かつてAMDはインテルの安価な代替製品を作っている企業のようなイメージがあったが、いまや時価総額でもインテルの2倍以上の規模を持つ企業へと成長した。現代はAMDの前に絶対王者NVIDIAが立ちふさがっている。この企業AMDは、どう評価すべきだろうか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
「今後はAIに注力していく」と述べたAMD
AMD【AMD】の株価が冴えない。2024年10月29日に発表された第3四半期決算では、売上高が68億2,000万ドルと前年同期比18%増加し、1株当たりの利益も92セントと予想を上回った。それはよかった。
ただ、第4四半期の売上高見通しが75億ドルと予想の75億5,000万ドルをわずかに下回り、AI関連製品の売上高見通しも一部の投資家の期待に届かなかったため、株価は時間外取引で約7%も下落した。
データセンター部門の売上高は、前年同期比122%増の35億ドルと好調だったが、ゲーム部門の売上高は69%減少し、4億6,200万ドルとなった。また、AIチップの売上高見通しを従来の45億ドルから50億ドル以上に引き上げたものの、市場の期待には及ばなかった。
これを受けて、AMDはゲーム部門よりもAI部門に邁進していくことを確約している。かつてゲームはAMDにとって重要な部門であったが、今ではこの部門はAMD全体の収益の2%しか寄与していない。
それよりも何よりも、AIが重要なのだ。
AMDの全収益の50%以上はデータセンターが占めているのだが、そのデータセンターの需要はAIによって支えられている。「AIに注力していく」とAMDのCEOリサ・スーが述べるのは、まさにそれが必要不可欠だからである。
AMD(Advanced Micro Devices)は、シリコンバレーに本社を置き、半導体製品を主に開発・販売する企業である。創業は1968年、半世紀以上の歴史を持つ企業なのだが、今やNVIDIAと並んで、この企業もAIイノベーションの中心に位置する重要な企業と成り上がってきた。注目の企業である。
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NVIDIAと並ぶ重要な半導体メーカーとなっている
第3四半期における業績を改めて見ると、売上高は68億2,000万ドルで前年同期比18%の成長を遂げ、純利益も31%増加し1株当たり92セントの利益を達成していた。
この成長の原動力となっているのが、データセンター向けのEpyc(エピック)およびInstinct(インスティンクト)である。エピックはデータセンター向けに設計された高性能なサーバー用CPUであり、インスティンクトはデータセンター向けに設計された高性能なGPUアクセラレータだ。
これらの製品は、高性能でありながらコスト効率が良く、AIやクラウドなどの急成長市場で強力な競争力を発揮している。
AMDの強みのひとつは、これらのプロセッサが提供する高い計算能力と効率性であり、これはデータセンター市場においてIntelやNvidiaと競合しながらも、AMDが独自の地位を築く要因となっている。
また、PC市場でもRyzen(ライゼン)プロセッサが引き続き需要を集めている。PCを所有するユーザーにはお馴染みのプロセッサだろう。つまり、AMDはデータセンター向けから個人PC向けまで、競争力のある製品を保持しているのだ。
近年、AMDは製品ラインを拡大し、第5世代EpycサーバーCPUの投入やAIデータセンタープロセッサの新製品などを次々と市場に送り出している。これにより、競争の激しい半導体市場においても技術的な優位性を保ち続け、AI需要の高まりに応じた製品提供でさらなる成長が期待される。
かつてAMDはインテルの安価な代替製品を作っている企業のようなイメージがあったが、いまや時価総額でもインテルの2倍以上の規模を持つ企業へとなっており、GPUの王者であるNVIDIAと並ぶ重要な半導体メーカーとなっているのだ。
2014年10月に社長兼最高経営責任者(CEO)となったリサ・スーの手腕が冴え渡っているのがわかる。
リサ・スーは、1969年に台湾で生まれ、3歳でアメリカに移住した人物だ。マサチューセッツ工科大学(MIT)で電気工学の学士、修士、博士号を取得し、テキサス・インスツルメンツ、IBM、フリースケール・セミコンダクターでエンジニアリングおよび管理職を歴任している。
そして、2012年にAMDに入社して、以後AMDを強力な企業へと作り上げていった。
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AMDを売り飛ばしている投資家の懸念とは?
AMDの第3四半期業績を見て投資家はAMDを売り飛ばしているのだが、リサ・スーCEOのこれまでの実績を見ると、その経営手腕はもっと信頼してもいいかもしれない。
データセンター部門は特に好調であり、売上の大幅な増加が見られたし、EpycおよびInstinct製品の売上が過去最高水準に達し、データセンター部門全体の成長を大きく牽引している。
たしかに市場予測の75億5,000万ドルにわずかに届かないものの、依然として高い成長率であることには変わりない。
とにかくAI関連分野での成長期待が引き続き強く、長期的にはAI分野における投資が企業全体の収益を支える要因となることが予測されている。加えて、技術革新を継続し続けており、新製品の投入により競争優位性を保っている。
これにより、PCやデータセンター、AI市場など多様な分野での影響力《プレゼンス》が強化され、財務の健全性も改善されつつある。AMDの成長は、確実に続いている。こうした安定した成長基盤を持つ企業は、長期的な投資対象として信頼できる。
しかし、AMDの成長が顕著である一方で、いくつかの課題も存在する。AMDを売り飛ばしている投資家は、まさにその「課題」を懸念している。
それが、王者NVIDIAの存在である。
NvidiaはデータセンターとGPUの性能で圧倒的なシェアを誇り、AMDを寄せつけないほどの競争力を持つ。NVIDIAの時価総額は約3.37兆ドル、AMDの時価総額は約2,480億ドル。これに基づくと、NVIDIAの時価総額はAMDの約13.6倍となる(2024年11月5日時点)。
AMDにとって、これは圧倒的な「壁」である。
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AMDのCEOリサ・スーはそれをよく認識している
最近、Intelはダウ30種から外されて落日をまざまざと見せつけたが、それでもCPUの分野では、IntelはいまだAMDの強大なライバルであるには違いない。NVIDIAとIntelはAMDにとってはまったく侮れない相手である。
しかし、AMDはそれを乗り越える強力な基盤が備わっている。AMDもAIやデータセンター分野での確固たる製品ポートフォリオがあるのだ。
AI関連の需要が、今後も引き続き増加することは確実なのだ。EpycプロセッサやInstinctシリーズがその需要に応じた成長をサポートし、データセンター部門の収益をさらに押し上げることが期待される。
AMDはリサ・スーCEOのもとで継続的な技術革新と研究開発投資をおこなっている。競争力の維持と成長の両立を抜かりなく進め、製品の進化は加速されている。AIにおける強い需要はAMDにも大きなチャンスを与えるはずだ。
非AI分野で一時的な低迷があっても、AIとデータセンターの成長が全体の業績を支える役割を果たす。AMDは、とにかくAI部門を強化することに全精力を傾ければ大きな需要を取り込める。
AIによる半導体需要はNVIDIA一社ではまかなえきれないほど巨大だ。AMDのCEOリサ・スーはそれをよく認識している。
これらの点から、AMDは多くの課題に直面しながらも、その独自の強みを活かして市場の変動に対応し続けることができると私は見ている。技術革新と市場適応力を兼ね備えたAMDは、AI分野での成長期待に応える存在となり得る。
NVIDIAと激烈な競争を繰り広げているAMDだが、総合的に見ると、かなりの潜在能力を秘めているのではないか。AMDがどこまで飛躍できるのか、非常に興味深いものがある。