トランプ大統領の国家エネルギー非常事態宣言。エネルギー産業への投資はありか?

トランプ大統領の国家エネルギー非常事態宣言。エネルギー産業への投資はありか?

トランプ大統領の国家エネルギー非常事態宣言は、バイデン前政権の気候変動対策を完全に否定し、化石燃料の生産拡大を目指す明確な意思表示である。エネルギー市場への影響も無視できない。実際にそれが実現すると、化石燃料関連企業に大きな利益をもたらすことになる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

国家エネルギー非常事態宣言

ドナルド・トランプ大統領が2025年1月20日の就任演説で発表した「国家エネルギー非常事態宣言」は、米国のエネルギー政策を根本から覆す大胆な一手だ。この宣言は、バイデン前政権の気候変動対策を完全に否定し、化石燃料の生産拡大を目指す明確な意思表示である。

トランプは「アメリカは地球上のどの国よりも大量の石油とガスを保有しており、我々はそれを使う」と断言しており、「エネルギー生産の拡大が経済再生の鍵だ」と主張している。

この宣言により、連邦政府所有地での新たな石油・ガス開発が促進され、バイデン政権下で導入された気候変動関連規制が撤廃される見込みだ。さらにトランプは「EV義務化」と呼ぶ電気自動車優遇措置の撤廃も明言している。

「私の行政措置によってグリーン・ニューディールを終わらせ、EV義務化を撤廃し、自動車産業を救い、偉大な米国の自動車産業労働者に対する約束を守る」

この方針もまた、従来の環境政策からの完全な転換を示している。

国家エネルギー非常事態宣言は、大統領に150もの特別な権限を与えることになる。これには、原油輸送に関する特別な権限や、発電・送電の方法変更を指示する権限も含まれる。

トランプ大統領の就任式には、人工知能(AI)に邁進するメガテックのCEOたちも軒並み顔を揃えていた。彼らの全員は新政権がデータセンター運営に伴う電力需要の増加に対応して欲しいと願っている。

その意向を反映したのか、トランプは大規模発電所やAI向け発電所の建設を促進する意向を示している。

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非常事態を取り巻く複雑な状況

トランプ新大統領の国家エネルギー非常事態宣言は、米国の外交、経済、環境政策全般に大きな影響を及ぼす。

国際的には、この宣言は気候変動対策に逆行する動きとして批判を浴びる可能性が高い。パリ協定からの離脱をふたたび示唆するトランプの姿勢は、間違いなく国際社会との軋轢を生む。

アメリカ国内でも、この宣言は賛否両論を巻き起こすことが予想される。

実際、トランプの前回の大統領在任中は、不採算の石炭火力発電所や原子力発電所の廃止を阻止しようとした試みは失敗に終わっている。今回の宣言が実際にどの程度の影響力を持つのか、注視が必要だ。

化石燃料産業や自動車産業の労働者からは歓迎される一方、環境保護団体や再生可能エネルギー産業からは強い反発が予想されるのだ。また、連邦政府所有地での開発促進は、環境保護と経済発展のバランスを巡る議論を再燃させる。

エネルギー市場への影響も無視できない。トランプの政策は短期的には化石燃料の供給増加と価格低下をもたらすかもしれない。しかし、長期的には投資の不確実性を高め、エネルギー市場の不安定化を招く恐れもある。

とは言っても、AIの急速な普及に伴う電力需要の増加への対応は避けて通れない。

トランプは「我々はすでに有しているエネルギーの2倍を必要としており、最終的にはさらに多くのエネルギーが必要になる」と主張しているのだが、これは正しい。現在、エネルギー供給の拡大はアメリカ最大の課題となっている。

世界のデータセンターの総エネルギー消費量は、2022年は約460テラワットだったが、2026年には約1,000テラワットとなり、2022年の2倍以上となる。約1,000テラワットというのは日本の年間総電力消費量にほぼ匹敵する。

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非常事態宣言で利益を得る企業

いずれにせよ、データセンターは電力を爆食いする。トランプ大統領はそれを化石燃料でまかなうつもりだ。当然、国家エネルギー非常事態宣言でそれが実現すると、化石燃料関連企業に大きな利益をもたらすことになる。

まず、石油・ガス生産企業が最大の受益者となるだろう。

連邦政府所有地での新たな開発が促進されることで、エクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップスなどの大手石油会社や、パイオニア・ナチュラル・リソーシーズ、EOGリソーシーズなどのシェールオイル・ガス生産企業が恩恵を受ける。

もちろん、バフェットの投資しているオキシデンタル石油にも恩恵があるだろう。

石油サービス企業も恩恵を受けるだろう。シュルンベルジェ、ハリバートン、ベーカー・ヒューズなどの企業は、石油・ガス生産の増加に伴い、サービス需要の増加が見込まれる。

パイプライン企業も大きな利益を得るのは予測できる。エネルギー輸送の需要増加に伴い、エナジー・トランスファー、キンダー・モーガン、ウィリアムズ・カンパニーズなどのミッドストリーム企業の収益が増加するはずだ。

石炭産業も復活の兆しを見せるかもしれない。たとえば、ピーボディ・エナジー、アーチ・リソーシーズ、アライアンス・リソース・パートナーズなどの石炭生産企業が、規制緩和により競争力を取り戻すかもしれない。

発電所建設の促進により、電力会社も恩恵を受けるだろう。デューク・エナジー、エクセロン、サザン・カンパニーなどの大手電力会社が、新規発電所建設プロジェクトで利益を得る。

自動車産業では、EV義務化の撤廃により、従来の内燃機関車を主力とするゼネラル・モーターズ、フォード、ステランティスなどが息を吹き返す。

しかし、これらの企業の利益は、政策の実際の実施状況や法的課題、市場の反応によって大きく左右される。また、トランプが退任する4年後以降はどうなるのかわからない。過度に楽観的な見方は危険かもしれない。

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ETF【VDE】や【XLE】は注目に値する

トランプ大統領の国家エネルギー非常事態宣言を受け、投資家はエネルギーセクター全体を再評価する必要がある。たしかに、政策の不確実性や法的課題、国際情勢の変化などの問題はあるが、今日から時代は大きく変わった。

上記の個別企業に投資するのも面白いが、エネルギー石油産業に投資するETFとして、ETF【VDE】や【XLE】は注目に値する。

【VDE】は、米国の石油・ガス関連企業のインデックスに連動し、石油リグ、探査、生産、精製を手掛ける企業に幅広く投資している。大・中・小規模の米国エネルギー企業を包括的にカバーしており、セクター全体への投資を可能にする。

【XLE】はS&P 500のエネルギーセクターに属する企業を対象とするETFであり、エクソンモービル(XOM)やシェブロン(CVX)といった大手石油・ガス企業への投資比率が高いのが特徴だ。

【XLE】はS&P 500に含まれる大手企業のみを対象とするため、時価総額の大きい企業に集中投資する形となる。一方、【VDE】は大・中・小規模のエネルギー企業を広くカバーしているため、エネルギー市場全体の動きを捉えやすい。

ただ、いずれにしても投資家は以下の点に注意する必要がある。

まず、政策の実際の実施状況や法的課題により、トランプ大統領が思い描くように物事が進まないかもしれない。また、国際的な気候変動対策の流れに逆行する政策であるため、トランプ以後はどうなのかも流動的だ。

さらに、エネルギー価格の変動リスクも考慮すべきだ。供給増加により価格が下落すれば、生産企業の収益性が悪化する。また、再生可能エネルギー技術の進歩により、長期的には化石燃料の競争力が低下するかもしれない。

すでに新しい時代は動き出している。トランプ大統領の国家エネルギー非常事態宣言は、エネルギーセクターに大きな変化をもたらすのは確実だ。どうなるのか、注目していきたい。

ちなみに、私自身は原子力発電に強気で、今後は人工知能と共に原子力発電の時代がやってくると思っている。サム・アルトマンが会長のOKLOなどに注目している。(ダークネス:OpenAIサム・アルトマンが上場させた次世代小型原発「オクロ社」とは?

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