オクシデンタル・ペトロリアム。株価が低迷してもバフェットが怯まない理由

オクシデンタル・ペトロリアム。株価が低迷してもバフェットが怯まない理由

オクシデンタル・ペトロリアムの株価が低迷している。この企業はバフェットが買い進めている企業でもある。世間ではバークシャー・ハサウェイは「投資企業」として知られているのだが、バフェットはアメリカのインフラに投資するのが好きで、傘下には数々のインフラ企業を抱えている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

OXYへの強い執着を見せるバフェット

ウォーレン・バフェットが今、あるひとつの企業に執着を見せている。その企業が、オクシデンタル・ペトロリアム(NYSE:OXY、以下OXY)だ。

2022年以降、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、OXYの株式を猛烈な勢いで買い漁っているのだが、現時点で2億5,520万株以上を保有している。すでに3年にわたって継続的な投資をおこなっている。

「オクシデンタルの米国に保有する膨大な石油とガスが気に入っており、そして経済的な実現可能性はまだ証明されていないものの、炭素回収の取り組みにおけるリーダーシップも好きだ」

バフェットはOXYを評して、そのように述べている。

世間ではバフェットの運営するバークシャー・ハサウェイは「投資企業」として知られているのだが、バフェットはアメリカのインフラに投資するのが好きで、傘下にはバークシャー・ハサウェイ・エナジー、BNSF鉄道、コーブポイントLNGなどを抱えている。いずれも重要なインフラ企業である。

バフェットの日本の五大商社を買ったのも、商社がエネルギセクターに大きな投資をしているという側面もあったはずだ。

さらにいえば、バフェットが信頼するバークシャー・ハサウェイの幹部で、次期CEOであるグレッグ・アベルもミッドアメリカン・エナジー・ホールディングス(現バークシャー・ハサウェイ・エナジー)を率いる人物で、エネルギー業界出身である。

バフェットはここに確固たる石油事業を組み込みたいという、強い意向があるのだと私は考えている。経済アナリストは、バフェットが将来の原油価格の上昇を見込んで【OXY】を買い込んでいるのだと分析しているが、そのあたりはどうなのだろうか。

バフェットは、短期的に原油価格が上がるのか下がるのかは「まったくわからない」と述べている。そして、「エネルギー分野への投資は、長期的な視点でおこなわれている」とし、長期的にはこのような見解を語っている。

「地球にたくさんのストローがさし込まれたが、原油には限りがある。だから、私が約束できそうなことは、原油はいずれもっと高く売れるということだ」

つまり、バフェットは石油については長期的には強気であるのがわかる。

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OXYにはどのような特性があるのか?

バフェットがOXYを選好しているのは、エネルギーセクター全体が割安で、その中でもOXYが経営効率から見ても特に割安であることや、OXYがほかの総合エネルギー企業と比べて、掘削事業への依存度が突出して高いことにある。

つまり原油価格が上昇すれば、OXYの収益は劇的に改善する可能性があることを意味している。「発見・開発コストの重要性を強調したい」とバフェットは言う。

もちろん、リスクも存在する。グローバル経済の景気後退の可能性だ。景気後退は原油価格に悪影響を及ぼす。OXYは上流事業の比重が高いため、ほかの企業よりも大きな打撃を受ける可能性がある。

しかし、バフェットは短期で物事を見ていない。石油業界の収益性には絶大な信頼を寄せており、「1日でも石油なしで過ごしてみれば、その重要性がわかるだろう」 「世界は今後も大量の石油を必要とし続ける」と述べ、短期的な動向で物事を判断しない。

OXYは、米国テキサス州とニューメキシコ州に広がるパーミアン盆地での事業を強化しているのだが、この地域は、アメリカのシェールオイル革命の中心地でもある。バフェットは、この資源の潜在的な価値を高く評価し、2023年のバークシャー・ハサウェイの株主総会ではこう語った。

「パーミアン盆地でのOXYの資源、業界位置、技術的な専門知識に特に好意的である。バフェットらは多くの高品質な井戸を所有しており、多くの有益なことを実現しており、石油ビジネスにおいて特異なプレイヤーである」

2023年12月、OXYはパーミアン盆地で原油生産をおこなうクラウンロック社を買収し、さらに2019年にも同業のアナダルコ・ペトロリアムを買収して、パーミアン盆地での生産能力を強化している。

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石油への需要はなくならない

OXYの財務状況も、バフェットの目に魅力的に映っているようだ。2023年の年次報告書によると、OXYの現存埋蔵量は、約9〜10年分の生産量に相当するとある。これは、安定した収益源を意味する。

さらに、OXYは債務削減にも積極的だ。クラウンロックの買収完了からわずか2か月後に40億ドルを返済し、短期債務削減目標45億ドルの90%近くを達成した。この財務健全化の動きは、バフェットの投資哲学に合致している。

バフェットの戦略は明確だ。原油価格が安定すると、OXYがフリーキャッシュフローを債務返済に使えば、3〜4年で債務を完済する可能性がある。その後は、莫大なキャッシュフローを株主還元や成長投資に回せるようになる。

世界中で再生可能エネルギーへの移行が叫ばれる中、なぜバフェットは石油に固執するのか。バフェットは、石油需要が簡単には消えないと確信しているのだ。「世界は今後も大量の石油を必要とし続ける」というのがバフェットの見解だ。

たしかに、電気自動車の普及や環境規制の強化など、石油需要を脅かす要因は存在する。クリーンエネルギーへの転換も進んでいく。だが、それは急激におこなわれるものではなく、徐々に進むものだ。そのあいだ、石油需要は依然として強い。

OXYのヴィッキー・ホルブCEOは、CNBCのインタビューで興味深い指摘をしている。「過去10年間に世界で消費された原油量の半分以下しか新たに確認されておらず、この傾向を考慮すると2025年末までに需要が供給を上回ることになる」。

需要が供給を上回れば、必然的に油価は上昇する。そして、OXYのような上流事業に強い企業の収益は爆発的に増加する。

バフェットは、これらの要因を総合的に判断し、石油産業の未来に大きな可能性を見出しているのだ。バフェットの目には、再生可能エネルギーへの移行期間中も、石油が依然として重要なエネルギー源であり続けるという現実が見えているようだ。

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バフェットは、まったく動じていない

興味深いことに、脱炭素技術への積極的な投資を進めているのもOXYだった。

OXYはカナダのカーボン・エンジニアリング社を11億ドルで買収しているのだが、これは大気中から二酸化炭素(CO₂)を直接回収し、回収したCO₂を利用してクリーン燃料を製造する技術を持つ。

OXYは2035年までに年間最大100万トンのCO₂を回収するプラントを、70基建設する目標を掲げている。

回収したCO₂は深さ1,000メートル以上の地層に封じ込めることで、高圧下で安定した状態に保つことが可能となり、さらに地下の油田に注入することで、油田内の圧力を上昇させ、残存している原油を地表に押し出す効果がある。

これにより、CO₂を再利用しつつ、原油生産量を増加させることができる。そして、回収したCO₂を水素と合成し、ガソリンや軽油、ジェット燃料などの液体燃料を製造する技術も開発している。バフェットの「炭素回収の取り組みにおけるリーダーシップも好きだ」という発言はこれを指している。

バフェットの投資戦略は、つねに「理解できるビジネスを安く買う」ことに尽きる。OXYは、まさにその典型である。石油の探査、生産、販売という、シンプルで理解しやすいビジネスモデルがそこにある。

しかもバフェットが望むのは「5年あるいは10年にわたって平均より低い単価で原油を発見し、開発するような経営陣がいる会社」であり、それがOXYだった。その効率性と合理性を持った経営で、「OXYは原油がバレル当たり40ドルに下がっても、利益を確保できる」とバフェットは考える。

現在、OXYの株価は低迷している。しかし、バフェットがまったく動じていないのは、OXYがパーミアン盆地での強力な地位、技術的専門知識、そして効率的な経営を持っているからでもある。

OXYはキャッシュフローの成長、債務削減、配当の継続と増配を優先事項として掲げ、財務の健全性を維持している。バフェットの読みが大きく当たるのかは、今後10年20年の歳月を待たなければならないのだろう。

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