Adobeの苦境。AIによって時代遅れになっていくAdobeは果たして挽回できるか?

Adobeの苦境。AIによって時代遅れになっていくAdobeは果たして挽回できるか?

現在、あらゆる新興企業がAIを使った画像処理でイノベーションを起こしている。Adobeも、主力製品にAI機能の搭載を進めているのだが課題は多い。AIに関していえば、Adobeは圧倒的な優位性を持ち合わせていない。むしろAdobeは新興企業に後塵を拝しているといえる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

市場はAdobeの将来性に疑問を投げかけている

Adobeの株価が急落している。次年度の第1四半期の収益予測は56億3,000万ドルから56億8,000万ドルと、アナリストの予想を下回る水準だった。2025年度の見通しも233億ドルから236億ドルと、市場予測の238億ドルを下回った。

この発表を受け、Adobeの株価は15%も下落しており、11月5日以来の最低水準を記録した。ただ、この株価下落自体は、Adobeの業績自体が悪化しているわけではないという点で、皮肉な結果と言える。

実際、同社は2024年の全四半期で市場予想を上回る業績を上げている。第4四半期の調整後EPSは4.81ドルと、ウォール街の予測4.67ドルを上回った。四半期収益も56億1,000万ドルで、予想の55億4,000万ドルを上回っている。

では、何が問題なのか。

投資家は、急激に広がっている生成AI技術の台頭で、Adobeの将来性に疑念と不安を持つようになっているのだ。画像生成AIや、動画生成AIの技術はすさまじい。Adobeの競争力が低下するのではないかという懸念は無理もない。

たしかにAdobeもAI製品「Firefly」で迎え撃とうとしている。しかし、そのFireflyの収益化が遅れていることも、投資家の不安を煽っている。

Adobeの株価パフォーマンスは、ほかのテクノロジー企業と比較しても見劣りする。2024年、ナスダック指数が33%上昇する中、Adobeの株価は7.8%下落した。同業他社のソフトウェア株が急騰する中、Adobeだけが取り残されている印象だ。

クリエイティブソフトウェア市場のリーダーとしての地位を維持できるのか、それとも生成AIという新たな競合に押されて衰退の道をたどるのか。Adobeの将来は、まさに岐路に立たされているともいえる。

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AI時代から見ると化石のような存在

AIがすべてを変えてしまった。現在、ありとあらゆる新興企業がAIを使った画像処理でイノベーションを起こしている。Adobeも、主力製品にAI機能の搭載を進めているのだが、今のところは課題も多い。

AIに関していえば、Adobeは圧倒的な優位性を持ち合わせていない。というよりも、むしろAdobeは新興企業に後塵を拝しているともいえる。

画像生成AIは「Stable Diffusion」「Midjourney」「DALL-E」が圧倒的に支持されているし、動画生成AIは「Runway」「Sora」なんかが非常に注目されている。今後は、Googleも、Metaも、Amazonも、この分野に乗り込んでくる。Adobeは大勢の中の1人に過ぎず、この分野での代表格ではない。

それだけではない。サイト製作の分野についても、たとえばAnthropicの生成AIであるClaudeなどでは、プロンプトに作ってほしいサイトのイメージを適当に指示するだけで、即座にHTMLやCSSやJAVA-SCRIPTを生成してくれる。さらには、サーバーサイドで動くプログラムさえも作ってくれる。

Adobeといえば、サイト製作ツールとして「Adobe Dreamweaver」を展開しているが、もうすっかり時代遅れになっていて、使いにくく、わかりにくく、AI時代から見ると化石のような存在なのだ。クリエイターは、もう誰もDreamweaverなんか使いたいと思っていない。

Adobeのシャンタヌ・ナラヤンCEOは、「イノベーションの原動力が、これまでにない速度で動いている」と述べ、AIの重要性を強調しているのだが、今のままではAI時代に太刀打ちできない。太刀打ちどころか時代に取り残されてしまいそうだ。

Adobeは「マネタイズの旅を開始してからちょうど1年」と述べ、その効果が月間アクティブユーザー数の25%増加に表れていると主張している。だが、ウォール街はこの説明に納得していない。

多くのアナリストは、「AdobeのAIマネタイズの進展不足は、同社を明確なAIの勝者として選ぶのをますます難しくしている」と指摘する。

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AI台頭でAdobeの先進性が脅かされている

AIの急速な進化は、Adobeの先進性を根底から揺るがしている。それが、大方のアナリストの見解だ。

かつてクリエイティブ・ソフトウェア市場で圧倒的な優位性を誇っていたAdobeだが、あきらかに、その地位が脅かされつつある。AIの台頭により、Adobeの製品が持つ独自性や付加価値が薄れてきている。

AIの進化が驚異的なスピードで進んでおり、Adobeの主力製品は全方位でAIのイノベーションに競争を挑まれ、叩きのめされようとしている。ほんの2年前まで、Adobeはクリエイティブ分野では圧倒的な優位性があったのだが、今はもうそうではない。

さらに悪夢なのは、AIの広がりにより、Adobeの主要顧客層である専門的なクリエイターの仕事が奪われる可能性も指摘されていることだ。テキストひとつで画像が生成されるのだから、顧客はクリエイターに何か頼むよりも、AIで成果物を生成するほうを選ぶようになっている。

これは単にAdobeの製品の需要が減るだけでなく、同社の既存のビジネスモデル自体が根底から覆される可能性を示唆している。

Adobeの社内でも、こうした懸念が広がっているという。従来のソフトウェア開発のアプローチでは、急速に進化するAI技術に追いつくことができないのではないか。そんな不安が、社員たちのあいだで広がっているのだ。

さらに、AIの台頭により、Adobeの製品の差別化が難しくなっている点も見逃せない。かつては高度な専門性を要するソフトウェアとして知られていたPhotoshopやIllustratorだが、今やAIを活用した類似のツールで同等かそれ以上の成果物が作れる。

これらのツールの多くは、Adobeの製品よりも使いやすく、しかも無料や低価格で提供されている。

このような状況下で、Adobeが従来のような高額なサブスクリプションモデルを維持できるかどうかは大きな疑問だ。AIの進化により、Adobeの製品の独自性や付加価値が薄れれば、顧客はますますAIに流れていくだろう。

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現在、Adobeへの投資は大きなリスクを伴う

かつてクリエイティブ市場を支配したAdobeは、生成AIという未曽有の波に直面し、その地位を失う危機に瀕している。未来は、不透明で厳しいものになりつつある。このことは、投資家としての判断に重大な影響を与える要因だ。

市場予測を上回る業績を記録したにもかかわらず、株価が15%下落したのは、まさに「このままではAIに侵食される」という危機感が投資家の中に芽生えているからに他ならない。

Adobeの未来を見通すうえで重要なのは、その現状が単なる一時的な停滞ではなく、構造的な問題を抱えている点だ。

生成AIがもたらすクリエイティブ市場の変化に対し、従来の製品やビジネスモデルでは対応できない。さらに、新興企業やテクノロジー大手が次々と革新的なツールを提供する中で、Adobeはそのリーダーシップを失っている。

投資家がAdobeに求めているのは、AIを貪欲に取り込んで、圧倒的な優位性で市場をリードする企業になることだが、現在のAdobeはそうなっていない。

投資家として考えるべきは、これらの問題が解決可能かどうかである。

Adobeの歴史的な成功は、徹底したブランド力とユーザー基盤の構築にあるが、それがAI時代に通用する保証はどこにもない。同社がこれからも成長を続けられるかどうかは、生成AIへの対応次第であり、それが不透明な現在、Adobeへの投資は大きなリスクを伴うと言える。

とはいえ、Adobeには依然として強みがある。まず、世界中に広がる膨大なユーザーベースと、その中で培われたブランドへの信頼だ。Adobe製品はプロフェッショナル向け市場での圧倒的な支持を得ており、これが同社の防波堤となる可能性がある。

また、同社のクリエイティブクラウドは、生成AI時代でもデザイン業界の標準ツールとしての地位を保っている。これらの資産をいかに守り、強化するかが、今後の戦略の鍵を握るだろう。

私自身は、AdobeがAIを自社開発する以外にも、有力な企業を次々と買収してクリエイティブな分野を守り切る企業であってほしいと考えているのだが、果たしてどうなるのだろうか。Adobe製品を愛するユーザーのひとりとして、今後もその動向を注視していきたい。

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