「スパム」を製造するホーメルフーズもまた毎年増配する隠れた配当銘柄でもある

「スパム」を製造するホーメルフーズもまた毎年増配する隠れた配当銘柄でもある

「スパム」を製造するホーメルフーズの現在の配当率は3.5%台となっている。この企業も、毎年増配する知られざるバリュー銘柄でもある。10年前は1株あたり0.40ドルだったが、現在は1.13ドルなので、約2.8倍になっている。堅実な企業は、長期的な安定収益を生む。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

卓越したブランド力と市場での存在感

私はジャンクフードしか食べないので、ほぼ毎日外食なのだが、たまに缶詰のスパム(SPAM)が食べたくなるときがある。それで、いったんスパムを買ったら、ずっとそればかり食べ続けるような生活に入ることが多い。

メキシコに沈没していたときに知り合った現地の女性が、超がつくほどスパムが好きだった。スパムを食べるたびに、彼女のことを思い出す。このスパムの缶詰を製造しているのがホーメルフーズ(Hormel Foods)である。

この企業は、アメリカを拠点とする食品業界の名門であり、「スパム」だけでなく「ジェニー・オー」なども保有する。これらのブランドは、アメリカで知らない人はいないはずだ。

ティッカーシンボルは【HRL】で、れっきとしたS&P500銘柄のひとつである。2024年第3四半期の売上高は28億9,843万ドルで、前年同期の29億6,329万ドルから、わずかに減少したが、それでも安定性を維持している点は評価に値する。

グローバル市場においても、スパムの名は轟いている。

同社のブランドは消費者の信頼を集め、安定した収益を確保している。アメリカの企業なのに、メキシコでもよく食べられている。日本では沖縄県で愛されていて、スパムの薄切りを焼き、酢飯で包む「スパムおにぎり」なんかもあったりする。沖縄そばにスパムを載せる家庭もあると聞いた。

そんなわけで、投資対象としてのホーメルフーズも関心があるのだが、残念なことに2年以上にもわたって株価は低迷したままとなっている。メガテックのように派手な業種でもないので話題にもならず、どこか見捨てられたような感がある。

ただ、配当率は3.5%台であり、バリュー株としては面白い水準にある。

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ホーメルフーズの財務は安定的だ

ホーメルフーズ【HRL】は、もちろん缶詰だけを作っているわけではない。

ほかにも、外食産業、コンビニエンスストア、商業施設向けに、食品および栄養製品を提供もしている。さらに、小売業や外食産業向けに、栄養製品やプライベートラベルの保存可能な製品の包装・販売をおこなっていたりする。

リテール部門では、定番商品「スパム」が強力な収益源となり、フードサービス部門ではレストランや飲食業界への供給が安定的な収益を生み出している。また、国際市場ではインドネシアのガルーダフードへの投資を通じて、新興市場への展開を加速させている点も注目すべき点だ。

さらに、のれん(グッドウィル)や知的財産における強みも特筆に値する。グッドウィルの総額は49億ドル以上である。ブランド価値が高いのだ。

このような安定性が、ホーメルフーズを食品業界におけるリーダーとしての地位に押し上げている。ただし、その成長率が競合他社と比較して緩やかである点や、成熟市場におけるシェア争いが激化しているので、そのあたりは懸念すべき点かもしれない。

ホーメルフーズの財務は安定的だ。

2024年第3四半期の売上高は28億9,843万ドルで、前年同期比で減少したものの、粗利益率は16.8%と堅調であった。この数字は、同業他社と比較しても競争力のある水準であるといえる。

営業利益は前年同期の2億1,675万ドルから2億3,669万ドルに増加しており、収益性の改善が明確である。

営業キャッシュフローは、8億5,811万ドルに達していた。これは同社が安定した運営を続けるための基盤を提供しており、これが同社の設備投資や株主還元に利用されることになる。

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ここ2年ずっと株価が低迷している理由

ホーメルフーズは安定性に優れた企業だが、いかんせん高成長を期待する投資家にとっては物足りないかもしれない。2024年第3四半期の売上高は、前年同期比で減少している。

食品業界は成熟市場でレッドオーシャンなのだが、この分野の競争が激化しているので、ホーメルフーズも悪影響を受けている。また、新興市場への展開は進められているものの、その収益寄与はまだ限定的だ。

さらに、インフレにも弱い。ホーメルフーズがここ2年ずっと株価が低迷していたのは、まさにインフレが大きな要因でもあった。

第二次トランプ政権はいくつもの国に関税をかけると公言している。本当にそうなった場合、ホーメルフーズも原材料コストの上昇で利益率が圧迫されていくリスクがかなりある。

このような状況下で競争力を維持するためには、新たな価格戦略や効率化が求められるはずだ。具体的には、サプライチェーンの多様化を進め、複数の供給源からの調達を確保することでリスク分散を図る動きになると思われる。

今後は製造プロセスや物流の効率化を推進し、コスト削減に努めていく必要もあるだろう。

ただ、国外ではドル高が続く限り、これ以上価格を上げられないようにも思える。たとえば、普通のスパムはドル高円安の影響もあって、日本では1缶1,000円近くもする。缶詰のジャンクな味なのに、これに1,000円を支払う日本人はおそらく沖縄県人以外には少ないと思う。

製品の付加価値を高めるマーケティング戦略を展開し、消費者に価格以上の価値を提供する必要がある。そういうわけで、インフレやドル高が売上に悪影響を及ぼすのではないかと、やや心配はしている。

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ホーメルフーズもまた毎年増配している

私自身はホーメルフーズは今後も数十年にわたって生き残り続けると考えている。

すでに確立したブランド力は、そうそう消えるわけではない。「スパム」という食品は、マクドナルドやコカコーラと同様に、消費者には「あって当たり前」レベルで空気のように定着しているのだ。

ホーメルフーズは、その長い歴史の中で幾度となく困難を乗り越えてきたのは、そのブランド力があったからでもある。

こうしたブランド力がある企業は、よほどおかしなことをしない限り、一定の収益とゆっくりとした成長が見込める。それが長期で続くと、財務基盤も堅固になる。実際、ホーメルフーズの財務基盤は強い。

メガテックのように、すさまじい研究開発費を出さないと生き残れないような業界でもない。

営業キャッシュフロー約8億5,811万ドルから投資キャッシュフローのマイナス1億7,689万ドルを引くと、フリーキャッシュフローは約7億1,222万ドルほどある。このフリーキャッシュフローは株主還元の余地を提供しているわけで、長期投資家には非常に魅力的である。

最終的に、ホーメルフーズの最大の資産はそのブランド力である。この企業は、消費者の信頼を裏づけにして安定した収益を上げている。たとえ一時的な困難に直面しても、この信頼を維持する限り同社は競争力を失わない。

ちなみに年間配当額だが、ホーメルフーズもまた毎年増配をおこなっており、10年前は1株あたり0.40ドルだったが、現在は1.13ドルなので、約2.8倍になっている。堅実な企業は、長期的な安定収益を生む。

こういう企業を保有するというのが、本来の意味でバリュー投資なのだろう。隠れた配当銘柄であるともいえる。スパムを食べるだけでなく、スパムの株を買うべきなのかもしれない。そんなことを考えながら、ひさしぶりにスパムを食べてホーメルフーズ【HRL】の株価を眺めている。

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