ますます苦境に落ちていく中国経済。中国には一生投資しないくらいでちょうどいい

ますます苦境に落ちていく中国経済。中国には一生投資しないくらいでちょうどいい

不動産市場の崩壊、株式市場の低迷、国債の利回りの低下、中国にも迫る少子高齢化、働かない若者の増加、キャピタルフライト、国を捨てる富裕層、硬直して時代遅れになった中共政権の政治。そこにきて、トランプ政権の返り咲きだ。中国は相当ヤバいことになるのではないか。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

中国の10年国債利回りが近年急速に低下

中国の10年国債利回りが急速に低下している。2025年1月3日時点で、その利回りは1.611%にまで落ち込み、2000年以降でもっとも低い水準を記録した。中国経済は、いよいよ「これまでとは違う次元」に入った。

国債の利回りが低下するというのは、国債が買われているということを意味する。国債が買われているというのは、つまりどういうことなのかというと、中国人が「リスクを取りたくない」と考えていることを表している。

何と言っても中国人は資産としての不動産を好むが、すでに中国の不動産市場は崩壊してしまっている。不動産市場の崩壊が株式市場の低迷をもたらしている。

不動産に投資しても損する、株式市場も思いっきり不透明である。そのため、金融資本は投資先を失って、安全資産である国債に逃避するようになっているのだ。そして、国債が買われることによって、国債の利回りが低下している。

デフレ懸念も市場参加者のあいだで広がっている。不動産市場が崩壊し、住宅価格の下落が続いている。これが消費者の財布の紐を締めさせる結果となり、モノが売れなくなる。モノが売れなければ、商売人はどうするのか。当然、価格を下げていく。この価格が下がっていく状態がデフレである。

デフレになると、中国人は「将来はもっと安くなるかもしれない」と考え、あらゆる消費を控える。そうすると、デフレはより悪化する。デフレが悪化するというのは、企業の売上が減少し、収益が圧迫されるということでもある。

そうすると、企業は人件費削減のため賃金を引き下げ、雇用を抑制する。そうすると、若者は仕事が見つからなくなり、仕事を持っている人も企業の経営悪化で給料が上がらなかったり減ったりする。所得の減少により、さらに消費が冷え込む。

そうすると、ますます企業は苦しくなって安売りするようになり、それがまたデフレを深刻化させることになる。

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若者に無力感と閉塞感が広がる

中国の景気悪化は失業率にも現れている。特に深刻なのが若年層の失業だ。

2024年の中国人の16〜24歳の若年層の失業率は16%を超えている。この数字は同時期の日本(4.2%)や米国(7.5%)と比較して極めて高い水準であり、中国社会に大きな衝撃を与えている。

中国では、2018年から2023年の5年間で大卒者数が約400万人増加し、1,158万人に達した。この急激な増加は、就職市場に大きな圧力をかけている。これだけの新卒を受け入れるホワイトカラーの仕事がない。

多くの大卒者が高給の情報通信技術、自動車、金融業界での就職を希望しているが、これらの業界の求人は限られている。一方で、製造業や小売業などのブルーカラーの仕事では人手不足が深刻化しており、需要と供給のバランスが崩れている。

そこにきて、中国経済の成長鈍化である。大卒者が望むような高給で安定した職が、十分に創出されていない状況だ。高学歴でありながら安定した職に就けない若者たちの不満が高まれば、中国政府に対しての批判も増えていくだろう。

中国政府は、この問題に対してより効果的な対策を講じる必要に迫られている。ところが中国政府がやっているのは、情報を隠蔽したり、監視を強化し言論統制を厳しくしたり、統計の取り方を変更したりするようなものだった。

若者たちのあいだに無力感と閉塞感が広がっている。

これを象徴するのが「寝そべり族(タン・ピン)」の増加である。仕事をせず、結婚もせず、ただ寝そべって何もしない。社会参加の拒否し、社会から逃避する。そういうライフスタイルが「寝そべり族」である。

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資産と共に海外へ移住する動き

このような状況は、1990年代以降の日本が経験した「失われた30年」と呼ばれる長期停滞期に似ているとの指摘もある。中国政府はこの状況を打開するため、金融緩和や財政支出の拡大など、さまざまな政策を検討しているが、その効果は現時点では限定的だ。

不動産市場の崩壊、株式市場の低迷、国債の利回りの低下、中国にも迫る少子高齢化、働かない若者の増加、硬直して時代遅れになりつつある中共政権の政治。当然、こうした中国の状況に見切りをつける資産家・投資家・事業家も多い。

彼らが見切りをつけるというのは、どういうことか。すなわち、魅力を失った自国通貨「人民元」を売ってキャピタルフライト(資産逃避)するということである。だから今、人民元安も進んでいる。資金流出は、もうはじまっているのだ。

最近、ゴールドの価格が上昇しているが、これも経済的不確実性に対するヘッジとして購入する動きとも解釈できる。

さらに、富裕層だけでなく一般市民も資産と共に海外へ移住する動きが加速している。

2024年には約1万5,200人の中国人富裕層が、海外移住したのではないかと予測されている。これは2016年と比較して69%も増加している。移住先としては、米国やシンガポール、オーストラリアが人気だが、最近では日本を選ぶ人も増えている。

中には、違法にアメリカに渡ろうとする中国人も出てきている。

2023年には、アメリカ南西部の国境地帯で拘束された中国人不法移民の数が前年の約10倍に増加し、3万7,000人を超えた。そこまでして、「中国から逃げたい」と考えているのだ。

中国政府はこれに対して、個人投資家の海外証券へのアクセスを制限し、さらに個人の年間外貨購入限度額を5万米ドル相当に制限し、自分の外貨購入枠を他人が利用することも禁止した。そして、SNSや金融取引の監視を強化して、逃亡する自国民がいないかを見張っている。

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中国には一生投資しないくらいでちょうどいい

2025年、そしてそれ以後も、中国経済は苦しい局面が増えるだろう。

トランプは選挙公約で中国からの輸入品に60%超の関税を課すことを掲げている。トランプ次期米大統領が掲げる対中高関税政策は、中国経済に深刻な影響を与えることになる。

実際、トランプは2024年11月下旬に、就任初日に中国からの輸入品に10%の追加関税を課す大統領令に署名する考えをあきらかにしている。これは公約で掲げた60%には及ばないものの、すでに高水準にある現行の関税に上乗せされることを考えると、中国にとっては深刻だ。

中国経済はすでにさまざまな課題に直面しているが、そこに米国からの高関税が加わるのだ。中国の輸出に占める米国向けの割合は、依然として高水準にある。米国市場へのアクセスが制限されることは、中国経済全体に波及する影響を持つ。

輸出産業に大きな打撃を与え、経済成長をさらに鈍化させてしまうのは必至だ。

米中の貿易摩擦の激化は、世界経済全体にも悪影響を及ぼす。グローバルサプライチェーンの混乱や、投資の不確実性の増大などにより、世界経済の成長が鈍化するだろう。その結果、中国経済も極度の危機に落ちていく。

中国政府はこうした事態に対し、米国からの輸入品に対する報復関税や、輸入車関税の引き上げ、農産物への報復などの措置を検討している。しかし、こうした報復措置は米中の貿易摩擦をさらに激化させ、最終的には中国経済自体にも悪影響を及ぼすことになる。

こうした状況を俯瞰すると、中国経済は今よりも悪化していくことになるのは避けられない。今後、中国の株式がどれだけ安くなっていったとしても、中国に投資すべきではないというのがわかる。

中国には一生投資しないくらいでちょうどいい。

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