AIの進化は世の中のすべてを飲み込むかのように膨れ上がって、社会を変革していくことになる。その過程で多くの深刻な問題も引き起こす。「反AI」のグループはそれなりに大きな力を持つようになるだろう。しかし、その立場で生きるのは自殺行為だと私は考える。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
相手がAIなのか人間なのかさえ判断できなくなる
AIはテキストで動画が作れるようになったり、自分の手持ちの写真を動画にしたり、話をさせたり、歌わせたりすることもできるようになる。創造性はAIによって爆発的な広がりを見せるだろう。
ただ、もちろん問題もある。誰かの写真を使って動画にしてしまったら、その人が話してもいないことを話すようなフェイク動画(ディープフェイク)も作れるし、やってもいないことをやっているかのような動画も簡単に作れてしまう。
データプライバシーとセキュリティの問題は、たしかに深刻になっていくはずだ。
フェイク動画については、フェイクの特徴を徹底的に分析し、識別し、元のデータと偽物を区別する技術が開発されている。ディープフェイクは、人のまたたきや表情変化の特徴が不自然になることが多い。現在は、これらの微妙な違いを検出するアルゴリズムが導入されている。
さらに、フェイクとオリジナルを区別するために、ウォーターマーキングやブロックチェーンが応用されはじめている。
ウォーターマーキングとはオリジナルの動画や画像に目に見えない識別情報(ウォーターマーク)を埋め込むことで、あとから改変されても元データと区別できるようにする手法だ。
ブロックチェーンは、デジタルコンテンツが生成されるたびに、ブロックチェーン内に記録することで、「そのデータが正当なものである」ことを、あとから検証できるようにする試みだ。
ただ、技術が飛躍的に進歩することによって、フェイクもまた進化する。私たちはオンラインの向こうの相手がAIなのか人間なのかさえ判断できなくなる。そのため、AIに取り残されていくと、フェイクのワナにも落ちやすくなってしまう。
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AIの脅威から「反AI」の立場の人も増えていく
AIは、他にも多くの社会的な問題を発生させる。データプライバシー、誤った判断による被害、バイアスといったリスクも社会問題化しつつある。そして、それに伴って「反AI」の立場の人も増えていく。
実際、顔認識や音声認識をはじめとした個人データの利用は、プライバシーの侵害や監視社会化のリスクを増大させている。一部の政府では、顔認識技術を監視のために利用している。
また、AIによる自動意思決定システムが増えることで、偏ったアルゴリズムやデータによって差別が生じるケースも発生するはずだ。これは、AIシステムが過去のデータを学習する際、既存の社会的偏見を反映し、意図せずに差別的な判断を下してしまうことがあるからだ。
AIの急速な発展に伴い、その利用や影響に対してさまざまな問題が指摘され、各国でAI規制の動きが強まっている。
EUは2021年に「AI法案(AI Act)」を発表し、AIをリスクの度合いに応じて「禁止リスク」「高リスク」「限られたリスク」「低リスク」の4段階に分類し、高リスクのAIシステムには厳格な規制を設けた。
特に、顔認識やバイオメトリクスデータを利用するAIは、プライバシー侵害や差別を助長するリスクがあるため、慎重に扱うよう求めている。
アメリカでは、連邦政府によるAI規制はまだ十分に整備されていないが、州レベルや一部の産業で個別の規制が進んでいる。
カリフォルニア州などでは、プライバシー保護やAIの透明性に関する法整備が進められており、また金融分野や医療分野では、AIの利用に関するガイドラインが整備されつつある。
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IQ1500の頭脳が導き出した答えが理解できなくなる
ただ、こうした問題を抱えながら、AIの進化は世の中のすべてを飲み込むかのように膨れ上がって、社会を変革していくことになる。そのため、「反AI」のグループはそれなりに大きな力を持つようになるだろう。
私自身は「親AI」の立場だが、AIに拒絶心を持つ人々の心境はよくわかる。AIが自動化と効率化をもたらす一方で、多くの職種がAIによって代替される可能性が高まっている。こうした問題は、私も懸念している。
さらに、政府が愚かだと、中国のようにAIを国民監視と世論操作に使うことにもなってしまうだろう。AIによる顔認識や音声認識、行動解析などが進むにつれて、全国民の日常生活を24時間監視することが可能となった。中国はそれをやっている。
そして、AIの導き出した答えはAIの能力が上がれば上がるほど、AIの回答が人間にはブラックボックスとなっていくのも由々しき問題に思う。
現在、AIの知能指数は150レベルで、これでも天才レベルなのだが、今後AIが10倍進化すると、AIの知能指数は1500レベルとなる。このIQ1500の頭脳が導き出した答えはIQ100の平均的な人間が理解できるはずもない。
元Googleの会長であったエリック・シュミットは、これについて「2歳児がアインシュタインの説明を聞くようなもの」と表現した。アインシュタインが科学の真理を説明しても、2歳児には理解できない。
それと同じことが、IQ1500の人工知能とIQ100の平均的な人間のあいだで起こる。AIの内容はブラックボックスではないのだが、人間には到底「理解できない」過程を経て、答えが導き出されるのだ。
こうした状況を知れば知るほど、AIに対して激しい拒絶心を持つ人も出てきて当然のようにも私も思う。社会はAIによって激しく、大きく、完全に再構築されていく。AIが作り出す新しい世界に対応できない人は、AIを憎むようになるだろう。
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私の能力はAIによってかなりブーストされつつある
こうした社会にどう対処すればいいのか。AIに対して拒絶心を持ったまま「反AI」で生きることもできる。
しかし、それは正しいことではない。PC時代にPCを拒絶し、インターネット時代にインターネットを拒絶し、スマートフォン時代にスマートフォンを拒絶したのと同じくらい時代遅れになって、最後に世の中から取り残されることになる。
そうやって生きてもいいが、それは社会的な自殺行為であるともいえる。
もはや世の中はAIによって再構築されるのは100%確実なので、この中で私たちが生きるのは、むしろ逆にAIに飛び込んでいくことしかない。今こそ、ダーウィンの適者生存を思い出すべきなのだ。
つまり、生物は、環境にもっとも適したものが生き残り、適していないものは滅びるという単純な話だ。「もっとも強いものが生き残るのではなく、もっとも賢い者が生き残るのでもなく、唯一、生き残る者は変化できる者である」という言葉の通りだ。
時代の変化に適応し、柔軟に対応する能力こそが、未来を生き抜くために必要な要素である。とすれば、AIがもたらすパラダイムシフトの中で「変化できる者」とは、AIを自らの生活や仕事に組み込み、新たな価値を創出することができる人なのだ。
私自身はAIを利用し、AIと深く共存し、自分自身の知識やライフスタイルのすべてを再構築している途上にある。現在、私が使っているAIツールはすでに20以上もあるのだが、AIを自由自在に使うのは知能指数150の天才の頭脳にアクセスするのと同様の効果がある。
私自身は、特に頭脳が向上しているわけではない。しかし、私の能力はAIによってかなりブーストされつつある。それもそうだ。状況によっては知能指数150の天才をエージェントとして使っているのだから。
「唯一、生き残る者は変化できる者」という言葉を、私は噛みしめているところだ。