ドナルド・トランプが大統領選挙に勝利したが、株式市場はどのようになるのか?

ドナルド・トランプが大統領選挙に勝利したが、株式市場はどのようになるのか?

トランプの政策により、金融、エネルギー、防衛、ハイテクなどの主要セクターは短期的には上昇傾向を示すと予測されている。しかし、事態はそう簡単なものではない。たとえばハイテク企業も対中政策によっては大きな悪影響をこうむる。一筋縄ではいかないのだ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

ドナルド・トランプが大統領にカムバック

ドナルド・トランプが大統領選挙に勝利し、ホワイトハウスに復帰する。トランプはバイデン大統領と政策面でも激しく対立していたわけで、これからアメリカの政治はガラリと変わる可能性が高い。

政治や外交、さらには経済に至るまで、広範囲に世界の光景が激変するだろう。株式市場への影響も大きい。

トランプが前回の大統領在任中にも実施した法人税の引き下げや金融・エネルギー業界における規制緩和は、企業利益を直接的に押し上げる政策であり、市場にはポジティブな反応が生じる要因となる。

今回のカムバックでも、トランプが同様の政策を取るであろうと市場が予測しているため、すでにS&P500指数は上昇している。

トランプが掲げる経済政策は、株式市場の短期的な好調を期待させるものが多い。たとえば、金融セクターにおける規制緩和や法人税の引き下げは、銀行や金融機関の収益性を高め、金融株が投資家にとって魅力的な対象となる。

JPモルガンチェースは11.5%、ウェルズファーゴは13.11%、バンク・オブ・アメリカとシティグループはそれぞれ8%超の上昇となった。モルガンスタンレーは11.6%、ゴールドマン・サックスは13.10%で、すさまじい上昇だ。

トランプが化石燃料産業の支持者であることから、石油や天然ガス関連の企業が今後も規制緩和の恩恵を受けると予測されている。エクソンモービルやシェブロンなど大手石油会社も大きな恩恵を受けるだろう。

さらに、国防費増加により、ロッキード・マーティン【LMT】やノースロップ・グラマン【NOC】などの防衛関連株への需要が高まる可能性もある。パランティア【PLTR】に至っては、好決算も重なってこの2日で一気に25%以上も爆上げしている。

ドナルド・トランプの勝利が確定した日のアメリカ株式市場。

フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』

もっとも憂慮すべきは半導体セクターになるか?

しかし、すべてのセクターが恩恵を受けるわけではない。再生可能エネルギーや電気自動車(EV)関連の企業は、トランプの政策が化石燃料を重視することから、成長の逆風を受けると予測されている。

ただ、テスラに関してはイーロン・マスクが強力にトランプ支持を打ち出して、大統領選挙でもトランプをサポートしたことから、大きな恩恵を受けることが予測されており、トランプの当選がわかった瞬間に株価が14%も飛んだ。

しかし、トランプの電気自動車に対する姿勢が変わらないのであれば、他の電気自動車メーカーは厳しいことになってしまうのではないか。

ハイテクセクターは総じてトランプ政権では「アメリカ第一」の方針によって恩恵を受けやすいといえる。アメリカの成長を支えているのはハイテク企業であり、株価上昇によって好景気を演出したいトランプにとって、ここを攻撃する理由はない。

現在、アルファベット(Google)は会社分割が議論されているのだが、トランプ政権はこれを排除する可能性がある。これはアルファベットにとっては有利な展開だ。

ただ、メタに関してはフェイクニュースでトランプを窮地に陥れた前科があるのでトランプの私怨を買っており、攻撃される可能性がある。それを懸念してか、他のメガテックが上昇しているのに、メタは取り残されている。

しかし、メタよりも何よりも、もっとも憂慮すべきは半導体セクターである。

現在、半導体セクターも全体に釣られて上がっているのだが、トランプは「我々のビジネスが台湾に奪われた」と発言していることや、中国に対してより強硬な姿勢を見せる可能性があることから、半導体や電子部品を中国に依存している企業にとっては不安要素となる。

そもそも台湾は世界の最先端マイクロチップの92%を生産しており、2021年には世界の半導体総売上高の約25%を占めた。特に、TSMC(台湾積体電路製造)は世界最大の受託半導体メーカーであり、アップルやNVIDIAなど多くの米国企業に重要なチップを供給している。

米台関係の悪化、中国との緊張による地政学的リスク、新たな関税や貿易制限が立て続けに取り入れられると、NVIDIAを含む半導体セクターは大きく崩れていくことになる。私も、ここを懸念している。

『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』

ハイテクセクターへの影響は一筋縄ではいかない

半導体セクターに大きなダメージがくると、高性能な半導体によって支えられているAI(人工知能)の分野にもダメージが出てくる。そうすれば、マイクロソフトやアルファベットやアマゾンやオラクルの経営にも問題が発生するだろう。

このあたりを考えると、ハイテクセクターへの影響は一筋縄ではいかないというのがわかるはずだ。トランプの政策は、ハイテク企業に対して恩恵をもたらすのは間違いないのだが、すべてはバラ色ではない。

トランプはアップルのCEOであるティム・クックとも親しい。これは、一見するとアップルにとっては有利な展開になるように見えるが、事態はそう簡単ではない。

というのも、トランプは対中政策において強硬な姿勢を取り、関税の引き上げや制裁措置をおこなうのが、ほぼ既定路線になっている。これによってアップルのような中国市場への依存度が高い企業は不安定な立場となる。

アメリカが制裁措置を取るのであれば、中国政府もまた報復に出る。これは中国でアップル製品が売れなくなる可能性があるということに他ならない。アップルの純売上高のうち、中国市場は18%を占めているのだが、ここに問題が起こるとアップルの売上は落ちる。

トランプの劇的な返り咲きでもアップルの株価が上昇しなかったのは、投資家のそうした懸念があることが窺える。中国依存でいえば、スターバックスやナイキも中国依存が大きい企業なのだが、やはり両者ともトランプの返り咲きで下落している。

ナイキは決算を落としたことも影響していて、株価は3.41%も下落した。

トランプ政権の「米国第一」によってハイテクセクターが今後も活況を呈するのか、それとも対立的な対中政策によってハイテクセクターがダメージを受けるのか、状況によって変わっていく。

『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』

トランプ政権下でも引き続き長期投資は成果が出る

トランプの政策により、金融、エネルギー、防衛、ハイテクなどの主要セクターは短期的には上昇傾向を示すと予測されている。しかし、予測はつねに不測の事態によって断ち切られる。

これらの成長が長期的に持続するかどうかは、トランプ政権下の政策がどのように展開されるかによる。国際的な経済動向や米中関係の変化が、市場に対してポジティブにもネガティブにも影響を及ぼすため、慎重な視点が求められる。

しかし、長期的な視点から見れば、アメリカの株式市場は歴史的につねに成長を続けてきたという事実がある。アメリカ経済は多種多様な産業を抱え、アメリカ企業の競争力は世界に類を見ない。

結局、株式市場の長期的成長は、それぞれの企業が持つ経営能力とイノベーションにかかっている。アメリカの政治がどのように変わろうと、その成長は今後も続いていくだろう。トランプ政権が何をしようと、ここは変わらない。

特に、ハイテク、製薬、自動車などのセクターは、多様な市場ニーズに対応できる技術革新の分野で競争優位を確保しており、怒濤の勢いで進んでいるAIの進化もあって今後も世界をリードしていく。

AIによるイノベーションは、はじまったばかりである。AIが本当に世の中を変えていくのはこれからであり、AIによってそれぞれの企業の生産性の向上は私たちが想像する以上のものになって、それが経済を底上げしていくはずだ。

それは、すなわち米国株式市場の時価総額を引き上げることを意味する。

トランプ政権の影響がポジティブに働くセクターもあれば、ネガティブに影響を受けるセクターも存在するが、長期的な投資を継続することで、リスクを分散しつつ利益を確保することが可能だ。私は引き続き、米国株に賭け続ける。

メルマガ
まぐまぐメディア・マネーボイス賞1位に3度選ばれたメルマガです。より深く資本主義で生き残りたい方は、どうぞご購読して下さい。最初の1ヶ月は無料です。

鈴木傾城のDarknessメルマガ編

CTA-IMAGE 有料メルマガ「鈴木傾城のダークネス・メルマガ編」では、投資・経済・金融の話をより深く追求して書いています。弱肉強食の資本主義の中で、自分で自分を助けるための手法を考えていきたい方、鈴木傾城の文章を継続的に触れたい方は、どうぞご登録ください。

株式市場カテゴリの最新記事