イーラーリリー。決算ミスで一時11%を超える暴落となったが今後の見通しは?

イーラーリリー。決算ミスで一時11%を超える暴落となったが今後の見通しは?

イーライリリーは世界でも最強の製薬企業である。その主力になっているのが肥満治療薬(GLP-1受容体作動薬)だ。しかし今回、イーラーリリーはEPS予想、売上高予想、ガイダンスのすべてでミスしている。この企業について、どのように見ればいいのだろうか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

決算ミスで株価暴落のイーラーリリー

イーライリリー【LLY】が2024年第3四半期の決算をミスしている。EPS予想$1.47に対して結果$1.18、売上高予想$12.12Bに対して結果$11.44B、ガイダンスも引き下げており、これを受けて市場では一時11%以上も下げた。

イーライリリーは製薬業界において、世界的な肥満治療薬(GLP-1受容体作動薬)市場のリーダーとして注目を集めている企業だ。

マンジャロ(Mounjaro)やゼップバウンド(Zepbound)といった主力製品は、患者の減量や血糖値の管理において高い効果を示しており、医療機関や患者からの信頼を集める重要な存在である。

しかし、主力の肥満治療薬ふたつの売上が市場予測を下回ったことが、株価に影響を及ぼした。なぜ、肥満症治療薬の売上が落ちたのか?

これまで品薄状態だった肥満症治療薬の供給不足が解消され、以前の供給制約による需要の積み上がりが解消され、一時的に売上高が低下した可能性がある。また、卸売業者や流通経路での在庫調整がおこなわれた可能性もある。

あるいは、ノボ・ノルディスクなどの競合他社も肥満症治療薬の開発・販売を積極的におこなっており、市場シェアの競争が激化していることが要因だという話もあれば、政府や保険会社からの薬価引き下げ圧力が売上高に影響を与えている可能性も指摘されている。

今のところ、どれが大きな要因となって売上が落ちているのかわからない。しかし、ガイダンスも引き下げているのをみてもわかるとおり、同社も短期的には楽観的ではない姿勢が見て取れる。

では、この株式についてはどのように判断すればいいのだろうか?

フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

今回、売上高は一時的な低迷を見せている

イーライリリーは世界でも最強の製薬企業である。この企業の競争力を支える要素は、いうまでもなく豊富な研究開発力だ。

特に同社は、アメリカでの拠点を中心にした数多くの研究施設と、優れた人材を活用することで、高度な薬品開発を次々と実現している。こうした技術力により、競争の激しい市場においても持続的な競争力を維持している。

実際、イーライリリーの製品ポートフォリオは非常に多様で、糖尿病や精神疾患、がん治療に至るまで幅広い分野に展開しており、特定の市場リスクに対する分散効果も高い。

加えて、イーライリリーはアメリカを中心に強固な販売網を確立している。

単なる製品供給の枠を超えて、患者支援プログラムや医療従事者向けの教育活動なども含んでいる。こうした取り組みは、患者と医療関係者の信頼を築き、競合他社との明確な差別化を生み出す要因となっている。

このイーライリリーの投資対象としての魅力は、財務的な指標でも裏づけられている。2024年第3四半期、同社の売上高は114億ドル近くに達し、前年比で20%以上の成長を遂げた。

たしかに今回、売上高やガイダンスでは一時的な低迷を見せている。しかし、依然として将来の成長が期待できるのは間違いない。

財務バランスの観点から見ると、イーライリリーのROE(自己資本利益率)は約60%を記録しており、資本効率の面でも高い水準であることがわかる。これは、研究開発投資の高いリターンを表している。

今回、インディアナ州に53億ドルを投じ、マンジャロ(ゼップバウンド)の有効成分であるチルゼパチドを製造する施設が稼働しているのだが、これによって安定供給が実現され、主力製品であるマンジャロの出荷制限も解除された。どこかの時点で肥満症治療薬も売上が上がっていくはずだ。

『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』

不確定要素が直撃したのが第三四半期決算

いかなる企業にも成長の阻害要因が存在する。もちろん、イーライリリーにしても例外ではない。

特にノボ・ノルディスクやアムジェンといった主要な競合企業が、新たな治療薬の開発を進めており、競争が激化することが予想されている。ノボ・ノルディスクは、同様に肥満治療薬市場において強力な存在感を持ち、先進的な技術を駆使した製品を市場に投入している。

アムジェンも新製品の開発で攻勢をかけており、この二社の動向は今後の市場競争に大きな影響を与える。さらにファイザーが開発している肥満症治療薬もかかわってくる。肥満症治療薬は巨大な需要がある。対抗馬は次々と増えていく。

また、アメリカの規制環境も厳しくなってきており、薬価引き下げ圧力が高まっている。バイデン政権は、肥満や糖尿病治療薬の価格を抑制する動きを進めていたのだが、新政権もこれを引き継ぐ可能性がある。

何しろ、「製薬会社は、ぼったくりすぎだ。薬価を下げろ」というと、国民が喝采して票が取れる。高い薬価は、政治家の格好の攻撃の的なのだ。これがイーライリリーの収益構造に影響を及ぼすリスクにもなる。

特に、アメリカ国内での薬価引き下げは、同社の利益に直結する問題であるため、規制の変更には敏感に対応する必要がある。

さらに、肥満治療薬市場の需要予測の難しさも課題のひとつだ。

肥満症治療は新しい市場であるため、患者の服薬パターンや投与量の変動を正確に予測することが難しい。このため、在庫管理や供給計画においても調整が必要となり、売上に影響を及ぼす要因となっている。

こうした不確定要素が直撃したのが2024年の第3四半期決算であったのだ。EPS予想、売上高、ガイダンスのすべてをミスしてしまっているわけで、投資家の動揺は大きかった。

『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』

肥満治療薬市場の成長ポテンシャルは高い

私自身は、イーラーリリーの将来にそれほど不安を持つ必要はないと思っている。

イーラーリリーというよりも、肥満症治療薬のジャンルには不安よりも期待のほうが大きい。肥満は全世界で大きな問題となっており、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)は今後も根強い需要があるからだ。

イーライリリーは数々の課題を抱えているものの、競争力のある技術力と強固な市場基盤によって、これらの問題を乗り越えることが可能だと私は信じている。

同社の製薬業界での技術革新と経験に裏打ちされた研究開発力は、これからも成長を支える主要な要素となっていくだろう。肥満治療薬市場の拡大が期待される中、イーライリリーは今後もこの分野での先行者優位を活かし、収益基盤をさらに強化する見込みがある。

製品ポートフォリオの多様性もこの企業の強みであり、特定の市場リスクに依存することなく、安定した成長が見込まれる。

たとえば、糖尿病やがん治療薬の分野においても積極的に新製品を投入し、収益の多様化を図っている。これにより、肥満治療薬の売上が一時的に低迷した場合でも、他の製品による補完が可能となる。

イーライリリーは短期的な業績の変動や競争の激化に直面しているが、その強力な基盤と豊富な研究開発力により、今後も成長を続ける確率が高い。

短期的には相場の変動や低迷は避けられないフェーズに入ってもおかしくないが、長期的な視点では保有のスタンスは変わらない。肥満治療薬市場の成長ポテンシャル、同社の技術力、市場での地位を考慮すると、さらなる下落は魅力的な投資機会になっていくと考えられる。

メルマガ
まぐまぐメディア・マネーボイス賞1位に3度選ばれたメルマガです。より深く資本主義で生き残りたい方は、どうぞご購読して下さい。最初の1ヶ月は無料です。

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

アメリカ企業カテゴリの最新記事