アメリカが中国に対して半導体の規制やAI技術の進展を阻止するために動いているのは、中国はそれを軍事に転用してアメリカを凌駕しようとしていることをわかっているからでもある。中国が半導体やAIの分野で頂点に立つと、グローバル経済は完全に乗っ取られる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
米中関係の緊張がもたらす影響
2016年の第一次トランプ政権の時代から、アメリカはすでに中国を完全に敵視している。地政学的、経済的、そして技術的な分野で激しくぶつかり、グローバル経済に大きな緊張を与えるようになった。
バイデン政権でも中国敵視政策は引き継がれたが、ジョー・バイデンの態度が大人だったので、中国を敵視しつつ、どこかマイルドな印象だった。だが、これからトランプ第二次政権に入るわけで、歯に衣着せぬ言動のトランプ大統領で緊張は一気に高まっていくことになる。
日本を含め、各国は自国の政策や戦略を再構築する必要に迫られている。
この緊張の背景には、アメリカが主導してきた既存の国際秩序に、中国が横暴な態度で侵略してきたことにある。たとえば、中国は「一帯一路」構想を通じてアジア、アフリカ、ヨーロッパへの影響力を拡大し、アメリカの伝統的な同盟国にも経済的な関与を深めた。
これは、アメリカが第二次世界大戦後に築き上げた自由主義的な秩序を、中国が乗っ取る動きである。アメリカはこれで、中国を強く警戒するようになった。
さらに、中国は知的財産を堂々と侵害してテクノロジー分野でも急速に台頭し、AIや半導体開発などでもアメリカの技術的優位性に挑戦しようとしている。
これに対し、アメリカは第一次トランプ政権以降、「中国からの切り離し(デカップリング)」を掲げ、経済や貿易政策を見直してきた。具体的には、半導体やハイテク分野での輸出規制、中国企業への制裁などが挙げられる。
この政策は、アメリカの経済安全保障を強化する一方で、グローバルサプライチェーンの混乱や世界経済の分断を引き起こしている。
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両国関係はすでに極度の緊張状態
中国もアメリカに折れるつもりはない。西側諸国に対抗するために、国内市場の拡大を図るとともに、技術開発や資源確保を進めようと動いている。アメリカのデカップリング政策に対抗するために、知的財産をあらゆる手段で奪い取ろうとしているのが今の状況だ。
だが、アメリカの規制は強まっていく一方だ。トランプ次期大統領は「中国からの輸入品に対し、最大60%の関税を課す」とも公言している。このような状況で、まだ第二次トランプ政権がはじまってもいないのに、両国関係はすでに極度の緊張状態に入っている。
両国間の摩擦は、他国の貿易や投資、技術政策にも波及し、国際的な経済競争の枠組みを変えるのは間違いない。この問題は、グローバル化の未来にかかわる重要な課題であり、国際社会全体が直面する避けられない現実である。
アメリカの対中輸出額は2018年以降、ほぼ横ばいの状況が続いている。
米国国勢調査局のデータによれば、2023年のアメリカの対中輸出総額は約1,360億ドルと、過去5年間で大きな成長は見られない。この要因として、アメリカの対中貿易政策の厳格化や、双方の報復関税の影響が挙げられる。
一方、中国の対米輸出も輸出額は約5,600億ドルで、前年よりも約5%減少している。バイデン政権も中国製品への輸入関税を引き上げているし、最先端技術の分野における制裁の影響も顕著だ。
中国の通信機器メーカーであるファーウェイに対するアメリカの制裁は、同社のアメリカ市場でのシェアをほぼゼロに追い込んだ。半導体分野の締めつけも、容赦なく厳しいものになっている。
バイデン政権は2022年に、中国企業への高度な半導体製造装置の輸出を全面的に禁止した。この規制により、中国国内のハイテク産業は成長が鈍化した。これに対し、中国は自国産の半導体開発を加速しているのだが、今のところアメリカの技術的優位性を埋めるには時間がかかる。
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中国は「国家主導」で技術開発を進める
貿易摩擦以外にも、為替の問題が米中関係に影響を与えつつある。
たとえば、2023年におけるドルと人民元の為替相場は、人民元安が進行し、1ドル=7.3人民元を超える水準に達した。この状況は、アメリカが中国を為替操作国として非難する一因となり、さらなる経済摩擦を引き起こしている。
貿易・半導体・為替。あらゆる分野でアメリカは中国を締め出そうと動いており、その対立の影響は広範囲に及ぶ。そのため、今後は単なる経済的な競争を超えた次元で、さまざまな事件や問題が発生してくるだろう。
ひとついえるのは、今後はますます中国は「国家主導」で技術開発を進めていくようになり、政府補助金や規制を活用して自国産業を保護していくことになることだ。国家主導なので、市場原理など完全に無視される。
技術開発が本来求められる効率性やイノベーションの競争よりも、国家の都合が優先される技術開発になるのだ。
中国は2020年から2035年までの技術開発計画「中国製造2025」を掲げ、AIや量子コンピューティングなどの分野で世界的なリーダーシップを目指しているが、これはすべて「中国が世界を支配下に置くための手段」である。健全なものではない。
アメリカが中国に対して半導体の規制やAI技術の進展を阻止するために動いているのは、中国はそれを軍事に転用してアメリカを凌駕しようとしていることをわかっているからでもある。
南シナ海における中国の軍事的行動は、アメリカやその同盟国とのあいだで大きな緊張を生んでいる。この地域は、世界の海上貿易の約30%が通過する戦略的要衝であり、中国がその影響力を強化しようとする動きは、アメリカにとって看過できない問題となっている。
中国が半導体やAIの分野で頂点に立つと、グローバル経済は完全に乗っ取られる。世界が中国共産党にひれ伏すのは、世界中の誰にとっても悪夢に違いない。
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米中関係が今後さらに激化する
米中関係の対立と衝突は、第二次トランプ政権で苛烈なものになっていくはずだ。トランプ大統領は容赦なく中国企業への制裁を拡大し、新たな輸出規制や投資制限に対して躊躇することもないはずだ。
中国の経済成長に直接的な打撃を与え、中国の経済的脅威、軍事的脅威を削ぐための4年間になると思われる。
中国側も報復していくだろう。たとえばアメリカ製品の購入制限や、自国市場からのアメリカ企業の排除を進める可能性がある。
2023年には、アメリカを代表する企業であるアップルが中国市場での売上減少に直面し、これがアメリカ国内での議論を引き起こしたのだが、まだ中国市場に頼っているアメリカ企業は悲惨なことになっていくだろう。
そういう意味で、今も中国と関係が深いアップルやナイキやスターバックスなどの企業は、いかに中国企業から離れられるのかが焦点になっていくのではないかと考えている。場合によっては、これらの企業の株価は長らく低迷する可能性もある。
当然、第二次トランプ政権になれば、中国との軍事的な緊張はもっと高まっていくはずだ。トランプ大統領はイスラエルvsパレスチナと、ロシアvsウクライナの戦争を終わらせたいと考えている。
深読みしたら、中東とロシアを安定化させて、最終的な敵である中国に専念する体制を整えるためであるとも考えられる。
いずれにしても、米中関係が今後さらに激化するのは100%確実な話である。私なら、中国への投資なんか絶対にしたくないし、中国にかかわる企業への投資もしたくない。
かつてヒラリー・クリントンは2012年の段階で「中国は20年後に世界でもっとも貧しい国になる」と述べたのだが、私はアメリカが「中国をもっとも貧しい国にする」ことを目論んでいると考えている。そうなりかねない国に投資する意味などない。