AIの進化は驚異的なスピードで進んでいる。しかし、これまでは単なるウォーミングアップだったのかもしれない。AIはこれまでにない規模で人類の生活を変え、AIを使いこなせる人間が、そうでない人間を駆逐する。2025年からそうした動きが本格化するので、準備しておく必要がある。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
今後5〜10年のあいだに、さらに劇的な変革が訪れる
AI(人工知能)の進化は、驚異的なスピードで進んでいる。しかし、これまでは単なるウォーミングアップだったのかもしれない。
アンソロピック社のCEO兼共同創業者であるダリオ・アモディ氏によれば、今後5〜10年のあいだに、さらに劇的な変革が訪れるとされている。彼の予測によれば、AIは生物学、医療、経済、社会のあらゆる分野において革新をもたらし、これまでにない規模で人類の生活を変えるという。
この背景には、AIがもたらす技術的な進歩と、その応用範囲の広さがある。単に効率化の域を超え、生命や経済、果ては政治システムにまで関与するAIの進化は、すでに社会の隅々に浸透しつつある。
2024年の段階で、AIは私たちの日常生活において多大な影響を与えている。
たとえば、ChatGPTなどの推論、生成される画像、パーソナライズされた広告配信、医療診断における画像解析、軍事戦略、さらには自動運転技術に至るまで、日常的な活動の多くにAIが関与しているのだ。
だが、アモディ氏が語るように、今後の10年間でAIは生命科学や経済、政策の分野でもっと深い影響を及ぼすことが予測されている。具体的には、がんの95%以上が治療可能になる可能性、遺伝病の治療法の確立、貧困撲滅や経済成長の促進などが挙げられる。
AIが進化する背景には、技術そのものの飛躍的な進歩だけでなく、膨大なデータの蓄積とその解析能力の向上がある。
AIは24時間体制で過去の知識を瞬時に参照し、新たな仮説を短期間で検証することができるため、人間の科学者が100年かかる進歩をわずか5〜10年で達成することができるとされている。
このようなポテンシャルを持つAIが、どのように社会全体を変えるのか、その影響を目の当たりにする時代が目前に迫っているのだ。
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AIを使いこなせる企業・人間が効率化によって富を得る
アンソロピック社のリサーチによると、AIは特に医療分野で飛躍的な成果を上げることが予測されている。がん治療に関して、現在でもAIを活用した画像診断技術は、医師の精度を上回る結果を出している。
米国の主要な医療機関における研究では、AIを用いた乳がん診断の精度は95%を超えている。従来の診断法に比べてあきらかに優位だ。このようなデータが出ているのだから、今後はAI技術の医療応用の拡大は決定的だろう。
さらに、AIの活用により新薬の開発スピードも加速している。従来、製薬会社が新薬を開発するには10年近くの時間と数十億ドルのコストがかかる。
しかし、AIは膨大なデータを解析し、数千の組み合わせの中から有効な候補物質を瞬時に選び出す能力がある。これにより、新薬開発の期間が数年から数ヶ月に短縮される可能性がある。
実際、アンソロピック社はある遺伝病の治療薬の候補を、AIを用いてわずか半年で特定し、臨床試験に進んだという事例もある。実際、ファイザーも、J&Jも、ギリアド・サイエンシズも、サノフィも、ロシュも、アストラゼネカも次々とAIを創薬開発や研究のために取り入れている。
また、経済面でもAIはその影響力を強めている。発展途上国における経済成長率が20%に達する可能性があるとアンソロピック社は示唆しているが、これは単なる理論ではない。
現実に、インドやアフリカの一部の地域では、AIを活用した農業の自動化や、金融サービスのデジタル化により、収入が飛躍的に増加している。データによると、AIを活用した農業技術を導入した農家は、収穫量が従来の2倍以上に増えた。
AIを使いこなせる企業・人間が効率化によって富を得る社会が到来してきている。
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今後は人工知能が完全に社会を変えることになる
これらの具体的な事例とデータからもあきらかなように、AIはすでに私たちの社会に深く浸透し、その影響を確実に拡大している。今後もその進化のスピードは加速し、これまでにない革新をもたらすことは避けられない。
AIが社会全体に与える影響は、単に技術的な側面にとどまらない。
AIは医療や経済だけでなく、政治、法制度の分野にまでその応用範囲を広げていく。AIは政策の影響を予測し、市民の意見を集約する能力がある。当然、これによって政治的な意思決定にAIが活用されていくようになる。
今はまだ信じられないかもしれないが、今後は政策決定プロセスにおいてAIによる推論が使われるようになるのは100%確実だ。
AIは膨大なデータから過去の政策がもたらした影響を解析し、政策立案者にとって合理的な判断材料を提供できる。さらに、シミュレーションや予測モデルを通じて、政策の長期的な影響を試算することが可能となり、リスクのある決定も数値に基づきおこなえる。
SNSやアンケートから市民の意見を自動で収集・分析し、迅速かつ広範囲な世論把握が実現するので、愚鈍な政治家も少しは状況把握ができるようになるだろう。さらに政治家は判断をくだすのもトロいが、AIによってデータ解析に基づく迅速な意思決定が可能となり、政策立案や実施のスピードが上がる。
地域や年齢層ごとに異なるニーズを把握し、それに応じた施策を提案できる可能性もある。世界中の情勢や経済指標をリアルタイムで分析することで、迅速かつ適切な外交政策の立案が可能となるはずだ。
また、特定のデータを読み込ませて学習した大規模言語モデルによって、公共サービスの効率化を進めることができる。行政手続きの自動化やデジタル対応が進むことで、手続きの簡略化やコスト削減が期待されるのだ。
PCが登場して完全に社会を変えたように、あるいはインターネットが登場して完全に社会を変えたように、スマートフォンが登場して完全に社会を変えたように、今後は人工知能が完全に社会を変えることになる。
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心配いらない。今からやれば、まだ間に合う
AIの進化が進むにつれて、これまで予測されていたことが急激に現実のものとなりつつある。仕事の形が大きく変わるという指摘はすでに現実化しているのだが、2025年移行はそれがより鮮明になっていく。
製造業やサービス業ではAIによる自動化・効率化・合理化が進んでいるのだが、ある調査では2025年までに米国で約1,500万人の労働者がそれによって仕事を失うリスクがあるとされている。
NVIDIAのジェンセン・フアンCEOが常々いっていることだが、「AIを使いこなせる人間が、そうでない人間を駆逐する」光景が2025年から本格化するのだ。AIを軸にして、稼げる人間と稼げない人間にわかれていく。
つまり、AIファーストの社会になったとき、その恩恵はかならずしも均等に分配されるわけではない。先進国の中では、AIの知識が深い人間がどんどん効率化して有利になり、「AI格差」が広がっていく。
それだけではない。先進国と途上国の格差もますます広がる。先進国と発展途上国のあいだでは、AI技術の導入速度に大きな差があり、これが新たな格差を生み出していくことになるのだ。
アンソロピック社の報告によると、AI技術の普及が進む国々では、経済成長が加速する一方で、技術の導入が遅れる地域では貧困の拡大が懸念される。
PC・インターネット・スマートフォンに乗り遅れた個人や企業が取り残されたように、今後はAIに乗り遅れた個人や企業が取り残されていく。
現在、すでにOpenAIのChatGPT「o1モデル」は知能指数120レベルの能力がある。(OpenAIのo1モデルを使うのは、知能指数120の天才をアシスタントにするのと同じ)
天才を一日24時間365日アシスタントとして使える人間が、そうでない人間と競争したら、あらゆる面で勝つ可能性が高いのは当たり前の話である。それならば、私たちが何をしたらいいのかは誰でもわかるはずだ。AIを使いこなせる側に、移動しておく必要がある。
心配いらない。今からやれば、まだ間に合う。