MicrosoftとGoogleの対立項は多い。両者は、検索、クラウド、OS、広告、AIなど、多岐にわたる分野で20年以上にわたり対立を続けているのだが、両社の対立は、単なるビジネス上の競争を超え、法的な争いにまで発展しているのだ。互いに敵意むき出しで叩き合っている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
まさに、メガテック版の「仁義なき戦い」
クラウドコンピューティング市場は、デジタル時代の最重要インフラとして急速に成長を遂げている。この巨大市場を巡り、GoogleとMicrosoftが激しい競争を繰り広げて、互いに敵意むき出しで叩き合っている。
MicrosoftとGoogleの対立項は多い。両者は、検索、クラウド、OS、広告、AIなど、多岐にわたる分野で20年以上にわたり対立を続けているのだが、両社の対立は、単なるビジネス上の競争を超え、法的な争いにまで発展しているのだ。
両者は2016年に、Microsoftのサティア・ナデラ、Googleのサンダー・ピチャイの両CEOの下で規制当局への苦情申し立てで互いを標的にしないことに合意した。しかし、2021年にこの協定が終了。それから両社の対立はふたたび表面化し、激化の一途を辿っている。
現在、クラウド市場においてGoogleはAmazon、Microsoftに次ぐ第3位の位置にある。しかし、急速に市場シェアを拡大している。一方、Microsoftも好調な業績を示しており、両社のクラウド事業における競争は一層激しさを増している。
両者共に、成長はクラウド部門からきている。そして、このクラウドの中心にAI事業がある。これはクラウド部門で負けると自社AIの影響力も同時に失うことを意味している。そのため、両者とも一歩も相手に譲ることができない。
Googleは検索部門がAIの侵食によって成長が削がれそうになっているのだが、それを補っているのがクラウド部門である。Googleがクラウドに注力すればするほどMicrosoftのドル箱であるクラウド部門と激突する。
状況を一言で説明すると、MicrosoftとGoogleは事業がかぶっており、自社の成長のために、相手が邪魔でしかたがないのだ。だから、互いに相手を叩きつぶすような勢いで対立している。まさに、メガテック版の「仁義なき戦い」である。
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すべてのメガテックが設備投資を拡大している
Microsoft Azureは、世界のクラウドインフラ市場で23%のシェアを占め、四半期ごとの収益は240億ドルを超える。Microsoftの顧客の多くはエンタープライズ企業であり、Office 365やDynamics 365といった既存のMicrosoft製品との統合により、安定した収益基盤を形成している。
これに対して、Google Cloudはクラウド市場全体の約11%のシェアを持ち、年々成長率を上げている。Googleのクラウド収益は年間114億ドルに達し、前年比で35%増加しており、特にAIとビッグデータの利用が急速に増加している。
この成長の背景には、企業のデジタル化の加速がある。2023年にOpenAIがChatGPTによって大きな可能性を開き、AIの潜在能力を理解した全世界の企業がAIによって生産性の向上を図ろうと動き出した。
AIの頭脳はデータセンターである。そのデータセンターを掌握している巨人が、Amazonであり、Microsoftであり、Googleだったのだ。
スイスのUBSによると、Amazon、Microsoft、Googleを合わせた年間経常利益は1,230億ドル(約14兆円)という驚異的な数字となっており、3社合計で43%の伸び率を示している。
AIは今後も加速度的に進化していく。ここを掌握しておかないと、メガテックといえども次世代は脱落して取るに足らない企業になってしまう。だから、多少の収益を犠牲にしても、すべてのメガテックが設備投資を拡大している。
Microsoftのサティア・ナデラCEOは「2025年の設備投資額を800億ドルとする計画である」と発表しているのだが、これは2024年度の490億ドルから見ても激増している。
投資家は、この設備投資が回収できるのか疑念を抱いているのだが、Microsoftにしてみたら、ここで投資しておかないとGoogleやAmazonやMetaなどに負けて勝ち残れないという危機感のほうが強い。
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「影のキャンペーン」をおこなっている?
GoogleとMicrosoftの対立は、単なる市場シェア争いにとどまらない。両社は互いを批判し、相手の戦略を「反競争的」だと非難している。
Microsoftの副法律顧問であるリマ・アレイリーは、GoogleがMicrosoftのクラウドビジネスを貶めるための「影のキャンペーン」をおこなっていると非難した。この言葉には、公に認識されない裏での活動や策謀を含むニュアンスがある。
直接的な方法ではなく、密かに他者の評判や信頼を損ねようとする目的でおこなわれる工作やプロパガンダの意図をリマ・アレイリーは「影のキャンペーン」と呼んだ。
具体的には、Googleが新設・支援している欧州のクラウドプロバイダー連合「オープン・クラウド連合(OCC)」は、Microsoftのクラウド収益化戦略を破壊するための策謀だというのだ。
OCCは「制限的なライセンスや契約を排除し、オープンな標準を推進する」として、Microsoftの契約を無効にしようとするものだとMicrosoftは捉えている。
さらにGoogleは、Microsoftのクラウドライセンス契約が「反競争的」であると欧州委員会に提訴し、同社がサーバーソフト「Windows Server」ライセンスを使い、顧客を囲い込んでいると非難している。
これに対しMicrosoftは、クラウドライセンス契約が知的財産権を守るために必要であると反論。リマ・アレイリーは、クラウドやソフトウェアにおいても使用料が必要だと主張した。
Googleのサンダー・ピチャイCEOはクラウド事業の成長とAIへの注力を強調しており、Googleのクラウド事業がアマゾン、Microsoftに次ぐ第3位から、さらなる市場シェア拡大を目指している。
そのためには技術的な優位性を目指すだけでなく、法廷闘争を使ってでもMicrosoftを叩くのに躊躇がない。技術だろうが、ロビー活動だろうが、裁判だろうが、使える手段は何でも使う。
GoogleとMicrosoftの対立は、今後さらに深刻化し、「仁義なき戦い」となる可能性が高い。Googleに「影のキャンペーン」をしかけられたと主張しているMicrosoftにしてもやられっぱなしではない。
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MicrosoftのAIへの莫大な投資の意図は?
Googleは、2023年に米司法省から反トラスト訴訟で訴えられ、独占的市場支配が認定されている。じつは、この裁判でGoogleに思いきり不利な発言をしていたのがMicrosoftのサティア・ナデラCEOだった。
ナデラ氏は、Googleの検索エンジン支配を「悪循環」と表現した。さらに、AI技術の発展によって、検索市場の支配が強まる懸念を米司法省に述べている。
また、ナデラ氏は「Googleが検索広告技術を独占し、Bingの成功を妨げた」と主張した。そして、「クラウド分野でもGoogleの連合が競争をゆがめる」と批判しており、「Googleの連合活動は規制当局の目を逸らすのが目的だ」と指摘している。
どちらもクラウドとAIで、絶対に相手に負けられない。まさに、どんな手段でも相手を打ち負かそうと熾烈なバトルを繰り広げているのが見て取れる。
AI技術の急激な進歩はこの対立をさらに激化させ、火に油を注ぐ。両社はクラウド市場においてAIを活用したサービスを競い合っているのだが、この競争のためにも何とか相手を叩きつぶしたいのだ。
GoogleとMicrosoftの「仁義なき戦い」は、クラウド市場の覇権を巡る単なる競争を超え、法的、技術的、そして戦略的な多面的な争いへと発展している。どちらが相手を屈服できるのか誰にもわからない。
私自身はこの勝負は「敗者のゲーム(The Loser’s Game)」によって決着がつくのではないかと考えている。
「敗者のゲーム」とは、相手に勝ちにいく戦略ではなく、こちら側はミスを限りなく少なくして、相手のミスによって勝利を得る手法だ。自分がミスをせず相手がミスをすると、それで勝ちが決まる。
MicrosoftとGoogleは、検索、クラウド、OS、広告、AIなど、多岐にわたる分野で競合しており、それぞれで拮抗してる。だからこそ、均衡を破るのは「相手のミス」となる。果たして、今後のAI時代にどちらが勝ちあがっていくのか。MicrosoftとGoogleの対立を興味深く見守っている。