従来の大型原子力発電所に比べて設置が容易で、安全性も高いとされるSMRは、生成AIの急速な普及による電力需要の高まりに対応するための革新的な解決策として位置づけられる。この分野で先端をいく企業のひとつがオクロ社【OKLO】で、OpenAIサム・アルトマンが会長である。
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
小型モジュール原子炉で先頭を走る企業
現代社会における電力需要の急増は、生成AIやクラウド技術の普及によるものだ。
特に、NVIDIAの高性能チップを活用したデータセンターの稼働により、GoogleやMicrosoftといったビッグテック企業の電力使用量は過去数年間で40%~50%増加している。このような状況下で、再生可能エネルギーでは需要を満たしきれないという現実が浮き彫りになっている。
その中で、注目を集めているのが、小型モジュール原子炉(SMR: Small Modular Reactor)である。
従来の大型原子力発電所に比べて設置が容易で、安全性も高いとされるSMRは、生成AIの急速な普及による電力需要の高まりに対応するための革新的な解決策として位置づけられる。
特に、オクロ社【OKLO】はこの分野で先端をいく企業のひとつであり、その技術と市場展望はエネルギー分野の未来を大きく左右すると言っても過言ではない。同社の会長は、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンである。
これまで、自然災害や事故によるリスクが議論の中心であったが、SMRの出現により安全性が大幅に向上し、社会的な受け入れも進む可能性がある。
オクロが提供するSMRの最大の利点は、設置場所の自由度の高さにある。従来型原発では困難だった遠隔地や都市部にも設置可能で、電力需要が集中するデータセンターの隣接地に直接配置することで、効率的なエネルギー供給が可能になる。
さらに、SMRは工場で製造されたモジュールを現地で組み立てるため、従来の原子力発電所に比べて建設期間が短く、コストも抑えられる。この特徴は、生成AI時代において柔軟かつ迅速な電力供給を求める現代社会のニーズに合致している。
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オクロ自身も年初来123%の上昇を達成
オクロは2015年からSMRに取り組み、わずか4年で米エネルギー省からの使用許可を取得するなど、技術開発において迅速かつ着実な進展を遂げている。
同社が手掛けるSMRは、燃料補充なしで最大20年間稼働可能であり、この点でも他の競合製品を大きく引き離している。このように、オクロとSMR技術は、エネルギー需要の激増や環境問題の解決策として極めて重要な存在である。
まず、2024年10月にオクロの株価がわずか5営業日で2.2倍に上昇した。
この動きの背景には、GoogleやAmazonなどのビッグテック企業による原子力発電への投資発表がある。
これにより、オクロだけでなく他の原子力関連株も急上昇し、たとえばナノニュークリアエナジーが520%、ニュースケールパワーが453%、ビストラエナジーが267%の年初来上昇率を記録している。オクロ自身も年初来123%の上昇を達成しており、市場からの期待が伺える。
オクロが提供するSMRの発電量は300メガワット以下で、従来型原発の約1ギガワットと比較すると小規模だ。
だが、この発電量は都市部のデータセンターや遠隔地における電力需要を賄うには十分であり、その柔軟性が高く評価されている。また、SMRは設置コストや運用コストを削減できるため、商用化に向けた競争力がある。
一方で、生成AIの普及に伴う電力需要増加は著しい。Microsoftは2020年から2023年にかけて電力使用量が40%増加し、Googleも2019年から2023年のあいだに50%増加した。この背景には、AIチップを大量に搭載したデータセンターの建設ラッシュがある。
Microsoftはスリーマイル島の原子力発電所を再稼働させ、Googleは2030年までにSMRを稼働させる計画を発表。Amazonも非上場のXエナジーに5億ドルを出資するなど、大規模な投資を実施している。
これらの投資活動は、SMRの市場価値を大きく押し上げる要因となっている。
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オクロのSMRは、他の原子力技術と異なる
オクロのSMRは燃料補充なしで最大20年間稼働可能という特徴を持つ。
従来型の原子力発電所では数年ごとの燃料補充が必要だったが、この点でオクロは技術的な優位性を確立している。また、2030年にはSMRの本格商用化が見込まれており、これにより原子力発電市場全体がさらに拡大する可能性がある。
オクロのSMRが他の原子力技術と異なる点を詳しく見ていこう。
まず、SMRの最大の特徴は、そのモジュール化された設計にある。従来の原子力発電所は、設置場所の選定や建設に多大な時間とコストがかかったが、SMRは工場で製造されたモジュールを現地で組み立てるため、効率的な設置が可能だ。
この柔軟性により、SMRはデータセンターや都市部、さらには電力供給が困難な遠隔地にも適用できる。
また、SMRの安全性も従来型原発と大きく異なる。SMRは冷却設備を炉心に内蔵しており、冷却材の循環が停止しても自然対流による冷却が可能である。
この設計により、福島第一原発事故のような冷却装置の故障による重大事故のリスクを大幅に軽減している。また、小型化により発熱量が抑えられるため、冷却の必要性自体が低い。
驚くべきことに、オクロのSMRは20年間の燃料補充が不要だという。これにより、運用コストが削減されるだけでなく、使用済み燃料の処理問題も20年間発生しない。
ただし、使用済み燃料の最終処分や廃棄物管理が依然として課題として残る。高速炉技術の活用により、使用済みプルトニウムの再利用が可能になるが、これも完全な解決策とは言えない。
原子力反対派からは、このあたりを批判・攻撃されるかもしれない。
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オクロの将来性は素晴らしいものがある
ただ、技術的に優れていても、SMRの普及は難航するだろう。原子力技術への根強い不安感や、規制当局の認可プロセスや、地域住民の反対意見が普及の障壁となるはずだ。また、SMRは大量生産によるコスト削減が求められるが、これを実現するには市場全体の需要拡大が必要となる。
こうした懸念材料はあるのだが、全体的に見るとオクロの将来性は技術的優位性と市場環境の追い風を受けて極めて明るいと思える。
特に、生成AI時代における電力需要の高まりに対応できる唯一の現実的なソリューションとして、SMRの重要性が際立っている。
オクロは、2015年の設立以来、短期間で技術開発と規制当局の認可取得を進め、2026年には商用炉の稼働を予定している。
このスピード感は、エネルギー分野での競争が激化する中で大きなアドバンテージとなる。また、同社が開発したSMRは、燃料補充不要で最大20年間稼働可能という特徴を持ち、他の競合技術を凌駕している。
AmazonやGoogle、Microsoftといった企業がSMR技術に注目しているのは、生成AIとクラウドサービスの成長を背景にした電力需要の急増に対応するためだ。これらの企業がオクロに注力することで、同社の商業的成功が一層現実味を帯びている。
同社の技術とビジョンが実現されれば、電力供給の新しいパラダイムが形成されるだろう。そして、それは単なる企業の成功に留まらず、地球規模のエネルギー問題の解決に寄与するものとなる。
オクロが掲げる未来図には、大きな可能性と期待が込められている。これからの数年間で、同社がどのような成果を挙げるのか注目していきたい。