OpenAIがAMDを引き入れてAIカスタム半導体を開発をするが、NVIDIAはどうなる?

OpenAIがAMDを引き入れてAIカスタム半導体を開発をするが、NVIDIAはどうなる?

OpenAIが自社開発のAIチップ製造に向けて動いている。BroadcomとTSMCとの協力体制を構築し、推論処理に特化したAIチップの開発を進める。こうした動きの中で、「そろそろNVIDIAの圧倒的優位性は終わりか?」という議論も出てくるようになった。果たしてどうなのか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

製造が間に合わないくらい需要が逼迫している

OpenAIが自社開発のAIチップ製造に向けて動いている。BroadcomとTSMCとの協力体制を構築し、推論処理に特化したAIチップの開発を進める。この動きは、AIインフラストラクチャーの需要急増に対応するための戦略的施策でもある。

目まぐるしく変わる状況の中で、NVIDIAへ投資をおこなっている投資家のあいだには、「そろそろNVIDIAの圧倒的優位性は終わりなのか?」という議論も出てくるようになってきている。

果たして、この点についてはどのように考えればいいのか?

OpenAIとNVIDIAの関係は複雑だ。両者は密接なパートナーであり、同時に競合相手でもある。そのため、しばしばサム・アルトマンの動きは憶測を呼ぶ。

当初、サム・アルトマンCEOは独自の半導体製造工場ネットワーク構築計画を検討していた。「AIビジネスを再構築するために数兆ドルが必要だ」と2024年2月にサム・アルトマンが述べたとき、その途方もないスケールに世界は仰天した。

しかし、やはりこの計画は莫大なコストと長期の時間を要することから棚上げされ、より現実的なアプローチへと方針転換されたようだ。

OpenAIの新戦略は、内部での半導体設計に注力しつつ、外部パートナーとの協力関係を築くことで、効率的かつ迅速な開発を目指すものだ。特筆すべきは、NVIDIAのGPUに加えてAMDの半導体も採用することだ。

NVIDIAは強大なAI半導体メーカーだが、今はそのNVIDIAですらも製造が間に合わないくらい需要が逼迫している。OpenAIはAMDを加えることで、拡大するインフラ需要への対応力を強化すると同時に、供給源の多様化を図ろうと画策している。

この戦略転換は、シリコンバレーのスタートアップ企業が半導体供給を確保し、コストを管理するために産業パートナーシップを活用する傾向を如実に示している。Amazon、Meta、Google、Microsoftなどの大手テクノロジー企業も同様のアプローチを採用しており、OpenAIの決定は業界全体のトレンドを反映している。

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AI半導体の需要構造の変化がこれから起こる

OpenAIの半導体開発チームは約20名で構成され、GoogleでTPUを開発した経験を持つトーマス・ノリ氏とリチャード・ホー氏が指揮を執っている。2026年には、BroadcomとTSMCの協力のもと、初のカスタム設計半導体の製造を目指している。

このOpenAIの動向を見てもわかるが、半導体セクターは日々、大きな動きが次々と起こっている。

ひとついえるのは、半導体セクターの競争は、より激化していくことである。現在、NVIDIAが市場シェアの80%以上を占めているが、MicrosoftやGoogleやOpenAIやAMDが後を追いかけている。市場構造が変化する可能性が高い。

AMDは2024年にAI半導体の売上が45億ドルに達すると予測しており、NVIDIAの独占状態に追いつこうと必死だ。AMDの半導体はNVIDIAと比較すると価格的には低くなるので、ここにAMDの勝機がある。

OpenAIは今年、37億ドルの収益に対し50億ドルの損失を見込んでおり、その大部分がデータ処理やモデル開発に必要なハードウェア、電力、クラウドサービスのコストだった。AMDと組んだ自社半導体の開発により、これらのコストを大幅に削減できる可能性がある。

折しも、AI半導体の需要構造の変化がこれから起こる。

現在はAIモデルのトレーニング用半導体の需要が大きいが、今後はAIアプリケーションの普及に伴い、推論用半導体の需要が上回ると予測されている。OpenAIの新半導体は主に推論処理に焦点を当てており、「次」を見据えている。

OpenAIは、o1モデルで「思考の連鎖(Chain of Thought)」という手法を取り入れた。(OpenAIのo1モデルを使うのは、知能指数120の天才をアシスタントにするのと同じ

このために多段階の計算や複雑な問題解決が可能になった反面、推論のための計算能力が大幅に増加している。次の戦場は「推論」になる。OpenAIの動向は、TSMC、Broadcom、AMDなどの半導体企業の業績に直接影響を与える。

投資家は、OpenAIの動きをよく観察しておく必要がある。AI業界は、うかうかしていると状況が一気に変わる激烈な市場である。

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NVIDIAの独占はまだ数年は崩れないと考えている

いまや、ハイテク企業のすべてがAIの分野に乗り込んできている。そんな中で、サム・アルトマンが次にどのような一手を打ってくるのかは投資にもかかわってくる話だ。

Microsoftも、Googleも、Metaも、OpenAIも、そして端末側のAI(エッジAI)を取り込もうとしているAppleも、AI半導体の開発に大きな資金を投じている。こうした各社のカスタム半導体開発は、セクター全体に大きな変革をもたらしていく。

今後、AI半導体の性能と効率性の向上が加速する可能性が高い。

OpenAIは自社のAIモデルに最適化された半導体を開発することで、現在のGPUよりも高い性能と効率性を実現したいと考えている。これにより、AIモデルの処理速度を向上させるのがサム・アルトマンの野望だ。

ただ、半導体の設計と製造は今日考えて来月には出荷できるようなものではない。どんなに急いでも2年、3年はかかる。

OpenAIの初のカスタム半導体は早くても2026年の製造開始を目指しているが、それまでの間はNVIDIAの半導体に依存せざるを得ない。また、独自の半導体開発には予期せぬ障害や遅延が発生する可能性もあり、計画通りに進まない可能性もある。

そのため、個人的にはNVIDIAの独占はまだ数年は崩れないと考えている。

もちろん、いずれはNVIDIAも陥落するときがくるだろう。かつてインテルは世界に君臨していたが、今は見る影もなく凋落してしまった。NVIDIAもそういう日が、いずれくるかもしれない。

しかし、NVIDIAの技術的優位性と市場支配力は、依然として圧倒的なので、同社への投資は有望であり続けるのは間違いない。NVIDIAの技術力と生態系は、他社が簡単に追随できるものではない。

NVIDIAのエコシステムの強さも無視できない。多くのAI開発者やリサーチャーがNVIDIAのCUDAなどのソフトウェア・ツールに慣れ親しんでおり、新たなプラットフォームへの移行には大きな障壁がある。

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まだまだNVIDIAは王者として君臨し続ける

OpenAIも、NVIDIAの最高峰の半導体である「Blackwell」へのアクセスを維持するため、NVIDIAとの良好な関係を重視している。

たしかにOpenAIは独自のAI半導体の製造に乗り出しているのだが、OpenAIが自社チップを完成させる頃には、AIモデルの要求がさらに高度化しているはずだ。NVIDIAはつねに最先端の技術を追求しており、そのあいだに技術的なリードを逆に広げる可能性さえもある。

最新のBlackwellチップなど次世代GPUにおいて、NVIDIAは計算速度や電力効率の向上を実現している。これはAI技術の高度化と需要拡大を見据えた動きであり、業界での圧倒的なポジションをさらに強固なものにした。

NVIDIAの圧倒的な優位性は、短期的には揺るがない。

多くの企業が独自のチップ開発を目指しつつも、現実にはNVIDIAに依存するしかない。OpenAIやGoogle、MetaといったAI企業も、生成AIやトレーニングプロセスにおいて高性能なNVIDIAチップの恩恵を受けており、NVIDIAを外せないのだ。

AI企業が目指しているのは、AGI(汎用人工知能)であり、ASI(人工超知能)である。ここに到達するためには、約10兆ドル近い投資と2億個以上ものAI半導体が求められる可能性がある。

最近、著名な投資家であるスタンレー・ドラッケンミラーは「NVIDIAの株を早い段階で売却したことを後悔している。大きな失敗だった」と述べており、価格が下がればふたたび買いに入りたいという意向も示している。

現在、NVIDIAの株価は141ドル台なのだが、バンク・オブ・アメリカのアナリストはNVIDIAの株価を165ドルから190ドルに引き上げて強気を示している。状況を見ていると、まだまだNVIDIAは王者として君臨し続けるという感触のほうが強い。

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