
ドローンは各国の軍部のみならず投資家の注目をも集め、ドローン技術への資本投下が世界的に加速している。無人機の群れを統括するシステム開発も進められており、複数のドローンが連携して標的を囲い込むシーンも現実のものとなった。ドローンは軍事における空の支配権を再定義しつつある。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
これからはドローンの時代。特に軍事面では
ドローンの時代が到来して久しい。特にウクライナ・ロシア戦争では、偵察や監視、攻撃に至るあらゆる任務でドローンの活躍が顕著となり、従来の有人兵器や有人航空機を補うのみならず、その存在感を飛躍的に高めてきた。
従来型の兵器システムが大規模なインフラや人的資源を必要としていたのに対し、無人航空機システムはコスト削減や被害の低減を可能にするため、軍のオペレーションに革命的な変化をもたらしている。
たとえば、遠隔操作を通じてリスクを下げながら、戦場や敵拠点の詳細な情報収集が実施できる点は極めて重要だ。これまでの戦闘では得られなかったリアルタイムな映像や熱画像データが指揮官の意思決定を支え、戦況を大きく左右する。
さらに、発展を遂げつつあるAI技術と組み合わせることで、敵の動向を自動検知し、精密誘導爆撃を実行するドローンすら実用化が視野に入っている。ロシアでは北朝鮮の兵士が投入されたのだが、次々とドローンの餌食となって殺害されていき、生き残った兵士は恐怖に震えて使い物にならなくなっている。
世界各国の軍事費のかなりの割合が無人機研究へと振り向けられており、ドローンの存在は一時的な流行ではなく、今後も拡大が見込まれる分野となっている。
こうした軍事領域での需要拡大に伴い、各国の防衛関連企業や新興企業はさらなる技術開発に注力し、競争は日増しに激化している。
将来的には有人機では到達しづらい地域での兵站支援や作戦支援にもドローンが積極的に投入される可能性が高く、いずれは空だけでなく地上・海中も含めた無人システム全体が戦闘の中核を担う時代が訪れる。
特に中東や東欧など軍事的緊張が絶えない地域では、ドローンによる偵察や攻撃の重要性が増しており、事実として複数の紛争で実戦投入され、顕著な戦果を収めているとの報告がある。
フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
エアロ・バイロンメント社
こうした成功事例は、各国の軍部のみならず投資家の注目をも集め、ドローン技術への資本投下が世界的に加速している。一部の国では無人機の群れを統括するシステム開発が進められており、複数のドローンが連携して標的を囲い込むシーンも現実のものとなった。
ドローンは軍事における空の支配権を再定義しつつあり、各国政府がこぞって高度な無人機システムの開発を支援している。
軍事におけるドローン利用が拡大することで、技術に裏づけられた新兵器の開発競争はさらに激化し、その恩恵を享受する企業や投資家にも新たなビジネスチャンスが生まれてきている。
軍事ドローンの分野で注目すべき企業をいくつか挙げたい。明日の巨大軍事企業の一角を担うかもしれない。
まず、米国に拠点を置くAeroVironment Inc.(エアロ・バイロンメント)がある。
同社は無人航空機システムの設計・製造において長い実績を持ち、特に固定翼ドローンの技術開発で名高い。小型戦術ドローン「Raven」や携帯型の攻撃用ドローン「Switchblade」など、軍事・特殊作戦向けの機体を提供している点が大きな特徴だ。
Switchbladeは、ウクライナの戦場で自爆ドローンとして活躍しており、多数の兵士を爆殺している実績があり非常に評価が高い。
これらのドローンは携行性と運用の容易さが評価され、偵察から攻撃まで幅広い用途に対応できることから、多くの国の軍隊で採用されている。さらに同社は研究開発に積極的で、3Dプリント技術を活用した機体の軽量化や生産効率の向上にも取り組んでいる。
こうした取り組みの結果、迅速なプロトタイプ開発が可能となり、軍事的要求が高い現場のニーズにも柔軟に対応してきた経緯がある。また、AeroVironmentは米国政府とのコネクションが深く、国防総省からの契約獲得実績も豊富だ。
とりわけAeroVironmentは小型ドローン領域において他社の追随を許さないレベルのノウハウを有しているため、市場拡大が見込める状況下で企業価値の上昇余地も大きいと考えられる。
無人機市場全体で見ると、中国企業のDJIが民生用ドローンの分野で強大なシェアを握る一方、軍事分野や特殊用途ではAeroVironmentが独自の地位を築いている点が重要と言える。
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
テレダイン・フリアー、そしてクラトス
広範な産業・防犯・捜索分野でも重宝されるドローン技術を提供している企業の例として、他にもTeledyne FLIR(テレダイン・フリアー)や、Kratos Defense & Security Solutions, Inc.(通称クラトス)を挙げることができる。
テレダイン・フリアーは、高性能な赤外線カメラ技術を誇ることで知られており、世界的な赤外線イメージングの先駆者と言える存在だ。
従来、赤外線カメラはコスト面から軍事や科学捜査分野での利用が中心だったが、ドローンの普及によって建築点検や農業、災害時の人命捜索など、多様な分野での需要が急伸している。
その中でテレダイン・フリアーは、各種ドローンプラットフォームと連動する赤外線モジュールを提供し、広域監視や温度解析など高度なソリューションを実現してきた。特にDJIとの協業によるドローン搭載型の赤外線カメラは、消防や警察が火災現場や捜索救助に活用する実績を積み重ねており、信頼性の高さが評価されている。
企業としては、テレダイン・フリアーがもともと持っていたセンサー技術の強みをドローン市場に組み込むことで、収益源を拡大する狙いがあると推測される。
投資家にとっては、赤外線センサーという特殊かつ高付加価値の部品を強みに、軍事と民間の両分野で需要を得る同社のビジネスモデルが魅力的に映る。社会インフラの点検やセキュリティ強化など、非軍事分野でも拡大余地は大きく、今後も市場をリードしていく可能性は高い。
一方、クラトスは高性能な無人航空機(UAV)やターゲット・ドローンなどを開発・製造している米国の防衛関連企業である。
具体的には、空軍向けの超音速ターゲット・ドローンや、ステルス性・自律性を追求した実験機「XQ-58A Valkyrie(ヴァルキリー)」などが代表例として挙げられる。これらの機体は主に軍事用途を念頭に設計されているため、クラトスはドローンメーカーとしても重要なプレーヤーのひとつである。
興味深いのは、極超音速ドローン「DART AE」の開発だ。すさまじいスピードで飛んでいって敵のレーダーに捕捉されることもなく敵地に侵入して、標的を破壊することが可能になる。
『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
DJIの牙城を崩す企業が現れてほしい
上記以外に、大手ではロッキード・マーティンやノースロップ・グラマンが無人機の流れでドローンも製造している。投資できるドローン企業としてまとめると、以下の通りである。
Aero Vironment Inc【AVAV】
Kratos Defense and Security【KTOS】
Teledyne FLIR LLC【TDY】
Lockheed Martin Corporation【LMT】
Northrop Grumman Corporation【NOC】
世界のドローン市場を俯瞰すると、中国のDJIが圧倒的なシェアを誇っていることは周知の事実だ。一般消費者向けから商業・産業用途に至るまで、あらゆる価格帯と機能でラインナップを揃え、高品質な製品と多彩な周辺サービスによって市場を事実上独占してきた。
その背景には、中国政府の政策支援や豊富な資金力、そして研究開発のスピードなどがあり、一朝一夕に他社が追い抜けるようなものではない。
しかし、安全保障や知的財産の観点から、中国製ドローンの利用を制限する国や企業が増えていることも事実である。軍事・防衛用途に関しては、データの取り扱いに慎重を期す必要があるため、DJI機を敬遠する動きが加速している。
その結果、欧米や日本の防衛関連企業、あるいは新興スタートアップが独自の技術やAI解析などを武器に、DJIに挑戦しようとしている。
そこに、エアロ・バイロンメント、テレダイン・フリアー、パロットのように、それぞれ強みとなる分野を押し出して少しずつシェアを奪取しようとする企業が存在感を放つようになってきているというのが今の図式だ。
とりわけ米国市場では、政府調達の要件や規制の問題がDJI製品の導入を困難にしており、米国系メーカーの軍事・公共分野への参入が促進される流れができている。
いずれにせよ、ドローン市場の競争が激化するにつれ、より多様な選択肢がユーザーにもたらされることになるだろう。そしてその過程で、DJIの牙城を崩す新たな勢力が台頭する可能性はけっして否定できない。
この中からパランティア【PRLT】のようなモンスター企業が誕生することを願っている。
