2024年8月に連邦地裁がGoogleの独占禁止法違反を認定し、これを受けて米司法省が世界最大の検索エンジン企業Google(Alphabet)に対し、「Chrome」の売却などを要求している。投資家はこれに嫌気をさしてGoogleを売っているのだが、果たしてどうなるのか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
独占禁止法違反の疑いと司法省の強硬姿勢
米司法省が世界最大の検索エンジン企業Google(Alphabet)に対し、ウェブブラウザ「Chrome」の売却などを要求している。司法省の要求は、2024年8月に連邦地裁がGoogleの独占禁止法違反を認定したことを受けたものだった。
これは、Googleの検索市場における独占状態を是正するための措置の一環であり、同社の事業構造に根本的な変革をせまるものだ。これを嫌って投資家もGoogleを売っているので、株価も大きく下落している。
判決では、Googleの行為が「一般検索サービスおよび一般検索テキスト広告の独占にあたる」と指摘された。これを受けて司法省は、Googleの市場支配力を弱めるための具体的な是正策を模索してきた。
司法省が裁判所に提出した是正案には、Chromeの売却以外にも、スマートフォンOS「Android」の分割、または検索サービスからの切り離し、広告掲載場所の透明性向上、広告主への選択肢拡大が上げられている。
ほかにも、コンテンツ提供者が自身の情報をAIの学習データとして使用されることを拒否できる仕組みの導入なども含まれている。
これらの数々の措置は、Googleの事業モデルの根幹を揺るがすものであり、同社の市場支配力を大幅に弱める可能性がある。Googleは、この要求を「極端な提案」と強く反発し、以下のように主張している。
「これらの措置は、アメリカ国民とグローバルな技術的リーダーシップに悪影響を及ぼし、セキュリティとプライバシーを危険にさらし、製品の品質低下を招く。さらにAIへの投資を冷え込ませ、競合ブラウザにも悪影響を与える」
Googleは徹底抗戦するつもりだ。
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激しい攻防が繰り広げられる
この事態は、1990年代に司法省がマイクロソフトに対してWindowsとInternet Explorerの抱き合わせ販売が独占禁止法に違反するとして事業分割を要請した騒動以来の大規模な介入となる可能性がある。
だが、このGoogleの事業分割案をめぐる状況は、依然として不透明感が強い。
投資家は悲観して株を売っているのだが、司法省の要求が最終的にどのような形で実現されるのか、あるいは実現されないのか、現時点では予測が困難だ。
Googleは12月に独自の提案を発表する予定であり、2025年にはより広範な主張をおこなう方針としている。同社は、司法省の提案が「裁判所の判断をはるかに越えるもの」であると批判しており、激しい法廷闘争が予想される。
一方で、連邦地裁の判事は2025年8月までに結論を出す方針を示している。
この期間中、Googleと司法省のあいだで激しい攻防が繰り広げられることは必至だ。判事の最終判断がどのようなものになるかは、両者の主張や提出される証拠、そして法的解釈に大きく左右されるだろう。
折しも、2025年はバイデン政権からトランプ政権に変わる。最近、トランプは次期司法長官にパム・ボンディ氏を指名しているのだが、これによって訴訟の進め方や和解の可能性に影響があるかもしれない。
ただし、大規模な反トラスト訴訟は通常、省全体の方針として継続されるため、単なる長官の交代だけでは、要請の取り下げがおこなわれる可能性は低いと考えるアナリストもいる。
Googleにとってもっとも懸念されるのは、Chromeの売却やAndroidの分割が実現した場合の影響だ。
Chromeは現在、ウェブブラウザ市場で約60%のシェアを持っており、Googleの検索エンジンとの相乗効果で強力な競争力を発揮している。これが分離されれば、Googleの市場支配力に大きな打撃を与えることになる。
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Googleの事業構造への懸念
同様に、Androidの分割や検索サービスからの切り離しも、Googleのビジネスモデルに重大な影響を及ぼす。むしろ、こちらのほうが悪影響が強いかもしれない。
Androidは世界のスマートフォンOSの約70%のシェアを占めており、Googleの検索サービスやアプリストアと密接に連携しているのだ。この連携が失われれば、Googleの収益構造は破壊される。
これらの不確実性は、Googleの将来の事業展開や投資計画に影響を与えかねない。特に、AIなどの先端技術への投資が抑制される可能性があることは、長期的な競争力の観点から懸念される点だ。
司法省のGoogle分割要求を受けて、投資家のあいだでは慎重論と楽観論が入り混じった反応が見られている。慎重論を唱える投資家は、Googleの事業構造が根本から変わる可能性を懸念している。
それもそうだ。Chromeの売却やAndroidの分割が実現すれば、Googleの収益構造に大きな悪影響が出ることは避けられないのだ。検索広告事業とブラウザ事業の相乗効果が失われることで、広告収入が減少するとGoogleは現在の時価総額を維持できない。
現在、GoogleはMicrosoftやMetaやAppleと熾烈なAI戦争を戦っている最中なのだが、ChromeやAndroidが切り離されると、GoogleのAI戦略にも亀裂が走る。AIを水平に展開するのが困難になり、AI競争を勝ち抜くアドバンテージが失われる。
これでAI投資が抑制されると、将来の成長エンジンを失うことになりかねない。このような懸念から、一部の投資家はGoogle株の保有を減らす動きを見せている。
じつはGoogleは今、AI戦略によって突如として「検索エンジン」の成長に疑念が生じるようになっている。
OpenAIもPerplexityもRAG(取得生成AIモデル)を取り入れるようになり、今後は人工知能が自ら広大なウェブを検索し、最新情報を取得し、情報をまとめるようになっており、それが主流になりつつあるからだ。
こうした動きが活発化していくと、従来のGoogleの検索エンジンは古いものになってしまう。すでに、検索については静かにGoogle離れが進行している。私自身も、気がついたら、ChatGPTやPerplexityで検索するようになっている。
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長期的な成長ポテンシャルは高い
Googleは変革を迫られている。だが、その中でGoogleの将来を楽観的に見る投資家も多い。現在のGoogleの基本的な事業の強さや、技術力、財務体質の健全性は、まだまだ評価できるからだ。
また、最終的な判決が出るまでには時間の余裕があり、そのあいだにGoogleが有効な対策を講じる可能性もある。さらに、仮に事業分割が実現したとしても、それぞれの事業単位が独立して成長する可能性もある。
そもそも、その前にGoogleが負けるとは決まっていない。同社は潤沢な現金を保有しており、負債比率も低い。これは、法的問題に対処する上でも、新規事業への投資を継続する上でも大きな強みとなる。
基本的にGoogleは、メガテックの一員であり、世界でも最強クラスの技術企業である。「司法省ごときがメガテックを破壊できるとは思えない」という声も強い。
Googleの技術力と人材の質の高さは半端ではない。この優秀な人材がAIやクラウドコンピューティング、量子コンピューティングなど、次世代技術の開発で最前線にいる。これらの技術は、将来的に大きな収益源となる可能性を秘めている。
さまざまなリスクがGoogleを取り巻いているが、これらのリスクを考慮しても、多くのアナリストはGoogleを「買い」と評価しているのは、そこに理由がある。Googleの長期的な成長ポテンシャルが依然として高いのだ。
結論として、Googleは短期的には不確実性が高いものの、長期的には依然として魅力的な投資対象であるといえる。
私自身は個別銘柄としてGoogleを保有していないのだが、GoogleはETF【VTI】でも大きな比率を占める企業のひとつでもある。Googleよりも、むしろ自国のイノベーションを阻害する司法省の動きには疑念を抱いている。