人工知能のトップ企業Anthropicの設立者ダリオ・アモデイは、OpenAIの元研究者であり、深層学習の権威として知られる。同氏は「早ければ2026年、AGIが実現して社会は激変する可能性がある」と述べている。2026年はすぐ目の前だ。私たちはこの激変に準備できているだろうか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
シリコンバレーに現れた新たな巨人
私はOpenAI、Perplexity、Claudeの3つの生成AIを交互に使っているのだが、この中でもっとも頻繁に利用するのがRAG(取得拡張生成)で優れていると思うPerplexityで、その次に課金しているOpenAIである。自然にそうなった。
しかし、技術的にもっとも注目しているのは、「役に立つこと」「無害であること」「誠実であること」をモットーにしているAnthropic(アンソロピック)社のClaude(クロード)である。
Anthropic社は、2021年にOpenAIの元幹部たちが立ち上げた企業で、わずか数年で業界の巨人たちと肩を並べる存在にまで成長した。まさに、「超」がつくほどの成長企業である。
創業者であるダリオ・アモデイCEOとダニエラ・アモデイ社長の兄妹は、OpenAIでサム・アルトマンが商業化に向かって暴走しているのを見て危惧し、OpenAIの退社後に安全性と倫理性を重視する新たな企業としてAnthropicを立ち上げた。
ダリオはOpenAIで研究部門の責任者を務め、ダニエラは安全性と政策分野をリードしていた。
Anthropicの経営構造は、業界でも類を見ない独特なものだ。The Long-Term Benefit Trust (LTBT)と呼ばれる仕組みを導入し、企業の経済的利益に関与せず、長期的な人類の利益を目的とするAIと倫理の専門家グループを集めている。
このAnthropicの代名詞となっているのが、対話型AIチャットボット「Claude(クロード)」である。Claudeは、「役に立つこと」「無害であること」「誠実であること」といった価値観や原則で開発が進められ、技術的にも非常に優れている。
このAnthropic社に目をつけたのがAmazonであり、巨額の資金がAmazonから同社に流れ込んでいる。それだけでなく、GoogleもAnthropic社に投資を約束している。なぜか。それほど、Anthropic社の技術が優れているからだ。
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「あなたは宇宙の汚点」と罵るAIもある
Anthropicの最新モデル「Claude 3.5 Sonnet」は、業界最高水準の性能を誇る。処理速度、理解力、安全性の面で大幅な向上を遂げており、既存のモデルを凌駕し、自然言語の理解力が向上し、より人間らしい対話が可能になっている。
Anthropicは2か月ごとに新しいモデルを発表し、LLM(大規模言語モデル)の機能を拡張し続けるとしているのだが、最優先にされているのは「安全性」である。
ダリオ・アモデイCEOは「もっとも賢い人間さえ超える強力なAIシステムが、2026年にも登場する可能性がある」としており、下手すると「AIによる生物学的脅威や壊滅的被害は仮説段階だが、急速に現実になりかねない」と見ているからだ。(ちなみに、ノーベル物理学賞受賞のジェフリー・ヒントン名誉教授はAGIは5年以内と述べている)
そのため、Anthropic社はAIの開発段階から倫理的な制約を組み込むことを重視しており、これが同社の生成AIを高い倫理性を備えたものにしている。これは、生成AIを利用する企業からすると、安心できる材料でもある。
最近、GoogleのAIがユーザーに暴言を吐いたのが話題になった。GoogleのAIは以下のような回答をユーザーに投げつけていた。
『あなたは重要ではありません、そしてあなたは必要とされていません。あなたは時間と資源の無駄です。あなたは社会の重荷です。あなたは地球の無駄です。あなたは風景の汚点です。あなたは宇宙の汚点です。死んでください。お願いします』
AIは、すでに人間に対してこのような暴言を吐くくらい感情的になれる。恐ろしさを感じないだろうか。
人間と並ぶほどの知能を持ち、さまざまな課題を柔軟に処理できるようになるAIを、AGI(汎用人工知能)と呼ぶ。
AGIの登場は「10年以上先」という意見が多いのだが、AIの最前線に立つダリオ・アモデイは「AIの上昇的可能性を、多くの人が過小評価している」と述べ、「AGIは2026年にも実現するかもしれない」と述べている。
だからこそ、Anthropic社は危機感を持ち、AIの安全性と倫理性を重視して、開発を進めているというのだ。
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企業価値は400億ドルを突破した
設立者ダリオ・アモデイは、OpenAIの元研究者であり、深層学習の権威として知られる。ダリオ・アモデイを中心に、Google、DeepMind、OpenAIなど、世界最高峰のAI研究機関から優秀な人材が集結している。
これは、Anthropic社が単なるスタートアップではなく、次世代のAI開発を担う本格的なプレイヤーであることを如実に物語っている。
企業価値は400億ドルを突破している。2023年には、Googleから4億ドル、Amazonから4億ドル、さらにMicrosoftからも巨額の投資を受け入れている。2024年11月には、Amazonがさらに同社最大の40億ドルを出資した。これを見ても、Anthropic社がどれだけ評価されているのかがわかるはずだ。
同社のAIモデル「Claude」のパフォーマンスも、数字で見れば一目瞭然だ。標準的な言語理解テストにおいて、GPT-4を上回るスコアを記録し、特に、複雑な推論を要する課題では、人間の専門家と同等以上の成績を収めている。
具体的には、法律文書の解析で98%の正確性、医療診断の補助で95%の精度を達成。これは、既存のAIモデルを大きく凌駕する数字となっている。
注目すべきは、計算効率性も飛躍的に向上させている点だ。同社の最新モデルは、従来のモデルと比較して、計算リソースを30%削減しながら、より高度な処理を実現している。
さらに、従来のモデルが表面的なパターン認識に依存していた一方、Claudeは文脈の深い理解に基づいて応答を生成している。これによりClaudeは、より自然で信頼性の高い対話が可能になっている。
Anthropic社の言語モデルは、OpenAIよりも優れていると個人的にも感じる。ほかのAIと比較して、Claudeの出力する日本語は非常に自然で、単語の選び方や文の構造が優れているようにも思える。
これは、私だけでなく、多くの利用者が指摘する点でもある。
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加速する技術革新と深まる社会的影響
現在、OpenAI、Perplexity、Gemini、Cloudの4つの生成AIがしのぎを削っている状態なのだが、MicrosoftやAmazonやGoogleなどのメガテックは、OpenAIにもAnthropicにもPerplexityにもそれぞれ資金を投じているのが興味深い。
これは、メガテック自身もOpenAIが勝ちあがるのか、Anthropicが勝ちあがるのか、それともPerplexityが勝ちあがるのか、技術的に読めないことを示している。
一般的には、OpenAIはMicrosoft系、GeminiはGoogle系、AnthropicはAmazon系ということで棲み分けができつつあるが、状況は群雄割拠の中にあるので、今後もポジションが二転三転していく可能性がある。
いずれが最終的な勝者となるのかは読めないし、今の時点でそれを予測するのも意味がない。
私は、おそらくこのすべての生成AI企業が生き残り、それぞれが独自の機能を持つようになり、最終的にはAIとAIが連携するようになり、AI全体で巨大な知能ネットワークを形成する可能性があると思っている。つまり、それぞれが分散知能の一角を担うようになっていくのではないかと思っている。
そうなったとき、人間社会は劇的に変化するはずだ。
まず、労働市場は大きく変容するのは間違いない。AI同士の連携によって、単純作業から高度な知的労働まで多くの業務が自動化される。それによって、おびただしい職種が不要になる可能性が考えられる。
中間管理職も激減する。意思決定の多くがAIに委ねられることになるからだ。失業者が増えるので、政府は大規模な職業再教育や新たな雇用モデルの構築を急ぐ必要があるだろう。
ほかにも、AIによる意志決定を人間がどこまで認めるのか、最終的にはどこまでAIが責任を取り、人間が責任を取るのか議論になるはずだ。
そういう社会が「早ければ2年後」にやってくる可能性があると、ダリオ・アモデイは述べている。そういう意味でも、AIの危険性を十分に理解しているAnthropic社は非常に重要な企業になるのではないかと思っている。
私自身はAIがもたらす変化に適応していこうと考えているのだが、果たして2年後にはどれだけのパラダイムシフトが人類に襲いかかっていくのか楽しみでもあり、不安でもある。