現在はまだ新しく株式市場に入ってくるリテール投資家には多幸感が蔓延しているし、マスコミも相変わらず投資を煽っているので、2025年も意外なまでに上昇相場が続くかもしれない。しかし、プロの投資家たちが一様に身構えているのが興味深い。どう考えるべきか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
極端な楽観論は姿を潜めつつある
米モルガン・スタンレーのストラテジストらによれば、インフレへの根強い懸念から米国債利回りが大幅に上昇し、ドル高も進行する可能性が高まっていると述べる。
実際、米国債10年物の利回りは現在4%台後半へと駆け上がっている。
利回り上昇という現象は、国債側の金利が魅力的になることを意味しているわけで、そうなれば株式との比較において投資家は自ずと国債に目がいく。
株価がこれまで急上昇を遂げてきたのは、今後は金利が下がっていくという予測があったからである。ここが崩れるのであれば、米国株式市場の上値は重くなるのは当然のことである。
もうひとつ、インフレ警戒感の高まりだけでなく、ドルの一段高も株式全体に重くのしかかっている。
輸出企業やグローバル展開の進む米国企業にとって、ドル高は海外売上を円換算した際の収益を圧迫し、企業利益の伸びを鈍化させる。さらに、輸入コストの上昇や原材料価格の混乱など、サプライチェーン全般にわたる不安要因もある。
市場を見渡せば、債券と比較した株式は「約20年ぶりの割高水準」にあるという見方も多い。株式と債券の利回り比較という基本的な評価軸は、多くの機関投資家やヘッジファンドが資産配分の決定をおこなう際に拠り所とする重要な指標だ。
たとえば、債券が無リスクに近い形で4%超の利回りを提供してくれる状況なら、それを上回るリスクを負って株式に投資する魅力がどこまで残っているのか疑問符がつくのは自然な流れといえる。
ゆえに「リスクを負うよりは、黙って債券を保有していればよい」という選択が市場の一部で支持を得ている構図が生まれ、すでに株式に対しては極端な楽観論は姿を潜めつつある。
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上昇エネルギーを削いでいく要因
金融機関やストラテジストらの発信する警戒感も、ますます強い調子を帯びはじめている。モルガン・スタンレーが向こう6か月は厳しい局面を予期すると警鐘を鳴らすとともに、かつての強気派が修正的な見解を発表する場面も散見される。
強いドルと上昇する金利は、株価に内在していた上昇エネルギーを削いでいく要因となりうるため、長年にわたり米国市場に投資してきた層にとっても、かつてのような明るい見通しを語りにくくなっている。
バリュー投資家のハワード・マークスも警鐘を鳴らしている。彼はCNBCのインタビューにおいて、米国株式市場にはバブルの芽が確実に伸びはじめているとし、投資家は高止まりした市場評価を見逃すべきでないと強く訴える。
やはり、株式の益利回りが債券利回りと比較して極端に低くなってきた現状を指摘しており、この大きな格差が、市場の過熱状態を明確に示唆している。
つまり、企業の業績が頭打ちになったり、経済見通しに陰りが出はじめたりすれば、この格差は市場における資金移動を急激に引き起こし、株価の大幅調整へとつながるというのだ。
さらに、ニューヨークに本社を置く投資銀行ジェフリーズのアナリストも、「AI技術への過剰な熱狂とリテール投資家の勢いが、株価を持続不可能な水準まで押し上げている」と分析している。
たとえAI関連銘柄が長期的には優位性を確保するにせよ、短期の急激な評価の高まりは、いずれ反動を伴うと厳しく見ているわけだ。その典型としてパランティア【PLTR】を挙げている。
こうした状況の中、巨大ヘッジファンドを運用するダン・ナイルズのように、2025年に入って現金保有を選ぶ投資家は少なくない。ダン・ナイルズも、いずれ同様の市場調整が訪れると読みを立てている。
高金利の環境下では、機関投資家も短期金融市場やMMFを利用することで4%前後の利回りを確保できる。そのため、株式へのエクスポージャーを減らすのは合理的な判断なのだ。
安定的な利息収入を確保しながら、株価が急落するタイミングをじっくり待つという戦略をとる投資家が増えれば、短期的な株式市場の売買代金が細り、ボラティリティが高まって下振れを誘発す。
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プロの投資家たちが一様に身構えている
現在はまだ新しく株式市場に入ってくるリテール投資家には多幸感が蔓延しているし、マスコミも相変わらず投資を煽っているので、2025年も意外なまでに上昇相場が続くかもしれない。しかし、プロの投資家たちが一様に身構えているのが興味深い。
プロの声を集約すれば「利回りの上昇と強いドルが株式バリュエーションと企業利益を圧迫し、市場に打撃が及ぶ可能性がある」という結論に収束していく。
2025年はトランプ第二次政権の発足ともなるが、「何をするのかわからない大統領」の再登板で、国際情勢の不透明感も際立っていく。
折しも世界の地政学的リスクは高まっているわけで、各国のエネルギー政策や産業構造が揺らぐなか、トランプ大統領の関税政策と脅し外交で国際貿易や供給網にも亀裂が走っていくだろう。
為替相場の急変動や資源価格の乱高下は、覚悟しなければならない。
こうした混乱要因が予測されているわけで、プロの投資家の心理には「いまは過剰なリスクを負う段階ではない」という慎重さが芽生え、株式市場に積極的な買いを入れるインセンティブが大きく削がれている。
おそらく、遅かれ早かれ個人投資家の動向も変化していくだろう。
彼らはパンデミック期には、リテール投資家らがオンライン証券を活用し、積極的に市場へ資金を投入していた。しかしインフレ圧力が続くことで生活コストが上昇し、可処分所得を投資に振り向ける余力は縮小しているとの指摘がある。
今はAIブームがメガテックを押し上げているが、このバブルに近い過剰な熱狂が冷めたあとには、残されているのは過剰な評価の剥落しかない。山が高かった分、谷は深くなる。
一時的な材料で株価が反発する場面もあるはずだ。だが、その裏側でFRBの金融政策の流動化、地政学的リスク、為替動向、プロの投資家の慎重姿勢が起きていて、市場を不安定化させる要素が積み重なっていこうとしている。
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リスクを減らしていくことを心がける
べつに2025年には絶対に米国株式市場は下がるといっているわけではない。「状況を総合して見渡すと、米国株はかつての上昇局面を支えた数々の下地が崩れはじめている」といっている。
インフレと金利上昇という二重の圧力にさらされ、投資家の心理が冷え込むのは明白だ。たとえAIやハイテク関連が将来的に有望であれ、短期的には市場評価が過度に先走りしているのだから、ここでも揺り戻しがくる。
不確定要素が重なり、景気後退懸念がひとたび高まれば、株式というリスク資産からの資金流出が一気に加速する。
現行の高水準な株価を正当化するには、高成長と安定収益、そして企業の利益成長が欠かせない。しかし、金利上昇やドル高という条件下では、企業の業績見通しや株主還元策が失速しやすい。
ちなみに、とめられないインフレと金利上昇の局面では、メガテックならびに成長株がもっとも売り叩かれる。かつてのITバブル崩壊を想像する投資家も増えてきているが、たとえそうならなくても、長期的な停滞局面に突入するシナリオは十分にある。
こうした相場環境の中では株式にフルインベストせず、利確できる銘柄は早めに利確しておいて、リスクを減らしていくことを心がけたほうがいい。コア・サテライト戦略で株式を保有している投資家であれば、コアは残しておいて、サテライト部分を現金化してリスクを軽めにしておくのがいいのだろう。
相場が上がればコアで利益が得られるし、相場が下がれば手元の現金がモノをいう。
想定以上にまで相場が上昇して評価がパンパンに膨らんだら、今度はその現金でショートに賭けることもできるようになる。あるいは、相場が崩落したあとに「墓場のダンサー」のごとく、暴落した優良企業の株を安値で拾うこともできる。
2025年は利益を最大化するのではなく、生存率を最大化するほうがメリットがある。