AIを巡る巨人たちの熾烈な戦い。AI市場の「覇者」を決するのは技術力ではない?

AIを巡る巨人たちの熾烈な戦い。AI市場の「覇者」を決するのは技術力ではない?

人工知能(AI)の進化は、現代社会に大きなパラダイムシフトをもたらし、巨大メガテック企業が熾烈な競争を繰り広げている場所だ。まさにAIはテクノロジー産業の主戦場である。しかし、AI市場の覇者を決するのは「技術力」ではないことに注意する必要がある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

巨大テック企業が繰り広げるAI覇権争い

人工知能(AI)の進化は、現代社会に大きなパラダイムシフトをもたらしつつある。その中心にあるのが、大規模言語モデル(LLM)を基盤とした対話型AIだ。この分野で、巨大メガテック企業が熾烈な競争を繰り広げている。

最近、Amazonが、Anthropic(アンソロピック社)に40億ドル(約6,200億円)の追加投資をおこなうことを発表した。これにより、AmazonのAnthropicへの総投資額は80億ドル(約1兆4,000億円)に達する。

すさまじいまでの投資額だ。この動きでAI業界の勢力図が明確になってきているように思える。現在、AI開発の主要プレイヤーとしては、次の三つの巨大勢力《グレートパワー》が浮かび上がってきている。

Microsoft=OpenAI連合
Google=DeepMind連合
Amazon=Anthropic連合

これらの企業連合は、単なる資金提供関係を超えた、深い協力関係を築いている。たとえばAnthropicだが、AWSを主要クラウドおよびトレーニングパートナーとして選定し、AWSの次世代Trainiumチップの共同開発にも乗り出している。

OpenAIはMicrosoftのクラウドプラットフォームであるAzureを独占的なクラウドプロバイダーとして採用しており、OpenAIの研究や製品開発、APIサービスなど、すべてのワークロードがAzure上で運用されている。

さらに両者はAIスーパーコンピューティングの分野で協力し、専用のスーパーコンピュータシステムの開発と展開を進めている。

Googleは自社のAI研究部門である「Google Brain Team」と、AI開発を専門とする「DeepMind」を統合し、DeepMindのCEOであるデミス・ハサビスは、Googleの親会社であるAlphabetのCEOサンダー・ピチャイと直接連携し、AI戦略の策定に関与している。

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AIの開発競争に全力を注いでいる途上

AIは、今後のテクノロジー産業の主戦場になる。AIは、検索エンジン、クラウドサービス、オフィスソフトウェアなど、既存のテクノロジー製品に想像を絶するイノベーションをもたらす可能性を秘めている。

AIの発展は単なるテクノロジー革新にとどまらず、経済、社会、そして人類の未来そのものを左右する。そのため、各企業は莫大な資金と人材を投入し、AIの開発競争に全力を注いでいる途上にある。

AI開発競争の激しさは、投資額の規模からもあきらかだ。AmazonのAnthropicへの総投資額80億ドルは、AI業界における巨額投資の一例に過ぎない。

MicrosoftはOpenAIに対し、2019年から2023年にかけて総額130億ドル(約2兆円)の投資をおこなっている。GoogleはDeepMindを2014年に約5億ドルで買収したのだが、その後も年間数億ドル規模の投資を続けている。

AI人材の獲得競争も熾烈だ。企業間での人材の引き抜きも頻繁に起こっているのだが、それぞれの企業が少しでもライバルを出し抜くために、機械学習や深層学習の専門家、データサイエンティストなどをお互いに引き抜き合っている。

過度な引き抜き競争は、業界全体の健全な発展を阻害するリスクもあるのだが、もはやメガテックには、そんなことを悠長に省みる余裕なんかない。

すべてのメガテックがこの分野に全精力を傾けており、自社のAIの性能を引き上げるために、それぞれの専門家を高額な報酬や魅力的な研究環境を提示して、優秀な人材を引き寄せようとしている。

こうした動きを見ても、AIが単なる技術開発の域を超えたイノベーションであり、巨大な産業へと成長している途上であるのがわかるはずだ。各企業連合は、この成長市場でのリーダーシップを確立するため、全力を挙げて闘争を繰り広げている。

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「覇者」を決するのは技術力ではない?

これらの企業のどこが勝つのかは未知数だが、ひとついえるのは「AIでもっとも利益を出すビジネスモデルを構築できた企業が次の覇者になる」という事実だ。

現在、それぞれの企業がAIに莫大な設備投資をしているのだが、投資家はこの設備投資に見合う収益を、それぞれの企業が生み出すことを期待している。それぞれの企業は、AIで収益を最大化することを求められているのだ。

ということは、どういう経緯になっていくのか読める。

Microsoft=OpenAI連合、Google=DeepMind連合、Amazon=Anthropic連合は、それぞれの戦略で競争に臨んでいるが、AI市場の「覇者」を決するのは「技術力」ではなく、「収益モデルの優劣」になるはずだ。

技術的な優位性は短期的な競争力をもたらすが、それだけでは市場での勝利を保証するものではない。もし、それぞれの企業連合の中で、AIによる利益が最大化できない企業があったら、投資家はおそらくその企業連合を評価しない。

たとえAIの技術が他社よりも優れていたとしても、投資家は納得しない。求められているのは、「AI技術をどれだけ迅速に収益化できるか」という時間軸である。

今のところ、Microsoftは既存のWindowsやOffice製品にAIを組み込むことで、膨大な既存ユーザーからの追加収益を短期間で確保している。一方、Googleは検索エンジンのシェアをAIに奪われており、市場支配力が弱まっているように見える。

GoogleのGeminiは、たしかにOpenAIのAIと遜色ないのかもしれないが、問題はそこではない。「GoogleはGeminiでいかにして大きな収益を上げられるのか」なのだ。AIビジネスモデルを成功させる鍵は「既存資産を最大限に活用しつつ、新規市場を開拓する能力」にある。

単に技術のみでAIを評価すると、動向を見誤る。最終的に、どの企業がAIで最大の利益を上げるかが問われてくる。

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進化でどこが飛び抜けてくるのか?

Microsoftはすでに、ChatGPTをOffice365やDynamics365に統合することで、生産性向上ツールとしての需要を喚起し、莫大な収益を生み出している。

すでに確立された市場に、新しい技術を組み込むことで競合参入を阻む。その戦略は、Microsoftの得意とするところだ。今回も、そのMicrosoftの戦略は、うまく機能しているように見える。

Googleは広告収益の最適化を軸に、AIの収益化を進めている。AIの導入によりクリック率やコンバージョン率を向上させている。たとえば、DeepMindのモデルを用いて検索結果の精度を向上させるだけでなく、パーソナライズ広告を強化し、広告主に対するROI(投資利益率)を向上させている。

Googleは、ユーザーの欲する情報を提示する能力に長けている。Googleの強みは、その膨大なデータセットとモデル訓練の効率性にある。このため、この分野ではMicrosoftよりも優位に立つ可能性が高い。

AmazonはEC市場における支配的地位をAIでさらに強化し、クラウドサービスのAWSにもAIを活用した新サービスを次々と展開し、さらに音声アシスタント「Alexa」にAIを組み込んでスマートホーム市場にも収益源を広げていこうとしている。

それぞれ、自社の強みをAIによって強化しようとしているのだが、新しい技術を既存の製品に埋め込んで利益を最大化する能力においては、Microsoftが非常にしたたかであるように見える。

奇妙なことに、このMicrosoftのしたたかさを投資家はまだ評価していないので、株価は冴えないままなのだが、いずれその評価は変わってくるのではないか。

ただ、AI技術は今後も猛烈な勢いで進化していくので、その進化でどこが飛び抜けて巨大な収益を上げてくるのかは、よく見ておく必要がある。AIのユーザーだけでなく、投資家にとっても状況を知るのは重要である。

その企業が、次の時代を制するのだから……。

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