トランプ減税という「歴史的な一歩」をどのように見るか?

トランプ減税という「歴史的な一歩」をどのように見るか?

2017年12月20日、アメリカで大きな動きがあった。何があったのか。「大減税」である。個人所得税も減税になるのだが、それよりも何よりもインパクトが大きいのは法人税が35%から21%に引き下げられることである。

これによって政府は約170兆ドルの収入を失う。端的に言うと、今でも凄まじい赤字に苦しんでいるアメリカ政府がさらに借金体質になり、そして「企業がより強大になっていく」ということを意味している。

なぜ、ドナルド・トランプ大統領は政府の財政を極限まで追い詰めても、企業を肥え太らせようとするのだろうか。

それは、アメリカ企業を肥え太らせて世界支配をより強大にさせ、それによって雇用も増やし、「アメリカ第一」を実現するためである。

トランプ大統領がやっているのは、究極のアメリカ一極主義であり、その戦略的な中核を担っているのがアメリカ企業であるというのが分かる。

トランプ大統領は「経済成長を促す歴史的な一歩である」とこれを誇った。言うまでもないが、今後アメリカの企業は税制の面でも有利になり、利益を出しやすくなる。

当然、これによって優良企業は必ず自社株買いや配当引き上げを行って株主に報いる。

多国籍企業と株主がトランプ減税で利益を確保する

たとえば、ボーイングやバンク・オブ・アメリカなどはいち早く自社株買いを宣言している。

大手製薬企業ではファイザーも配当の増配と自社株買いを発表した。ファイザーは以前より自社株買いを進めていたのだが、それに100億ドルを追加し、さらに配当は6%増配される。

トランプ減税で、真っ先に、かつ確実に利益を得られるのはアメリカの企業であり、次に確実に利益を得られるのはアメリカの企業の株式を保有する株主たちである。

今までアメリカ企業は税金逃れのために本社を外国に移したり、外国で儲けた利益をアメリカに戻さないで外国に貯め込んだりしていたが、これらの資金もアメリカに戻る。

さらに見過ごせないのは、法人税が21%に引き下げられたことによって、これが世界中の多国籍企業をアメリカ本土に呼び寄せる誘い水になることだ。

アメリカの市場はより活性化し、ダイナミックなものになっていく。

これによってアメリカ通信企業大手のAT&Tなどは「20万人を超える従業員全員に1000ドルずつの特別ボーナスを払う」と太っ腹なところを見せている。

では、トランプ大統領の思惑通り、企業が富んで従業員もトリクルダウンを享受するようになっているのだろうか。

いや、それがそうではない。AT&Tは特別ボーナスを支給すると同時に推定700人以上の従業員を解雇している。今後もさらにリストラを推し進めていく予定である。

これを見れば、企業は豊かになっても、企業の合理化の意思や社員の切り捨ての姿勢は変わらないので、利益が社員に還元されるかどうかは未知数だ。

もうひとつ懸念されることがある。トランプ減税によって、最も「損する」のは税金という歳入を失ったアメリカ政府である。アメリカ政府の財政がより悪化すれば、当然だが国民に対する社会保障費は削減される。

100%確実に利益を手に入れるのは多国籍企業だけ

今の弱肉強食の資本主義では、どこまでも多国籍企業とその株主が優位に展開し、国家や労働者が相対的に弱体化しているという構図が見えてくるはずだ。

企業は14%も引き下げられた税金で、前年度と同じ税引前利益であったとしても、純利益が14%も増える。仮に1兆円の純利益を得られる企業であれば、何もしなくても1400億円も純利益が増えている計算になる。

企業は、棚からぼた餅でこの利益の増加分を手に入れることになるのだ。

もちろん、多国籍企業が莫大な利益を上げれば、税収を得る政府も、そこで働く従業員にも「おこぼれ」が得られるという理屈もある。

ところが、それがそう簡単な話ではない。

多国籍企業は、引き下げられた21%の税金をも払いたくないからである。つまり、企業にとっての至上命令は税金の支払いをゼロにすることである。

だから、わざと負債を膨らませて赤字経営に見せかけて税金を払わなかったり、海外に子会社を作って利益をそこに貯め込んだり、あげくの果てにはタックスヘイブンに利益を隠して見えなくしてしまうのだ。

つまり、理論的には「減税されたら自動的に政府や従業員にトリクルダウンがくる」のだが、現実は理論通りに動くような甘いものではなく、裏もあれば闇もある。

トランプ減税でアメリカの多国籍企業の純利益が増加するのは100%確実だが、アメリカ政府と国民が利益を得られるというのは100%の確率ではない。

こうしたことを考えると、企業の利益が増えるのだから、国家の歳入も増えて従業員も豊かになるという「理想」はほどほどに聞いておいた方が身のためだ。

多国籍企業は現代の資本主義の世界では圧倒的有利な立場にあるのだが、他はそうではない。

アメリカ企業は「伸るか反るか」の賭けとは無縁

今回のトランプ減税は多国籍企業に圧倒的に有利だ。

だから、トランプ減税に関わった共和党は、わざわざ「税金の抜け穴を埋めて、逆により厳しく税金を取ることによって歳入を増やすことに努める」と発表している。

法人税ほどではないが、個人の所得税に関しても引き下げられることが決定している。

個人所得税は税率を12%、25%、35%と簡素化され、最高税率も35%に引き下げられる。さらに単身世帯なら1万2000ドル以下、共働き世帯では2万4000ドル以下の所得の人々は「課税対象にならない」ことになった。

これだけやって、内需が拡大せず、アメリカ企業も儲けることができないのであれば、一番問題を抱えるのは誰か。もちろん、アメリカ政府である。

減税して約170兆ドルが吹き飛んだままになってしまうのだ。このインパクトは計り知れない。

失敗すればアメリカ政府は財政赤字で吹き飛ぶ。しかし、成功すればアメリカは再び繁栄を取り戻して強大な国家となる。どちらに転ぶのか、そんなことはまだ誰にも分からない。

しかし、トランプ大統領はそのリスクをすべて飲んで「やる」と決めたわけであり、国運を賭けて大きな賭けに出たということが見えてくるはずだ。

豪胆だ。「減税する」というのは大統領選での公約だったのだが、並みの大統領であればできなかったことをトランプ大統領がやったのは間違いない。

ただし、間違えてはいけないのは、賭けの俎上に上がっているのは「アメリカ政府」であって、「アメリカ企業」ではないということだ。

アメリカ企業は「伸るか反るか」の賭けとは無縁だ。トランプ減税によって利益増大が約束されたわけであり、個人所得が減税分だけ増えることから内需も期待できる環境になった。

減税は単発ではなく今後も継続されるのだから、アメリカの企業はより利益を得やすくなり、それによって株主もまた利益を手にしやすくなる。

トランプ減税が失敗すればアメリカ政府は財政赤字で吹き飛ぶ。成功すればアメリカは再び繁栄を取り戻して強大な国家となる。トランプ大統領はリスクをすべて飲んで「やる」と決めた。

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