爆発的に蔓延していく怪しい投資話。この「2つの感情」が騙される人を増やす?

爆発的に蔓延していく怪しい投資話。この「2つの感情」が騙される人を増やす?

政府がチンドン屋みたいに「貯蓄から投資へ」と煽った結果、怪しい投資話が爆発的に蔓延するようになってしまった。金融リテラシーのない若者、認知が低下した高齢者が多いこともあって、日本で騙しやすい環境が生まれている。そこを犯罪者たちに突かれている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

金融リテラシーの欠如がある

2024年11月12日、茨城県で71歳の資産家の女性が現金約8億円を騙し取られるという被害があった。著名人を騙った中国人がおこなった詐欺だった。この事件では、中国籍の34歳の容疑者が逮捕されている。

11月20日には、北海道の60代の男性がSNSで投資家を名乗る人物から「高額な利益が得られる」と話を持ちかけられて計1億円を騙し取られている。犯人はまだ逮捕されておらず、ほかにも被害者が多くいる。

怪しい投資話は山ほどある。こうした話に乗ってしまう人々の存在は、政府がチンドン屋みたいに「貯蓄から投資へ」と煽った結果、毎日のように発生している。

国民生活センターによる2023年度の相談件数データを見ても、詐欺や怪しい投資案件にかかわる相談は年間4万件を超えている。過去10年間で見ると、約1.8倍の増加となっていた。

そのうち、SNSを通じて著名人を名乗る者からの投資勧誘に関する相談件数は、2022年度の170件から2023年度には1,629件と約9.6倍に急増だった。まさに、金融リテラシーの欠如が生み出した問題でもある。

国際比較をおこなったOECDの調査でも、日本の成人の金融リテラシースコアは全調査国の中で下位3位で芳しくない。

この調査は「金融商品を正しく理解し、そのリスクを見極める能力」を測るもので、低スコアの人々は投資詐欺に引っかかるリスクが高いとされている。これが下位3位なのだから、投資についてわかっていない人が多いのだ。

技術の進展も状況を複雑化させているようにも見える。AIを活用した詐欺手法や、暗号資産関連の怪しい投資案件が次々と登場し、伝統的な詐欺からデジタル時代の新しい詐欺への移行が進んでいる。

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チャンスを逃したくないという焦燥感

金融リテラシーのない若者、認知が低下した高齢者が多いこともあって、日本で騙しやすい環境が生まれている。そこを犯罪者たちに突かれている。

警察庁の統計では、2023年における投資詐欺による被害総額は約580億円にのぼる。これは前年の450億円から大幅に増加しており、問題がいっそう深刻化していることを示している。

金融庁が2023年に公表した「投資被害者の年齢層別データ」によれば、全体の約35%が60代以上である一方、25%が20代から30代の若年層だった。

これらの層は、異なる理由で被害にあいやすい。若年層は貧困化して将来に夢も希望もない中で「投資で一攫千金」を夢見て食い物にされている。高齢者の場合は、老後の不安を感じる中で、退職金や年金を狙った犯罪者に釣られる。

心理的な要因も無視できない。怪しい投資話に乗る人々には、特定の心理的な特徴が見られるのだが、まず挙げられるのは「過剰なリターンへの期待」である。

多くの人は、短期間で大きな利益を得られるという非現実的なシナリオに魅了される。たとえば、「わずか1か月で資産が2倍になる」といった話を聞くと、それが現実的かどうかを考える前に期待感が膨らむ。

この心理は、「自分もこのチャンスを逃したくない」という強い焦燥感を伴い、判断を曇らせる。

また、「他人の成功体験への強い憧れ」も大きな要因だ。詐欺師たちは、意図的に「成功者の物語」を強調する。たとえば、「友人がこの投資で100万円を1年で1,000万円に増やした」といった話などが挙げられる。

こうした話は、事実かどうかにかかわらず、「自分も同じように成功できるはずだ」という幻想を生む。特に社会的な地位や収入に不満を抱える人々にとって、成功体験は強い説得力を持つ。

こうした心理的な偏りが、冷静な判断を妨げる要因となっている。

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100万円が1年後に40億9,600万円?

怪しい投資話に引っかかる人は、これからも増えていく。「リスクを見極める思考力」と「情報の信頼性を評価する能力」が欠けている場合、巧妙に仕掛けられた話の真贋が見抜けない。

たとえば、「1か月で元本が2倍になる」という謳い文句を聞いたとき、きちんと常識を持っている人であれば、冷静に考えれば不可能だとすぐに気づく。そんなことが可能ならば、100万円が1年後には40億9,600万円になっているからだ。

この計算結果に「まさか」と思う人もいるかもしれないが、単純に数字を2倍にしていけばそうなる。難しい計算式も必要ない。

1か月目 200万円
2か月目 400万円
3か月目 800万円
4か月目 1,600万円
5か月目 3,200万円
6か月目 6,400万円
7か月目 1億2,800万円
8か月目 2億5,600万円
9か月目 5億1,200万円
10か月目 10億2,400万円
11か月目 20億4,800万円
12か月目 40億9,600万円

ところが、騙される人はこういうのを計算もしないで信じてしまう。常識があったら、こんな馬鹿げた話の馬鹿さ加減はすぐにわかることなのだ。完全に、情報の信頼性を評価する能力が欠けている。

こういう突拍子もないリターンを信じさせるために、詐欺師たちは見かけだけは立派なウェブサイトを作ったり、著名人の推薦を装う手法を使ったりする。最近では、AI生成技術を用いた偽造された動画や音声が用いられることもある。

これに対抗するためには、情報の発信元や内容を検証する能力が必要だが、これを持たない人が多い。

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射幸心と焦燥感の2つが騙される人を増やす

稀代の投資家であるウォーレン・バフェットは、そのパフォーマンスは年率にすると20%あたりなのだが、それでも投資の世界では「驚異的」である。20%もあれば、5年で資産は2倍になっている。

S&P500の全期間の平均は8%から10%である。これが投資の平均なのだ。そういう「常識」を知っておくというのが、金融リテラシーを高めるということでもある。

しかし、金融リテラシーがあっても騙されることもある。そういう場合は、だいたいが焦燥感と射幸心に煽られていることが多い。私は、この焦燥感と射幸心の2つが騙される人を増やす最大の要因であると考えている。

日本は今後も、物価高や不安定な経済状況や脆弱な政治環境が続くだろう。そうなると、若者から高齢者まで「今のままでは不安だ」「何とかしなければ」「もっと早くお金を増やしたい」という心理をさらに生み出す。

この心理的なプレッシャーが、詐欺師にとって好都合な状況を生み出す。それを刺激してやれば、いとも簡単に騙せる。「何とかしなければ」と思っている人に向けて「儲かる話がある」と持ちかけるのは、まさに焦燥感と射幸心を煽る手法なのだ。

騙されないためにできることがあるとしたら、一日にひとつでもいいから投資に関する知識を増やしておき、自分で考え、自分で投資案件を吟味し、他人が持ち込んできた投資話はすべて断るという姿勢を持つことだ。

私のところにもいろんな投資案件が持ち込まれるが、そういうのはすべて即座に断っている。他人が勧めてくる案件は拒絶して、自分で考えて自分で選択して自分で判断して自分で増やしたいからだ。

私の場合、儲け話を持ち込んでくる人間は、見知らぬ第三者だろうが、知人だろうが、みんな詐欺師か、詐欺師に騙されて手先になっている人だと思っている。私は誰も信じていない。それくらい割り切っていれば、騙されることもない。

ちなみに、それでも一生ぶらぶら暮らせるくらいの資産は築くことができるので、心配はいらない。

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