割高になって警戒されつつあるアメリカの株式市場。だが、ほかの場所に逃げるな

割高になって警戒されつつあるアメリカの株式市場。だが、ほかの場所に逃げるな

AIは企業の生産性を向上させる。そのため、アメリカ企業の成長はさらに加速していくことになる。それはそれで素晴らしいことなのだが、これによって米国株式市場は高値圏で推移し、「高すぎて買えない」問題が発生しつつある。多くのプロも警戒している。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

「高すぎて買えない」という問題

米国株式市場は、その圧倒的な規模と安定性において、新興国市場を大きく凌駕している。2023年末時点で、米国の株式時価総額は約50兆ドルに達し、世界全体の約40%を占めている。

この巨大な規模は、市場の流動性と安定性を担保し、投資家にとって魅力的な環境を提供している。さらに、特筆すべきなのは、AI(人工知能)によって、市場はますます活況に沸いていることだ。

AIは企業の生産性を向上させる。そのため、アメリカ企業の成長はさらに加速していくことになる。それはそれで素晴らしいことなのだが、これによってアメリカの株式市場は高値圏で推移し、「高すぎて買えない」という問題が発生しつつある。

欧州で最大級の金融サービスグループであるソシエテ・ジェネラル、あるいはロンドン証券取引所グループ、米国の資産運用企業ジョン・ハンコック・インベストメント・マネジメントなどは、現在の米国の株式市場が「割高である」として警戒を強くして、深追いしないように警鐘を鳴らしている。

そのため、投資家の中には米国株から新興国に目を向ける投資家も出てきている。2,300兆円超えの資産を管理する投資コンサル企業Mercer(マーサー)も、新興市場への分散投資を推奨してきている。

プロのあいだでは、かなりの警戒心が芽生えている。ウォーレン・バフェットも、Appleやバンク・オブ・アメリカなどの保有株を大量に売って現金を積み上げている。

アメリカの株式市場の代表的な指数はS&P500だ。現在のS&P500の市場価値が割高なのか割安なのかを簡単に調べるには、S&P500をトレースしているETF【VOO】のPERを見ればいい。すると、現在は29.89ポイントになっているのがわかる。

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今の局面で、どうしたらいいのか?

S&P500のPER(株価収益率)は、長期的な平均で見ると以下のような範囲にある。

5年平均: 18.5倍前後
10年平均: 17.3倍前後

これらの数値を基準として、現在のPERが割高か割安かを判断することができるのだが、これが現在は「29.89」となっているのだ。たしかにプロの投資家たちが懸念するように、「とんでもない高値」であるのが見て取れる。バフェットが米国株を売って現金の山を積み上げているのもわかる。

では、私たちは今の局面で、どうしたらいいのか。

心配な人は利益が出ている株式を少し売っておいて、現金を増やしておくのがいいのかもしれない。ただ、いうまでもないが、アメリカ株式市場を全売りして、どこかほかの新興国に持っていくのはどうかと思う。

新興国は新興国で、その成長はかならずしも安定的ではない。中国市場も荒れているし、ロシア・ウクライナ紛争に伴う市場の混乱など、政治的・経済的リスクが顕在化するケースが少なくない。

私自身は人口動態から次の成長国であるインドには注目しており、資金のほんの一部をインドにも入れているが、基本的には米国株で資産のほぼすべてができている。今後も米国株から離れるつもりはまったくないし、基本的にアメリカの株式市場から離れるべきではないと思っている。

S&P500の高すぎるバリュエーション(株式評価)をみれば、何らかのショックがあったときには、大きな暴落がくる可能性が高い。それは覚悟しておかなければならないが、その下落は「買い場」なのだ。

米国市場の強みは、長期的な安定性と成長性の両立にある。S&P500指数は、過去10年間(2014年〜2023年)で年平均約10%の成長を遂げており、これは多くの新興国市場を上回る実績だ。

さらに米国市場は、テクノロジーセクターを中心に革新的な企業が大量に上場しており、長期的な成長ポテンシャルも高い。ここを外して、ほかのところにいくのは合理的な判断ではない。

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米国株式を通じて世界経済の成長を享受

米国株式市場の特筆すべき魅力は、世界的に有名なグローバル企業への投資機会を提供していることだ。

Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft、NVIDIAに代表されるテクノロジー巨人だけではない。コカコーラやペプシやマクドナルドのような伝統的な消費財企業もあれば、イーラーリリーやファイザーのような製薬企業まで、世界中で事業を展開する企業が数多く上場している。

これらの企業は、単に米国市場だけでなく、新興国を含む世界中の市場で収益を上げている。たとえば、アップルの2023年度第4四半期の売上高のうち、約60%が米国外からのものであった。

そう考えると、米国株式を保有しておけば、新興国の成長にもアクセスできているのだ。つまり、米国株への投資は、間接的に世界経済の成長を取り込む主要ルートでもある。

対照的に、新興国市場への直接投資は、特定の国や地域のリスクにさらされる可能性が高い。たとえば中国株式への投資は、中国政府の規制リスクや地政学的な緊張関係の影響を受けやすい。

今後、第二次トランプ政権がはじまると、米中対立はますます先鋭化して中国にダメージを与えることになるだろう。

中国市場は巨大なので、これによって米国企業も悪影響を受ける。しかし、米国の巨大企業は地理的な分散と多角的な事業展開により、特定の国や地域のリスクを分散させている。

さらに、これらのアメリカ企業は、新興国市場での成長機会を活用しつつ、先進国市場での安定した収益基盤をも維持している。投資家は、米国株式を通じて世界経済の成長を享受して新興国市場への直接投資に伴うリスクを軽減することができる。

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べつに、ほかのところにいく必要がない

米国企業の株主還元に対する姿勢は、新興国企業と比較して際立って積極的である。この背景には、「企業は株主のものである」という強い意識が根づいていることもあげられる。

それは、裏返せば株主であることで、恩恵を受けられるということでもある。具体的には、自社株買いで株価を上げ、配当で株主に現金を与えて報いている。

米国株式市場では、「配当貴族」と呼ばれる25年以上連続で増配を続けている企業がごろごろと存在する。2023年時点でいえば、S&P500指数の構成銘柄のうち、65社が配当貴族に該当する。

たとえば、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は67年連続、コカ・コーラは61年連続で増配を続けている。これらの企業は、景気変動にかかわらず安定した配当を提供し続けており、インカムゲインを重視する投資家にとって魅力的な投資対象となっている。

自社株買いも、米国企業の重要な株主還元策のひとつで、2022年にはS&P500構成企業全体で約8,000億ドルの自社株買いが実施されている。自社株買いは、流通株式数を減少させることで1株当たりの価値を高める効果があり、株価上昇につながる。

米国企業の株主重視の姿勢は、長期的な株価上昇と安定的な配当収入という形で投資家に還元されている。この点で、米国株式投資は、新興国株式と比較して、より魅力的な投資機会を提供しているのだ。

米国株式市場以上のものを探して新興国にいって得するのは、短期で荒稼ぎしたい投資家である。長期で見るとやはり最強の投資環境である米国株式市場に残り続けるほうが良いに決まっている。べつに、ほかのところにいく必要がない。

私にとってフロンティア(開拓地)は、つねに米国株式市場である。

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