AMDのリサ・スーCEOは「AIの広範な導入により、幅広い市場で大幅なコンピュート需要が高まっており、業界にとって非常にエキサイティングな時期となっている」と述べている。だが、投資家は冷めた目でAMDを見つめており、株価は冴えないまま放置されている。なぜか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
AMDの株価が冴えないことになっている
AI(人工知能)の時代がきている。にもかかわらず、半導体業界の巨人、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の株価が冴えない。かつては輝かしい成長を遂げ、投資家たちを魅了してきたAMDだが、今や投資家の目は完全に冷めている。
AMDは2024年10月、第3四半期の決算を発表した。一見すると悪くない数字に見えた。しかし、市場は冷ややかな反応を示し、株価は発表後一時9.88%も下落した。これはAMDの将来に対する懸念が、投資家たちのあいだで広がっていることを示す動きでもあった。
最大の要因は、第4四半期の売上高見通しだ。AMDは約75億ドルという数字を提示したが、これはアナリストの予想平均75億5,000万ドルを下回るものだった。わずかな差に思えるかもしれないが、高成長を期待されている企業にとって、この「わずかな差」が致命的になりうるのだ。
さらに、ゲーム用半導体の需要低迷も株価の重荷となっている。PCゲーム市場の停滞が、AMDの業績に影を落としているのだ。かつてAMDの成長を支えてきたこの分野が、今や足かせとなっているのは皮肉な状況だ。
一方で、AMDは人工知能(AI)分野に活路を見出そうとしている。新製品「MI300」の売上高は今年35億ドルに達すると予測されている。ところが、これも市場の期待には届かなかった。一部の投資家やアナリストは、より大きな成長を望んでいたのだ。
AMDのリサ・スーCEOは「AIの広範な導入により、幅広い市場で大幅なコンピュート需要が高まっており、業界にとって非常にエキサイティングな時期となっている」と述べている。
この楽観的な見方は、現時点では市場に共有されていない。
フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
成長率が物足りないと投資家は考えている
AMD最大のライバルはIntelだが、このIntelもまたAI競争に乗り遅れて凋落する一方であり、会社の切り売りや身売りの話まで出てきている。この状況に漁夫の利を得るのはAMDのはずだが、そのAMDも株価低迷しているのだから両社共倒れに近い。
半導体の最大の需要であるAIの分野は、NVIDIAやBroadcomがかっさらってしまって、AMDも置いていかれてしまったのだ。はたして、AMDはAIブームの恩恵を受けられるのか、それともNVIDIAやBroadcomに後れを取るだけなのか……。
AMDはIntelと違って、まずい経営をしているわけではない。今期、AMDは54億7,000万ドルの売上高を記録した。これは市場予想の54億5,000万ドルをわずかに上回る数字で、物足りないとしても赤字でも何でもない。
しかし、前年同期比で見ると8.9%の増加にとどまっている。半導体業界の急成長を考えると、この成長率は物足りないと投資家は考えている。
利益面では、一部項目を除いた1株当たり利益が62セントとなった。これも市場予想の61セントを上回っている。だが、わずか1セントの上振れでは、投資家の期待に応えるには不十分だった。
セグメント別で見ると、データセンター部門が全社業績を牽引しているのがわかる。AIブームの恩恵を受け、この部門は好調を維持している。一方で、ゲーム部門の売上高は市場予想を大きく下回った。
それよりも、投資家を失望させたのは将来予測だったのかもしれない。AMDは第4四半期の売上高を約75億ドルと予想している。これは前四半期比で約37%の成長を意味する。だが、市場はより高い成長を期待していた。
結局のところ、AMDはAI関連分野で出遅れていると見なされている。2024年時点で、AI用GPU市場の80%以上をNVIDIAが占めている。これに対し、AMDのシェアは、わずか5%程度にとどまっている。
株価の動きが良かったのは2024年3月までだ。この月にAMDの株価は新高値を達成したのだが、そのあとは約24%下落している。あまりにもNVIDIAの成長が驚異的で、投資家はAMDを捨ててみんなNVIDIAになびいた。
NVIDIAの時価総額はAMDを大幅に上回っており、AI時代の勝者として認識されている。逆にいえば、AMDは敗者として認識されているということなのだ。これがAMDの大きな問題点だ。
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
NVIDIAの牙城を崩すのは容易ではない
半導体業界はAIの登場ですべてが変わった。かつてPCやスマートフォン向けチップが業界の中心だった時代は終わりを告げ、今やAIが新たな成長エンジンとなっている。
その流れにいち早く乗ったのがNVIDIAであり、完全に出遅れたのがIntelであり、Intelほどひどくはないが追いついていけていないのがAMDなのだ。Intelはもはや手遅れかもしれないが、AMDはどうなのか?
AMDはAIアクセラレーター市場に本格参入し、「MI300」という新製品を投入した。これは、チャットボットなどのAIツール開発を支援する半導体である。AMDはこの製品で、今年35億ドルの売上を見込んでいる。
しかし、ライバル企業NVIDIAの存在があまりにも大きすぎて、「MI300」はそれほど期待されていない。MI300シリーズはたしかに技術的には優れた製品だが、市場での普及には時間がかかると予想される。その最大の理由は、ソフトウェアエコシステムの構築に時間を要するためだ。
NVIDIAのCUDAは15年以上の歴史を持ち、数百万人の開発者がこのプラットフォームで開発をおこなっている。AMDのフレームワークがこれに追いつくには、相当な時間と投資が必要となる。NVIDIAの牙城を崩すのは容易ではない。
NVIDIAという巨人に挑んでいるあいだ、AMDは主力事業であるゲーム用半導体で稼がないとならない。だが、そこでもAMDは苦戦している。PCゲーム市場の成熟化や、コンソールゲーム機の販売サイクルの影響を受けているのだ。この部門の不振が、AMDの業績を押し下げている。
そこでAMDは生き残りの戦略として、多角化を進めている。
AIだけでなく、データセンター、エッジコンピューティング、自動車向けなど、幅広い分野に進出している。この戦略には両刃の剣の側面がある。多角化によってリスクを分散できる一方で、各分野でのリーダーシップを確立するのは難しくなることだ。
投資家たちは、AMDの将来性をどう評価すべきか迷っている。AIブームの恩恵を受けられるのか、それとも競合他社に後れを取るのか。この不確実性が、株価の下落を引き起こしているのだ。
『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
長期的な成長ポテンシャルは高いのだが……
AMDの株価低迷を受け、多くの投資家が「今が買い時なのかどうか」考えている。
現在、AMDはCPU技術で長年のライバルであるインテルを凌駕したと評価されている。この点については非常に大きなアドバンテージをAMDは得た。データセンター向け半導体でも着実にシェアを拡大している。
これらの要素は、AMDの長期的な成長ポテンシャルを示唆している。
一方で、課題も山積しているのも事実だ。ゲーム用半導体の需要低迷は、当面続く可能性が高い。また、AI市場での競争は激化の一途をたどっており、NVIDIAという強力なライバルの存在が大きな障壁となっている。
株価の観点から見ると、AMDは2024年3月のピークから約24%下落して一見すると割安に見えるかもしれない。だが、AI市場で大きな優位性が手に入れられないと、NVIDIAに踏み潰される可能性もあるし、Appleと手を組んだBroadcomにもやられてしまう可能性もある。
株価がここのところずっと低迷しているのは、投資家はもうAMDにもあまり期待していないということなのだが、これを覆すためにも、AMDはAI市場で大きな優位性を手に入れる必要がある。それも早急に。
短期的には苦しい時期が続くが、AIに焦点を合わせている限り、長期的にはAI市場から大きな成長と利益が手に入れられるはずで、それが株価を引き上げるはずだ。問題は、短期的な苦境をどう乗り越えるのか、そこがはっきりしていないことだ。
AMDの投資については、長期的な成長ストーリーと短期的な業績変動のバランスを見極める必要がある。AIブームの恩恵を受けられる可能性は高いが、それがいつ、どの程度の規模で実現するかは不透明だ。
長期的な成長ポテンシャルは高い。
短期的には変動リスクが高い。
高いリスクを取れる投資家にとっては、現在の株価水準が魅力的に映るかもしれない。慎重な投資家はAMDに対しては様子見というところだろう。個人的にはAMDは好きな企業でもあるが、積極的に個別銘柄の選択対象にはしていない。