるはずだ。投資家にも注目されているホットな分野だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「電力需要は減少することはない」のが重要

今後、AIはすべての産業を覆い尽くす。そのため、データセンターやクラウドインフラは、文明の最重要施設となっていくのだが、これらの施設はAIアルゴリズムの処理に膨大なエネルギーを消費する。

シティグループによると、データセンターの電力需要は2030年までに米国全体の電力消費の約10.9%に達すると予測されており、これは現在の約4.5%からの大幅な増加を意味する​。

この電力需要の拡大が、電力業界に新たな成長機会をもたらしており、電力会社の業績も好調な推移を見せている。S&P500指数の公益事業セクターは、過去3ヶ月で15.4%上昇し、S&P500指数全体の4.2%上昇を大きく上まわった。

特に注目すべきは、2024年第1四半期の公益事業セクターのEPS(1株当たり利益)が、事前予想の前年同期比24.2%増から33.4%増に上方修正されたことだ。

さらに、公益事業のサブセクター別でみると、「独立系の電力事業者および再生可能エネルギー」が前年同期比142%増、「電力事業者」が同58%増と、特に高い成長率を示している。

これらの数字は、データセンター需要が電力会社の業績に直接的な影響を与えていることを示唆している。

データセンターの電力需要は今後も拡大が見込まれる。クラウドコンピューティングの普及、5G通信の展開、IoTデバイスの増加など、デジタル化の進展に伴い、データ処理量は加速度的に増加する。

この電力需要は増加することがあっても減少することはない。この電力増加トレンドが重要なのだ。投資家にとってそれは「長期的な成長」がそこに存在することを意味する。成長あるところにカネが集まる。

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これら3社が重要な位置づけになっていく

JPモルガンが注目する3社、ビストラ【VST】、タレンエナジー【TLN】、コンステレーションエナジー【CEG】は、それぞれ独自の強みを持つ。

ビストラは、テキサス州を中心に41ギガワットの電力供給能力を持つ大手電力会社だ。2024年3月にエナジー・ハーバーとの合併を完了し、原子力発電能力を2.4ギガワットから6.4ギガワットに拡大した。

この合併により、ビストラは増大する電力需要を取り込んで成長する重要な企業へとなっていった。2024年第1四半期の調整後EBITDAは前年同期比54%増と、市場予想を16%上まわる好業績を記録している。

タレンエナジーは、アメリカの独立系発電会社であり、主に中部大西洋地域やモンタナ州で事業を展開している。

約10.7ギガワットの電力インフラストラクチャーを所有・運営しており、その発電ポートフォリオは多様で、原子力発電所や低炭素ガス火力発電所を中心に、石炭火力発電所も保有している。

特に注目すべきは、サスケハナ原子力発電所に隣接して開発中のハイパースケールデータセンターである。このプロジェクトでは、原子力発電所が生産する無炭素エネルギーを活用し、データセンター需要の高まりに応えることを目指している。

コンステレーションエナジーも、原子力発電に強みを持つ電力会社だ。2024年第1四半期の調整後EPSは前年同期比2.3倍に増加し、市場予想を57%上まわった。この企業もデータセンターの電力需要を取り込んでいく。

これらの企業に共通する強みは、安定的な電力供給能力と、環境に配慮した発電方法の採用である。特に原子力発電は、安定的な電力供給が可能なため、データセンター向けの電力供給の本命となっている。

アメリカ政府はAIが次の覇権の中心的存在になることを理解しており、メガテック各社もデータセンターの安定的運用のために原子力発電に振り切ろうとしている。

ビストラ【VST】、タレンエナジー【TLN】、コンステレーションエナジー【CEG】は、その中で重要な位置づけになっていくのが理解できるはずだ。

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環境保護活動家グループが最大の敵になるか?

しかし、これらの電力会社が直面する課題も存在する。

もっとも大きな問題は、エネルギー市場の価格変動リスクだ。ビストラの例を見ると、統合型ビジネスモデルにより、きめ細かいリスク管理をおこなっているものの、市場価格の急激な変動は業績に大きな影響を与える可能性がある。

また、再生可能エネルギーの導入には、多額の投資と広大な土地が必要となる。ビストラの場合、9,000MWの再生可能エネルギー導入には147,540エーカーの土地と、ガス発電の10倍の投資が必要とされている。これは、短期的には企業の財務負担となる可能性がある。

気候変動による異常気象も、電力会社にとって大きなリスクとなっている。

異常気象が引き起こす発電能力の低下は、電力供給の安定性を脅かす。これに対し、ビストラは再生可能エネルギーとガス発電を組み合わせることで対応を図っているが、昨今の異常気象に対応できるかどうかは未知数でもある。

さらに、送電網の整備にかかる追加コストも無視できない。再生可能エネルギーの導入に伴い、新たな送電設備が必要となるケースが多く、これが電力会社の収益性を圧迫する可能性がある。

社会情勢の面では、エネルギー政策の変更や環境規制の強化が、これらの企業の事業展開に影響を与える可能性がある。特に原子力発電に関しては、安全性への懸念から政策が変更される可能性があり、注視が必要だ。

さらに今後、AIは「反原発」の環境保護活動家グループが最大の敵になっていく可能性もある。彼らの運動が野火のように広がっていくと、それがAIのアキレス腱になってしまうだろう。

また、原発事故が発生したら、一瞬でこれらの企業の時価総額は吹き飛ぶ。これについては、東日本大震災による原発事故を経て東京電力が苦境に立ったのを見てきた日本人にはセンシティブな懸念になるようにも思える。

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安定的な投資銘柄として私も期待している

ただ、メガテック各社もこうした事故を検証して、より安全でより堅牢な小型原発の開発を中心に進めている。さらに既存の原発についても、安全性がより厳密に要求されていくようになる。

そのため、私たちの想定以上に今後の原発は重大な事故を防止できる可能性が高い。ビストラ、タレンエナジー、コンステレーションエナジーの3社は、今後も電力業界において重要な位置を占め続けるだろう。

データセンター需要の継続的な拡大は、投資家には見逃せないトレンドである。AI技術の進化、クラウドサービスの普及、IoTデバイスの増加など、デジタル化の波は今後も続いていく。

これらの企業は技術革新にも積極的だ。ビストラは、SMR技術や水素技術、長期間エネルギー貯蔵技術の開発も進めている。次世代を見据えた新しい技術は、将来のエネルギー市場において重要な役割を果たすと期待されている。

ビストラ、タレンエナジー、コンステレーションエナジーの3社は、今後も電力業界において重要な役割を果たし続けると同時に、投資家にとっても魅力的な投資先であり続けると考えられる。

ビストラは、長期の電力供給契約を通じて収益の安定性を確保しており、株価も堅調だ。コンステレーションエナジーは、原子力発電所のコスト削減効果とクリーンエネルギー需要の拡大によって、持続可能な成長を実現しようとしている。

また、タレンエナジーもAmazonとの協力を通じてデータセンター市場において成長機会を探っており、豊富な市場機会を活かして成長しようとしている。

データセンター需要の拡大、環境への配慮、技術革新への取り組み、そして健全な財務状況。これらの要素が、この3社の長期的な成長と価値創造を支えていくはずだ。これらの企業は、安定的な投資銘柄として私も期待している。

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