NVIDIAは革新的な企業だ。まさにAI革命の中心にこの企業が位置している。しかし、このNVIDIAにも多くの逆風がある。さらにPER(株価収益率)は依然として高水準であり、一部では「過大評価されている」との声もある。このような中で、NVIDIAへの投資はどうなのか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
「はじまったばかり」のイノベーション
2024年、もっとも世界が注目した企業はNVIDIA(エヌビディア)だった。この企業はGPU(グラフィックス処理装置)市場における世界的リーダーであり、AI分野の進化を牽引する存在でもあり、象徴でもある。
NVIDIAの製造する半導体は、ゲーム、データセンター、AIといった多岐にわたる市場で圧倒的なシェアを誇る。特にAI専用チップである「H100」や「ブラックウェル」が、業界標準を再定義し続けている。
ブラックウェルは非常に高い需要に支えられており、2025年はこのブラックウェルが半導体市場を席巻する。しかし、それで終わりではなく、後継として2026年に登場予定の「ルービン」も控えている。
ルービンはHBM4メモリや最新のNVリンク技術を搭載し、AIトレーニングと推論の効率を飛躍的に向上させるチップであり、ますますAIを高度化させていくはずだ。今のAIでも十分にすごい能力を持ち合わせているのだが、まだまだ「はじまったばかり」のイノベーションであり、進化はとまらないのだ。
AIのイノベーションの根底にNVIDIAがある。NVIDIAがなければパラダイムシフトが起こせない。ブラックウェルやルービンは、単にNVIDIAの収益を増加させるだけでなく、AIの利用範囲を拡大させることで、全産業に革命的な影響を与えていくだろう。
NVIDIAをここまで革新的な企業にしたCEOジェンセン・フアンの経営能力は本当にすさまじいものがある。同氏はAI技術の進化を「まだ数年先」と冷静に分析し、企業がさらなる計算能力を必要とする未来を予測している。
そういう意味で、NVIDIA【NVDA】は「まだまだ買い」であると見る投資家は多い。
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ライバル企業の追随を許さないNVIDIA
NVIDIAは2024年度の第3四半期において、売上高が前年同期比93%増の350億8200万ドル、純利益が同109%増の193億0900万ドルと著しい成長を遂げた。
粗利益率は約74.6%、純利益率は約55%と高水準を維持し、営業キャッシュフローは前年同期比186%増の474億6000万ドルに達していた。
研究開発費は48%増の33億9000万ドルに拡大し、先進技術開発への積極的な投資がうかがえる。一方で、同期間の流動資産は676億4000万ドル、総資産は960億1300万ドルとなり、流動負債164億7900万ドルに対して堅実な財務体質を示している。
また、自己株式買い戻し110億7500万ドルと配当支払い5億8900万ドルを通じて、株主還元を強化した。
包括利益は508億6500万ドルと前年同期の174億3000万ドルを大幅に上回り、総資産増加と株主資本の拡大が顕著である。このように、NVIDIAは収益性、キャッシュフロー、株主還元の各面で高い成長を維持しつつ、持続的な競争力を確保している。
市場では、NVIDIAの製品ライフサイクルの短縮も注目されている。従来は2年ごとに新製品を投入していたが、現在は1年ごとに新しいAI専用チップをリリースする方針を採用している。
これにより、技術革新の速度を維持しながら、ライバル企業の追随を許さない状況を作り出している。
また、NVIDIAの株価は2024年時点で時価総額は1兆ドルを超えている。この圧倒的な規模感は、投資家にとって安心材料となっている。ただし、PER(株価収益率)は依然として高水準であり、一部では「過大評価されている」との声もある。
この点については、将来の成長をどう見るのかにかかっている。将来的にさらに利益が爆増していくのであれば、割高どころか割安だったということもありえる。要するに、NVIDIAの成長はどうなのか、という点にかかっている。
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NVIDIAを取り巻く逆風も存在する
もちろん、いくら強力なNVIDIAといえども、課題が存在するのは事実だ。
同社が直面している最大の問題は、AI市場での競争激化である。特に、AMDやインテルといった伝統的なライバルに加え、GoogleやAmazonといったクラウド事業者も専用AIチップの開発に乗り出しており、競争環境は過去に例を見ないほど激化している。
オラクルなどはNVIDIAと深い関係を持ちながらも、AMDとの連携も深めてデータセンターの競争力強化を図っている。こうした動きは、どんどん加速していくわけで、かならずしもAI半導体のビジネスをNVIDIAだけが独占するわけではない。
たしかにNVIDIA一強であるのは間違いないのだが、ライバルもじわじわとそこに食い込んでくるだろう。
また、AI分野における規制の強化もNVIDIAにとって逆風となりうる。
欧州連合(EU)ではAI技術の透明性やデータ保護に関する規制が進行しており、これが企業活動に影響を与える可能性がある。さらに、米中貿易摩擦が長期化する中、中国市場への製品供給にも制約が生じている。
さらに極めつけは、トランプ次期大統領が「台湾が我々のビジネスを盗んだ」と激しく批判しており、半導体における製造を不安定化させる要素があることだ。現在のNVIDIAの半導体もそうだが、最先端のほぼ多くの半導体が台湾で製造されている。
ここが動揺することになると、半導体ビジネスそのものが動揺する。
幸いにして、トランプ政権にAIビジネスの最先端にいるイーロン・マスクが入り込んだので、半導体ビジネスにマイナスになるような政策は取られる可能性は大幅に減ったと見ているのだが、これは蓋を開けてみないとわからない。
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問題を乗り越える能力はあるか?
これらの課題が存在する中でも、NVIDIAが市場をリードし続ける理由は明白である。同社は技術革新の速度を維持しながら、次世代製品を通じて問題解決に挑む能力を備えている。
2025年はブラックウェルの時代になるといったが、このブラックウェルもさらに拡張されて、ブラックウェル・ウルトラ、2026年はルービンの時代といったが、このルービンもさらに拡張されて、ルービン・ウルトラが登場する予定であると、ジェンセン・フアンは台湾の基調講演で語ったことがある。
すでにブラックウェルでも熱処理問題を抱えているので、強化版もスケジュールの遅延などもあると思われるので、予定通りに出るのかどうかは不明だが、少なくとも、2世代、3世代先まですでに考えられている。
さらに、NVIDIAはパートナーシップの強化にも注力している。
クラウド事業者やスタートアップ企業との全方位での連携を深めることで、新しい市場機会を創出しつつ、技術的課題にも対応している。このような柔軟性は、変化の激しい市場で生き残るための重要な要素である。
今後、AIの取り組みが国家存続の鍵になると気づいた国から「ソブリンAI(国家AI)」の取り組みが加速していくことになる。政府の中枢もハイテク・AI化していくのだが、その際にはデータセンターが他国にあったら国防の面でもリスクなので、国家は自国内でデータセンターやAIを構築する必要がある。
その「ソブリンAI」にもNVIDIAは深くかかわってくる。
NVIDIAは、技術革新と市場戦略を駆使してAI時代を切り拓く企業である。課題が存在するのはたしかだが、それを乗り越える能力とビジョンを持ち合わせている。私自身は、長期目線でこの巨人に投資を続ける価値は十分にあると考えている。