
株式投資で「一気に億万長者になる」という夢は、特に個人投資家にとっては強い誘惑であり、それが彼らを市場に引き寄せる一因となっている。誰もが短期間で大きな利益を得たいと願って、今時点でもっとも話題になっている上昇株を買おうとする。しかし……(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
「一気に億万長者になる」夢に幻惑される
株式投資において、「一攫千金」は多くの投資家を惹きつける魔力となる。100万円が1年で1,000万円になったとか、30代で億超えを達成したとか、そういうのを人々は自分の身に起こることを求めている。
特に、近年のテクノロジー企業やスタートアップの急成長、ビットコインのような仮想通貨の高騰などを目の当たりにすると、「あれを買っていれば自分も金持ちになれたかもしれない」と妄想する。
株式投資で「一気に億万長者になる」という夢は、特に個人投資家にとっては強い誘惑であり、それが彼らを市場に引き寄せる一因となっている。誰もが短期間で大きな利益を得たいと願って、今時点でもっとも話題になっている上昇株を買おうとする。
そうした株式は、いつの時代でもいくつかある。わずか数年で数倍以上に跳ね上がり、それを保有していた初期投資家たちは莫大な利益を得る。
その背後には数多くのリスクが潜んでいるのだが、それでも投資家は「一気に億万長者になる」夢を見せてくれるかもしれない投資対象に惹かれ、のめり込んでいく。
実際、運良くそうした派手な銘柄で成功する人も出てくる。
多くの新規投資家は、このような成功例に刺激され、真似して同じ銘柄を買う。しかし、彼らが飛びついたときがピークであることもよくある話だ。一攫千金を狙う投資家の多くが、それで結果的には大損する。
株式投資は、その本質的な性質上、リスクとリターンのバランスを取ることが求められる。高リターンを求めるのであれば、それに伴うリスクも同様に高くなる。「簡単に一攫千金を狙える」と思い込むのは非常に危険だ。
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素人の投資家が年間100〜200%を目指す?
過去数年の市場でも、多くの新規投資家が「FOMO(Fear of Missing Out)」、つまり「取り残されることへの恐れ」に駆られ、冷静さを失い、過度なリスクを取る行動に走っていることが問題となった。
彼らは、利益が出ると考える限り、リスクを過小評価しがちで、損失をこうむる可能性を見落としてしまう。
米国の株式市場では、S&P500指数が年平均約7%から10%のリターンを示している。これに対し、一攫千金を狙う投資家がしばしば追い求める個別株のリターンは、はるかに高い。20%や30%でも満足せず、100%や200%だったりする。
現実を見ているプロは年間パフォーマンスが10%から20%でも満足しているのだが、素人の投資家は逆に100%から200%を目指しているのだから、けっこう無謀だというのがわかるはずだ。
個別株のパフォーマンスは極めて不安定であり、多くの投資家が想定するようなリターンは、簡単に得られないことのほうが大きい。
最近では、ロビンフッドのような株取引アプリを通じて、取引をおこなう個人投資家の行動が目立った。ロビンフッドのデータによれば、同社のユーザーの多くは短期的な利益を求めて、リスクの高い株式やオプション取引を選んでいる。
しかし、その結果として、ほとんどが損失をこうむっていることが判明している。ある調査によると、個人投資家の約80%が、1年間で平均して15%以上の損失を記録している。
さらに、彼らは短期間で株価が急騰する「ミーム株」に投資する傾向もあるが、これらの株式は一時的なブームにすぎず、長期的には価値が低下することが多い。
2021年に急騰したゲームストップの株価は、短期間で数倍に上昇したが、そのあとは急激な下落を見せ、多くの投資家が深いダメージを負った。これらの事例からも、一攫千金を狙う株式投資は、つねにリスクが伴うものであり、確実なリターンを約束するものではないことがわかる。
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「長期的な資産形成」とは真逆をするな
一攫千金を狙う株式投資の最大の問題点は、リスク管理がおざなりになることだ。
多くの個人投資家は、利益を得ることばかりを考え、リスク管理を怠っていることが多い。特に、株価が上がり続ける局面では、投資家は「自分だけは成功する」という過信に陥りがちだ。
じつは、これこそが一攫千金を狙う投資家に共通する典型的な心理であり、マーケットの変動に対応できずに大きな損失を招く原因となる。
一攫千金を求める投資家は、往々にしてポートフォリオの分散投資を軽視する。その結果、特定の株やセクターに過度な投資をおこない、市場の変動によって大きくやられてしまう。
たとえば、2022年に起こったテクノロジー株の急落では、多くの個人投資家が損失からまぬがれなかった。このとき、多くの投資家がテクノロジー企業に集中投資をおこなっていたため、一部の株価が下落しただけで、ポートフォリオ全体が壊滅的な打撃を受けたのだ。
また、短期間での利益を求めることに執着するあまり、長期的な視野を失ってしまうことも問題だ。
株式市場は本質的に変動性が高いため、短期的な利益にこだわりすぎると、冷静な判断をおこなうことが難しくなる。結果として、過剰な取引で、さらなる損失を招くことが多い。
このような行動は、株式市場の本来の目的である「長期的な資産形成」とは真逆であり、愚かな行動にほかならない。
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自分が何かしなくても、勝手に育ってくれる
株式投資で成功するためには、一攫千金を狙うのではなく、長期的な視点を持つことが不可欠だ。そもそも、市場の短期的な変動で利ざやを儲けようとすることは、投資ではなく投機に近い。
投資の基本原則として、分散投資やリスク管理、そして市場の変動に対する冷静な判断力が求められる。
たとえば、S&P500指数に連動するインデックスファンド・投資信託への投資は、長期的に見て安定したリターンを提供しており、これを10年以上保有することによって着実に資産を増やすことが可能だ。
個別銘柄への株式投資をおこなうのであれば、投資先企業の財務的基盤や将来性を理解し、その企業の成長性や収益性を冷静に分析することが求められる。つまり、企業の本質を知る必要がある。
一攫千金を狙う投資家は、短期的な価格変動にばかり目を向けがちだが、企業の本質的な価値を見極めることが重要だ。これにより、短期的な市場の動きに左右されず、安定した資産形成が可能になる。
株式投資の世界で一攫千金を狙うのは、いろんな面で投資から外れている。
結局、長期的な視点を持ち、リスクを分散しながら、着実に資産を増やしていくことが合理的かつ効率的なのだ。特に、経済の変動が激しい現代においては、短期的な投資戦略では不確実性が増し、失敗のリスクが高まるだけである。
のんびりやればいい。日常を忙しく暮らしていれば、時間はあっという間に過ぎていく。その時間の積み重ねが長期投資の場合は有利になる。長く保有していれば、市場の変動に対する耐性がつき、さらに配当額が増え、複利効果が現れてくる。
自分が何かしなくても、勝手に育ってくれるのだ。これほど良い話は他にない。
