インテル、ゲルシンガーCEO解任。新しいCEOが誰になっても再建は容易ではない

インテル、ゲルシンガーCEO解任。新しいCEOが誰になっても再建は容易ではない

ゲルシンガー氏の就任時から、インテルはすでに厳しい状況にあった。競争力の象徴だった製造プロセスはTSMCに抜かれ、株価も低迷していた。さらに、AI革命が半導体業界に変革をもたらす中、インテルはこの新たな波に乗り遅れていた。CEOが辞任しても状況は何も変わらない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

インテル、ゲルシンガーCEOを電撃解任

2024年12月1日、パット・ゲルシンガー氏がインテルのCEOを退任するという衝撃的な発表があった。わずか4年前、ゲルシンガー氏は「インテル復活の救世主」として満場一致でCEOに迎え入れられたはずだった。

長らく競争力を失い続けていたインテルをふたたび業界のトップに押し上げると期待された彼の突然の退任は、業界関係者に衝撃を与えた。

退任の背景には、取締役会による冷徹な評価がある。

ゲルシンガー氏は、過去数年間でインテルの構造改革と製造技術の革新を掲げたが、その成果は目に見える形で現れることなく、むしろ財務の悪化が際立つ結果となった。取締役会は「もはや彼の野心的な計画を支える余裕はない」と判断し、辞任か解任かの選択を彼に迫った。

じつは、ゲルシンガー氏の就任時から、インテルはすでに厳しい状況にあった。競争力の象徴だった製造プロセスはTSMCに抜かれ、株価も低迷していた。さらに、AI革命が半導体業界に変革をもたらす中、インテルはこの新たな波に乗り遅れていた。

これらの課題を打破するために「製造業回帰」を掲げたゲルシンガー氏の戦略は、大胆であると同時に極めてリスクの高いものであった。

その戦略の中心は、巨額の設備投資だった。オハイオ州に建設を予定していた超大型半導体工場には、約200億ドルが費やされる見込みだった。だが、計画は遅延し、結果としてコストがさらに膨らむ結果となった。

競合他社が次々とAI関連の製品を市場に投入し成功を収める一方で、インテルの収益は減少を続け、最終的には2024年第3四半期に166億ドルの巨額赤字を計上した。

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「過去の栄光」にすがる企業としての印象

インテルが直面しているもっとも大きな問題、それは「AI革命への対応の遅れ」だ。競合するNVIDIAは、AIチップ市場で圧倒的な地位を築き、わずか数年間で時価総額がインテルの10倍近くに達している。

AI市場の需要が爆発的に拡大する中で、インテルは依然として旧来のx86アーキテクチャに依存し続け、技術革新で後れを取った。結果として、市場のシェアを奪われるばかりか、収益基盤の脆弱化を招いている。

2024年、インテルは約166億ドルという前代未聞の赤字を記録し、これにより配当も停止せざるを得なかった。

この財務的な惨状が株主の信頼を大きく損ね、ゲルシンガー氏の就任時から株価は実に60%以上も下落している。これほどの暴落は、単なる市場環境の悪化によるものではなく、経営そのものの失敗を象徴していると言える。

AI革命が進行する中、インテルが失ったのは単なる市場シェアだけではない。

競争力を維持するための資本をも失った。競合他社が収益をAI技術の研究開発に再投資する一方で、インテルは財務状況の悪化により、革新的な技術開発に必要なリソースを確保できないという悪循環に陥っている。

この状況を象徴するのが、インテルの人員削減計画だ。同社は2025年までに100億ドルのコスト削減を目指し、従業員の15%に相当する15,000人以上を削減する予定だと発表している。

しかし、これは一時的な財務改善には寄与するものの、長期的な競争力をさらに損なうリスクをはらんでいる。

また、インテルの主力製品であるCPU市場でも競争が激化している。AMDは、TSMCの最新プロセス技術を活用して市場シェアを拡大し続けており、特にデータセンター向け製品でその優位性を示している。

一方で、インテルの製品は性能や消費電力の面で劣後しており、価格競争にも巻き込まれる形となっている。

このような状況で、インテルは「半導体産業の巨人」としての存在感を維持するどころか、むしろ「過去の栄光」にすがる企業としての印象を強めつつある。NVIDIAやAMDに市場の主導権を奪われ、かつての輝きを取り戻す道筋は極めて不透明だ。

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取締役会との対立と「退任か解任か」の最後通告

ゲルシンガー氏のCEOとしての最大の失敗は、インテル再建のための「野心的な計画」を取締役会に十分に納得させることができなかった点にある。

インテルはオハイオ州に建設中の新工場や、ファウンドリー事業の拡大計画を掲げていたが、これらはすべて巨額の投資を必要とするものであった。取締役会は、これらの計画がリターンを生むまでの長期間にわたるコスト負担を危険視し、ゲルシンガー氏との対立が深まった。

また、ゲルシンガー氏が提唱した「IDM 2.0」戦略は、製造業としての伝統を守りつつ、外部顧客にチップを提供するファウンドリービジネスを強化するというものだった。だが、これらの方針は「TSMC」という強力な競合他社と直接対決するリスクを伴い、取締役会の懸念を招いた。

結局、彼の計画が期待通りの結果を生まず、財務状況がさらに悪化する中で、取締役会はついに辞任か解任のいずれかを選ぶよう迫った。事実上の最後通告である。ゲルシンガー氏は退任を選択したが、彼のリーダーシップに対する信頼は、もう完全に失われていた。

じつは、もうその前からインテルには崩壊の兆しが見えていた。長年にわたり技術革新をリードしてきたエンジニアたちが、次々と競合他社に流出する事態が続いていたのだ。特に、NVIDIAやAMDが、AI関連の才能を積極的に引き抜いたことで、インテルは競争力をさらに失った。

インテルはかつて、半導体業界に君臨する絶対的な王者だった。その輝かしい日々は、PC市場におけるCPUの圧倒的な支配力によって支えられていた。1990年代から2000年代初頭にかけて、インテルは「インサイド」と名づけられたブランド戦略で市場を席巻し、業界の象徴的存在となった。

製造技術でも競合他社を大きく引き離し、最先端の半導体プロセスを自社で開発し続けることで、圧倒的な優位性を保っていた。しかし、その栄光の日々は、もはや過去のものでしかなく、才能あるエンジニアたちがインテルに残る理由は何もなかったのだ。

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インテルを再建させるのは容易ではない

インテルは、いくつもの市場変化に対応する機会を逃してきた。痛かったのは、モバイル革命を逃したことだ。Appleのスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表した時期のインテルの傲慢な態度を私は今も覚えている。このときインテルはiPhoneを「おもちゃ」と評価してした。

スマートフォンの台頭に伴い、半導体の需要はPCからモバイルデバイスへと急速にシフトしたが、インテルはこの変化に対応することができなかった。ARMアーキテクチャを基盤とするプロセッサが市場を支配し、インテルのx86アーキテクチャは徐々に存在感を失っていった。

さらに、AI革命が半導体業界を再編する中で、インテルはふたたび対応が遅れて、これが致命傷になった。

NVIDIAがAIチップ市場で圧倒的なリーダーシップを確立し、AMDがTSMCの最先端プロセスを活用して急成長する中で、インテルは依然として従来の事業モデルに固執していた。こうした遅れは、競争力を著しく損ねただけでなく、次世代技術への投資を大幅に制限する結果を招いた。

その結果、インテルは2024年第3四半期に166億ドルの赤字を計上し、株主配当も停止せざるを得なくなった。これに伴い、株価は過去数年間で60%以上下落し、株主からの信頼も地に落ちた。

財務的余力を失ったインテルは、競争相手が進める大規模な研究開発や設備投資に追随することすら困難になりつつある。

インテルの未来はどうなるのだろうか。

短期的には、AI市場での存在感をどう取り戻すかが最大の課題となる。NVIDIAが圧倒的なシェアを握る中で、インテルがこの分野でリーダーシップを発揮するためには、根本的な技術革新と顧客基盤の再構築が不可欠だ。

しかし、AI市場はすでに熾烈な競争が繰り広げられており、遅れを取り戻すための時間は限られている。

また、製造プロセスの再建も急務だ。TSMCやサムスンが5nm以下のプロセス技術で市場をリードする中、インテルは依然として先端プロセスの開発に遅れを取っている。工場設備への巨額投資は継続しているものの、これが市場での優位性に転じるまでには長い時間が必要とされる。

一方で、インテルの復活に期待する声も完全には消えていない。だが、その希望はかすかなものであり、外部環境が劇的に変化しない限り、復活への道は依然として険しい。新しいCEOが誰になるにしろ、インテルを再建させるのは容易ではない。

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